有機農業50%への実現に向けて

ツルネン
ツルネン・マルテイ(つるねん まるてい)

1940年フィンランド生まれ。昭和42年、キリスト教会の宣教師として来日。1979年日本に帰化。2002年参議院議員初当選。2004年有機農業議員連盟設立、事務局長に就任。2006年議員立法での有機農業推進法成立に貢献。2007年参議院議員選挙全国区民主党第6位で当選。【著書】「未来への選択 ツルネンマニフェスト」「日本人になりたい」他多数。
現在、日本でつくられている農産物の中で、有機農産物は1%くらいだと思います。私たちの目標は、それを10年で50%まで増やそうというものです。これは私の目標ではなくて、有機農業議員連盟の谷津義男会長も、それくらいの目標を持とうと言っています。多くの方は難しいと思っているかもしれませんが、一昨年に有機農業推進法が成立した時も、奇跡的に700人以上の両院議員が全会一致で可決したのです。

私は次の4つのことが実現できれば、50%にすることは可能になると考えています。1つは、水稲あるいは畑作も全部不耕起にすること。これはEM技術を活用して可能になっている事例があります。2つ目は、有機農業に切り替えることに迷っている生産者もいると思いますので、消費者として有機農産物を求めるようにすることです。3つ目は、私は奇跡を待っています。キューバは国を挙げて「有機農業に切り替えましょう」となってから15年で、80%の農作物に一切農薬・化学肥料を使わなくなりました。4つ目は、科学者が、農薬が環境や人間の体にとっていかに危ないかということをはっきりと裏付けることができたら、消費者も有機栽培、EM栽培でつくられているものにしたいと、必ずなっていきます。

比嘉
比嘉 照夫(ひが てるお)

1941年沖縄県生まれ。名桜大学教授及び国際EM技術研究所所長。琉球大学農学部名誉教授、農水省・国土交通省提唱「花のまちづくりコンクール」審査委員長、(財)自然農法国際研究開発センター理事、その他、農業、水、健康等に関する各種法人の役員、技術顧問として活躍。【著書】「微生物の農業利用と環境保全」「地球を救う大変革①②③」他多数。
ツルネンさんのように50%という目標を掲げるのが大事です。有機農業推進法は「せねばならない」「有機農業で行きますよ」という義務を課した法律なので、現場でやっている皆さんがそれを認識し、積極的に役所に働きかけ、どんどん実績を積み上げていけば、仕組みとしては50%でも少ないのではないかというぐらいにやれると思います。

有機農業や自然農法に関して、法律的に戸籍が与えられたと言ってもいいと思います。また、この動きがいろいろなところで波及効果を出し、日本の食は安全どころかすごく機能性が高いと評価を受けるようになると、大きな突破口ができます。この法律が持っている意義は、国の根底を変えるのではないかと、私はそれくらい重要視しています。

福田
福田 英明(ふくだ ひであき)

1961年新潟県生まれ。1986年農林水産省入省。農産園芸局肥料機械課課長補佐(肥料取締班)、大臣官房企画評価課課長補佐(政策評価班)、生産局農産振興課課長補佐(麦班)、生産局特産振興課生産専門官(特産総合)、生産局特産振興課総括課長補佐などを経て、2007年4月生産局農産振興課環境保全型農業対策室長に就任。
有機農業推進法の一番重要なところは、基本理念がきちんと整理されていることです。「農業の持っている自然循環機能を維持増進する行為」「環境負荷の低減をする便益がある」「安全かつ良質な農産物の供給に資する」など。これが有機農業ですということが、基本理念で位置付けられているところが、素晴らしいことだと思っています。

この基本理念の下で、大きく4つの目的を掲げています。①平成23年度までに誰もが有機農業に取り組めるための技術体系をつくる。②都道府県も含め有機農業を指導する体制を確立する。③有機農業が安全・良質な農産物の供給に加えて、自然環境に良いという認識を、消費者の5割以上が認識するような環境をつくる。④全都道府県で23年度までに推進計画をつくるとともに、市町村においても50%以上のところで推進体制ができる。

そして20年度、推進法ができて最初の施策が講じられ、有機農業総合支援対策という予算を掲げたところです。概算で予算計上している分としては4.6億円です。先ほどの有機農業の推進の大きな4つの柱の中で、全国段階では「研修の場で有機農業に関する情報提供を進める」「シンポジウムやメディアを活用し有機農業の素晴らしさを国民に訴える」「農業技術の確立のための実証試験を行う」。地域段階では、「全国各都道府県に最低1か所ずつ有機農業のモデルタウンをつくる」ということです。

