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美山有機農業推進協議会 村田正夫
課題の多さに戸惑う

2〜3日前のこと、マイナス4度、まだ薄暗い6時30分ですが、積もっている雪は見えます。計ってみると約10センチ。いよいよ本格的な冬の到来です。


土を寄せて荒く耕す「ディスク耕」をした自然農法の田んぼ
秋すきの終わった田んぼは、ひたすら春を待ちます。稲ワラやEMボカシ、EM活性液などを投入することによって、春からの旨い米づくりをするためのエネルギーを蓄えるのです。路地の畑では、ハクサイやダイコンなどを雪の中から掘り起こし、直売所などに出荷します。最近は都会でのイベントなどで声がかかりますので、美山町の特産品と一緒に出向いての販売も増えてきました。しかし、これには集荷や輸送、販売の人件費などのコストが大きくのしかかります。生産とともに、流通も避けて通れない課題になってきました。

農業者の弱点である流通をどうするかは、これからの有機農業の推進と普及にとって大きな問題です。「JAは担ってくれない」「直売所を自力で確保し、運営する力はない」「少量多品種の輸送システムはない」などの課題が浮かび上がってきました。それ以外にも、技術の確立や資材の統一、広報、販路開拓、協議会構成団体の役割遂行・連携などやるべきことは多岐にわたります。

モデルタウンに認定されてから2年間。まじめに着実に取り組んできた自負はありますが、組織として、普及を図る運動体としての課題の多さに戸惑う昨今です。

数字に歴然とした成果が

しかし、この2年間を振り返ってみると、自らが言うのはおこがましいのですが、数字に歴然とした成果が現れています。


都市交流の一環として現地直売会も頻繁に行う
まず有機農業に取り組む農家そのものの数が、2年前の30戸から51戸へと70%増え、作付面積も、水稲が3.5haから4.9ha(+40%)、野菜が1.5haから1.9ha(+27%)へと拡大しています。一方生産量も、水稲で13tが18t(+38%)に、野菜で30tが36t(+20%)にと増加しています。特に注目なのは年間販売額で、水稲500万円が900万円と、何と80%も伸びています。同じように野菜も1300万円が1900万円(+46%)と大きく伸びています。

小さな営みであった有機農業が、一大事業へと発展していく胎動を実感するこれらの数字は、まぎれもなくモデルタウンの取り組みが功を奏しています。最初に地域内の有機農業の現状把握から始まり、5か年先の目標を明らかにしていきました。さらに具体的に1か年ごとの実施計画を樹立し、Plan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(再計画)のローリング方式を地道に取り組んだのです。


「地域の未来を拓く有機農業」と題して行われた稲葉氏の講演会
今までやれなかった事業にも果敢に挑戦し、稲葉光圀先生の講演会やほ場巡回、橋本力男先生の野菜の培養土づくりと育苗講習会や共同堆肥づくり講習会、木嶋利男先生のコンパニオンプランツの講演会と多彩な講師を招いての学習会が行えました。これもモデルタウンに認定されたお陰であり、よくこんな遠方まで足をはこんでいただいたものだと感謝しています。もちろん、今までならその費用も出せませんでした。

嬉しいことには、いずれの会も参加者が多かったことです。地味な取り組みである有機農業の講習会自体がなかなか実施できない中で、稲葉先生の時は2日間で108人、橋本先生の時は56人、木嶋先生の時は80人の熱心な受講者で、会場は熱気に溢れました。市内各地から偏りなく来られた参加者は、初めて顔を見る人もいて皆で驚いたものです。

また、自然農法で米づくりをしている鶴ヶ岡小学校と、消費者交流会に参加した子どもたちを対象に「田んぼの生き物調査」も行いました。EMボカシ・EM活性液づくりや、代かき講習会、水見棒づくりなども小まめに行いました。

お互いの田んぼを見学し合って、現場で生きた学習を行う「互見会」はなかなか好評で、常に20人前後が集まりました。認証野菜を中心とした消費者交流も積極的に行い、美しい景観と素朴な人情に触れていただくとともに、ほ場や野菜をつぶさに見学いただきました。


