前回ご報告した通り、お陰様で今年もモデルタウンに採択されましたが、最近の関係者は安堵と疲労感で、やや”静けさ”を感じる日々を送っていました。しかし、季節はひたひたと着実に移ろい、農業者にとって一番忙しい「田植え」の時期がやってきました。みんなの目は、確実に冬眠から覚めた動物の目になっています。
約1か月にわたって、全身全霊を傾ける田植えは、その家にとって春の大きなお祭りです。家族総出で、離れて暮らす子どもたちも帰省して手伝い、まさに一家団らんの田植えとなります。昔からの風習で、夜は赤飯を炊き、ご馳走で無事に田植えが終わったことを喜び合います。今年も何軒かから、赤飯のお裾分けをいただきました。
ところで、美山でつくる稲の品種は大きく3つで、4月の終わりに植える酒米の「五百万石」。最も多いのが5月5日ごろに植える「コシヒカリ」。晩生として5月15日ごろに植える「キヌヒカリ」となっています。しかし、私たち「美山自然農法の会」のメンバーは、5月20日ごろに「コシヒカリ」を植えています。温暖化の影響から暑い夏を乗り切るために遅植えにし、1株ごとに大きな粒をつけるために粗植(そしょく)にします。これが自然農法に適したやり方だと思っています。
力強い行政関係者の支援
現在、自然農法で米づくりをしているのは24人。昨年と今年で、メンバーがかなり増えました。前回紹介した協議会構成団体の1つである「美山認証野菜生産者の会」の中心メンバーである平井さんや井上さん、文字さんも昨年から自然農法で米づくりをするようになりました。
「やりたいと思っていた無農薬での米づくりに声をかけてもらって嬉しかったです」と文字さんは、夫婦で嬉々として懸命に取り組まれました。平井さんと井上さんも、私たちとの日ごろからの強い信頼関係もあって、迷うことなく仲間に加わったのです。
近中四の尾島さんは、美山とは随分長いお付き合いですが、ある日のこと、午後2時ごろでしたか、私が田の草取りをしようと2〜3歩足を踏み入れた時、突然車で来られました。水管理や除草対策などの話が始まり、私は田から上がり畦に座って話し込むことになってしまいました。
他にも、普及センターは、認証野菜制度の道筋をつけてくれ、ネキリムシに対する物理的防除法の検討や地域有機資源を活用した良質堆肥の普及、栽培実証などに取り組んでいます。近中四は、害虫防除のマニュアル作成や販売促進の協力をしてくれるなど、力強い支援をしてくれています。そして、協議会の屋台骨を支えてくれている事務局の南丹市美山支所産業建設課の清水さんと中島さんは、官僚的な事務屋さんでなく、実に血の通った温かい職員さんです。農業者の目線に立って、一緒に堆肥づくりをやったり、こちらがSOSを出せばすぐに飛んできてくれたり、してほしいことをしてくれる力強い支援者です。
このような行政関係者たちは、モデルタウンの申請時、寝食を忘れるほど会議室に閉じこもって実施計画書をまとめ上げてくれました。思わず私も、温かい飲み物と差し入れを持って激励に訪れましたが、そこにいる人たちは、時間にとらわれることなく、出会いを大切にする、そして何より美山に愛着心を持つ、人情味溢れる人たちでした。
何をするにしても、「人」が基本です。人と人との関わりがいかに大切かを感じます。その輪をさらに広げていくことが、モデルタウンの活動を充実させ、地域力を高めていくことになると確信しています。
むらた・まさお 1951年生まれ。1992年家庭菜園に自然農法を取り入れ、2002年からは約50アールで稲作実施。2004年には仲間とともに美山自然農法の会を設立。自然農法の会は、2006年成立した「有機農業推進法」のもと、農水省が打ち出した地域有機農業推進事業(モデルタウン)に採択された「美山町有機農業推進協議会」の構成団体でもある。2008年には同協議会の技術指導副担当に就任。現在、地域での有機農業推進に尽力。南丹市市議会議員を務めながら、市内で小売業を営んでいる。
第12回有機農業が持つ大きな可能性
第11回米づくりの流儀
第10回新規就農者が地域にカツを
第9回有機農業実施者が続々来町
第8回未来担う子どもたちとの関わり
第7回生産者支える都市交流
第6回ようこそ!美山町へ
第5回行政機関のバックアップ
第4回独自の認証制度で野菜づくり
第3回速報!モデルタウンは毎年申請
第2回米づくりにかける情熱
第1回かやぶきの里・京都美山町