川でつながる環境意識
しかし、江戸時代に全国に通じる五街道の起点と定められた由緒ある地点に架けられた石造アーチ橋の日本橋(重要文化財)の美しい景観を長く後世に伝えようと、昭和43年に地域住民・企業・団体が参加する保存会が発足。昭和46年から毎年7月に「日本橋橋洗い」を実施して橋の環境保全に取り組んできた。平成17年、恒例の橋洗いにEMシャボン玉石けんが使用されたことに端を発して、「橋だけでなく、川もキレイにしよう」と保存会とU−ネット(EM技術協力)を始めとするEM関連団体との協働でEM活性液とEM団子を活用した日本橋川水質浄化がスタートした。
平成18年には千代田区内にEM活性液培養施設(EMプラント)が完成したことで、日本橋川だけでなく神田川、外濠(牛込濠)まで活動範囲は広がり、関連団体も中央区、千代田区はもとより日本橋ロータリークラブ、日本橋法人会、日本橋法人会婦人部、都漁連内湾釣漁協議会や千代田区内に誕生した「日本橋川・神田川に清流をよみがえらせる会」(以下、よみがえらせる会)などに広がり、多くの支援を受けた市民活動へと発展している。
これまでに投入された(平成17年~20年8月末まで)EM活性液は950tで、EM団子は16万7500個になる。EM団子は橋洗いの際や、よみがえらせる会のイベントなどで投入しているが、地元の小学校も積極的に参加し、良い環境教育になっている。
投入効果としては、3か月毎に行っている底質調査によって川底にイトミミズやゴカイが増えていることが確認されており、ヘドロの分解・促進が期待されている。透視度は数十センチだったのが、2メートルにまで上がっている。また、ハゼやスズキ、ボラなどの魚が群がるようになり、水鳥が多く飛来するなど、生態系の回復の様子が見られる。
9団体と会場参加者のディスカッション
午後からのフォーラム第1部では、映像を使って日本橋界隈の歴史や日本橋川浄化活動の経緯、全国の河川浄化の事例紹介や特別企画「フォトコンテスト“日本橋川を撮ろう”」の表彰式、EM団子づくりで協力する福祉施設へ感謝状の贈呈などが行われた。
茨城県石岡市にある視覚重複障害者支援施設「光風荘」では、現在32人の利用者のうち、15~16人がEM団子とEMボカシづくりをしているが、丁寧な仕事ぶりはEM団子の出来映えでも定評がある。須賀田一男施設長と2人の担当職員に引率されて出席した利用者5人は、午前中のEM団子投入にも参加して、「興奮して昨夜はよく眠れなかった」と満面の笑みを浮かべていた。
冒頭、名橋「日本橋」保存会の中村胤夫会長は、「2~3年前の日本橋川はヘドロとごみの川でしたが、今では透視度も上がり、キレイな水に戻ってきています。しかし、川は生きているので、一度手を抜くと汚れてしまう。いかにして継続して、もっとキレイにしていくかが今後の課題です。この活動が良い前例となって、国民運動になることを祈念します」と開会挨拶した。
第2部では、浜渕隆男U−ネット運営委員長が、「EMは安全で安心、ローコストで汚染分解、水質浄化に役立つと分かってもらえる地方行政が増えてきています。官民2人3脚で日本の環境問題に取り組みましょう」と挨拶。続いて比嘉照夫名桜大学教授が、「EM活用は善循環が原点。川は、その地域の生活や教養レベルを判定する、“環境指標”とも言えるが、さすがお江戸日本橋。中央区、千代田区と外濠のある新宿区へと活動が広がっていて、素晴らしい展開が期待されます。さらに、江戸川区でも取り組みが始まり、キレイで豊かな東京湾の見通しが立ってきました」と話し、会場を盛り上げた。
そして、パネリストと会場を結んだディスカッション「市民によるこの活動をどう継続していくか」※では、保存会など9団体とアドバイザーとして比嘉教授、「よみがえらせる会」特別顧問の大塚実氏が登壇。それぞれの活動と展望が語られた。
よみがえらせる会の林会長は、「地元の子どもたちからも関心の薄い日本橋川だったが、EM団子投入で川の知名度が上がりました。魚釣りができる川に甦って、子どもたちに喜んでもらうことが楽しみ」と話し、保存会事務局長の永森昭紀さんは、「キレイになると確信を持ったのは、すでにEMによる浄化活動を行っていた四日市市の阿瀬知川の現場を見てからです。日本橋川は、雨が降るとオーバーフローした汚水が直接入ってくる場所が30か所もあって、以前は水が濁り、悪臭が消えませんでしたが、EM投入後はニオイが消えるのが早く、晴天が続くと泳いでも良いくらいに澄んだ川になります。全国のEM事例を見ても分かるように、日本橋川も必ずキレイになると確信しています」と話した。
伝統ある三越劇場を舞台に、環境フォーラム「よみがえれ!日本橋川」は、行政・民間・企業・ボランティアを強い絆で結び、新たなるステージへの幕開けとなった。
※ディスカッション出演者は次の通り。(敬称略) 林勇・よみがえらせる会会長、西川恵・日本橋法人会会長、保科儒一・東京日本橋ロータリークラブ、橘君代・日本橋法人会女性部会、新倉健司・都漁連内湾釣漁協議会、恒川敏江・NPO緑の会理事長、池上幸子・NPO戸田EMピープルネット事務局長、吉澤文五郎・U−ネット事務局、永森昭紀・名橋「日本橋」保存会事務局長
取材を通して
環境省は皇居のお濠の本格的な水質再生プロジェクトに乗り出すという新聞記事があった。毎年夏に発生するアオコの異常増殖による悪臭対策の一環で、地下水を濠に引き込んで水を循環させるという試案だ。
現在、よみがえらせる会では飯田橋・牛込濠(外濠)に毎週2tのEM活性液を投入し、EM団子もすでに7万個近く投入している。ここでは、ニオイがなくなり、アオコの発生も減少しているという。日本橋川浄化に取り組んでいる人々の目標は、日本橋川から東京湾、外濠を巡って皇居のお濠まで浄化の波がつながることだ。
フォーラムのパネリストで、船宿・釣船を経営している新倉健司さんは、「これまでの川の浄化は浚渫(しゅんせつ)しか方法がなかったが、何千万円掛けても限界がありました。浚渫で取りきれない底に残ったヘドロが再び悪臭を放つようになっていました。EMを投入してからは、ヘドロのニオイがなくなってきています。甦る日本橋川に希望を持っています」と語った。
地域の住民や異業種の人々がひとつの川で交わって、童心に返った魚釣りや、昔の情景を語らう場面では、強い連帯感を感じさせた。三重県・阿瀬知川、愛知県・三河湾、矢作川、大阪府・淀川、道頓堀川など、すでに成果の上がっている河川のEM事例でもそのような場面が再現されていた。いずれも「皆で楽しく」「参加することに意義がある」「ローコストな仕組みづくり」が継続の要因とされている。
比嘉教授は、「川は人々の生活や教養レベルを判定する“環境指標”だ」と指摘した。川をキレイにするには、川に関わるすべてのものをキレイにしなければ完結にはならない。生活雑排水や農業用水、公共下水処理場の排水処理の改善など河川浄化には難題が山積しているが、川で結ばれる住民の環境意識の盛り上がりは国を動かし、世界中の水の流れに注ぐ一滴となることをイメージしている。[2008/11/12]
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