近隣市町村からの視察も数多くある
先進地視察として(財)自然農法国際研究開発センター京都農場の視察もしました。逆に、美山町には多くの人が視察に来られ受け入れもさせていただきました。かつて100人にも満たなかったそれらの合計参加者数は、1年目に510人と激増し、今年はすでに540人を越えています。仕掛ければ動きが生まれ、必ず結果がついてくるのだと、改めて数字を見ながら納得しています。

有機農業に大きな期待

1年間ご愛読いただきました「かやぶきの里便り」も最終章となりました。

私は、専業農家でもなく普及員でもなく、研究員でもありません。しかし、米づくりを中心に仲間と自然農法に取り組み、小売業も営み社会活動も行っています。多様なアングルから見つめる目は私の特権です。その目から見た「自然農法」は、まさに日本と日本人の文化にピッタリだと確信しています。

自然と共生し、土の力や水の力、自然の仕組みを利用しながら行う有機農業は、勤勉で巧緻、工夫を怠らない日本人に最適と言えます。有機農業に人材と資金を放り込み、単に普及と推進を図るに止まらず、技術の確立と資機材の改良を進め、日本の農業生産物の30%〜50%を担う生産方法に発展させる政策が必要です。

モデルタウンのわずかな資金だけでも大きな成果が上がったことは、最初に触れた通りです。農耕民族の群れあい助け合う長所を有機農業の発展に生かせば、集落や農事組合は生産と販売で活性化し、田舎が甦ります。条件不利地の山奥ほど水と土はキレイです。そこで生計が立てられる農業が確立されたら、一気に限界集落の問題や地方の格差は解消されます。


村田さんが後継者として期待する息子夫婦とお孫さん
私はこの2年間の取り組みで、有機農業の可能性に大きな期待を持っています。先に触れたように課題はいっぱいあります。しかし、そのハードルを1つひとつ越えることにより、日本の農村の原風景の残るわがまち美山町のような地域が、必ずや各地に甦ると信じています。その地は、都会の人々の癒しの場となり、農林業の多面的な効用がいかんなく発揮され、安全でおいしい水が下流域の人々に安定的に供給されることになるでしょう。

先日、美山有機農業推進協議会の会合で、年度内の事業の調整と来年度の推進計画について協議しました。国の事業仕分けの結果にかかわらず、3年目はより地域内の普及推進に取り組み、さらに足腰を強固なものにしていくことで一致しました。京都府のトップランナーをめざし、今後も皆で力を合わせて頑張りたいと思います。

つたない報告でしたのに、よく12回も続いたものだと、EM情報室の皆さんと読者の皆さんにお礼申し上げます。ありがとうございました。

掲載日:2009年12月26日

村田正夫 プロフィール

むらた・まさお
1951年生まれ。1992年家庭菜園に自然農法を取り入れ、2002年からは約50アールで稲作実施。2004年には仲間とともに美山自然農法の会を設立。自然農法の会は、2006年成立した「有機農業推進法」のもと、農水省が打ち出した地域有機農業推進事業(モデルタウン)に採択された「美山町有機農業推進協議会」の構成団体でもある。2008年には同協議会の技術指導副担当に就任。現在、地域での有機農業推進に尽力。南丹市市議会議員を務めながら、市内で小売業を営んでいる。

 

第12回
有機農業が持つ大きな可能性

 

第11回
米づくりの流儀

 

第10回
新規就農者が地域にカツを

 

第9回
有機農業実施者が続々来町

 

第8回
未来担う子どもたちとの関わり

 

第7回
生産者支える都市交流

 

第6回
ようこそ!美山町へ

 

第5回
行政機関のバックアップ

 

第4回
独自の認証制度で野菜づくり

 

第3回
速報!モデルタウンは毎年申請

 

第2回
米づくりにかける情熱

 

第1回
かやぶきの里・京都美山町


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