モデルタウンづくりの内容としては、技術支援センターの整備、技術指導、経営安定のための技術実証ほづくりなどです。また、土壌診断を進めていくことや、国民や消費者の方々がきちんと認識していくための販路確保のための取り組み、あるいは消費者との交流。こういう取り組みを支援していく事業です。

国の事業は、国が半分出して地域が残りの半分出すというのが普通ですが、この事業の一定額は、すべて国が出すという事業になっています。ソフト的な販路活動などには、1市町村当たり約400万のお金が支援されます。また、その他に有機農業に取り組む方々が使える事業として、農地・水・環境保全向上対策への活動支援もあります。これらをうまく活用して有機農業を広く進めていきたいと思っています。

国なり市町村は、側面的支援しかできないので、中心になるのは皆様方、農業者の方々です。これからも皆様の要望を伺いならが、有機農業を推進していきたいと思っています。

保田
コーディネーター
保田 茂(やすだ しげる)

1939年兵庫県生まれ。日本ではじめて有機農業で農学博士号取得。神戸大学農学部教授、同名誉教授。退官後、兵庫農漁村社会研究所を設立。現在、農水省農林物資規格調査会委員、兵庫県環境創造型農業推進委員会委員長、(財)自然農法国際研究開発センター理事など。【著書】「日本の有機農業」「有機農業運動の到達点」他多数。
これまで農水省が、こうした発言をしてくれることはめったになかったので、私としては大変心強く感じたところです。ただ、勘違いしないでおきたいと思いますが、「金がなかったらできへん」という、そういうことじゃないですね。

有機農業、自然農法はお金がなくてもやってきはったわけでしょ。これは「金があるからする」ということじゃなくて、農水省がここまで考えてくれる、そのことについて私たちができる範囲で一緒になってやっていこう。そういうつもりで取り組んだらどうかと思います。

京都大会2008トップ
今井通子氏特別講演
農業分科会
環境・菜園分科会
当日の資料に使われた事例集


事例集2008
A4判 140頁
価格2,000円(税込)
内容はこちら 購入はこちら

専業農家の有機、自給のための有機

早川
早川 仁史(はやかわ ひとし)

1961年北海道生まれ。水稲13ha、畑11ha(2007年現在)の専業農家。2002年有機JAS認定取得(水稲、大豆、メロン)。メロンは16連作、大豆は9連作。認定農業者およびエコファーマーとして「農地・水・環境保全向上対策」協議会に参加。北海道指導農業士、(財)自然農法国際研究開発センター農業士。
新篠津村では平成5年にEM研究会ができ、行政がそれに感銘して、「クリーン農業推進センター」というのを立ち上げてくれました。現在は、計4.5トン分のEMボカシ製造機を村が購入してくれ、農協が運営をしてくれています。また、EM活性液製造機も導入し、3,000リットルの機械が2台と、1,500リットルの機械が1台あります。これは各自が1,000リットル単位で自分のタンクに持っていって、作物にジャバジャバと掛けている状況です。また、小学校のカリキュラムの中にEMを取り込んで、お年寄りと子どもがEMを使って無農薬で米、もしくは大豆を授業の中で栽培しています。

有機農業に関しては、300戸のうちエコファーマー取得者が290戸です。研究会の構成メンバー300人のうち100人がEMを何らかの形で使っています。その中に17戸の有機農家がいます。300戸の中の17戸ですから、6%程度の人がEMを使って有機農家をやっていることになります。

今井
今井 通子(いまい みちこ)

東京都出身。東京女子医科大学卒業。医学博士。欧州アルプス・マッターホルン北壁、アイガー北壁、グランドジュラス北壁の登攀にも成功し、女性として世界最初の欧州三大北壁完登者となる。エベレスト中国側チョモランマ峰北壁にも挑戦、冬季世界最高点到達の記録を樹立。【著書】「私の北壁」「私のヒマラヤ」「自然流おいしい食事」他多数。
ツルネンさんが言うような50%を達成するには、各地域の人たちの持っている頑固さが問題だと思います。むしろ、IターンやJターンした人たちの方が有機農業に対して、食いつきやすいと思います。

私は、生ごみをEMボカシで堆肥にして、車で長野の畑まで運んでいました。この方法は手間がかかるし、エネルギー問題の解決のためにも、EMボカシを個人個人がつくるのではなくて、生ごみを集積し、誰かがそれを持っていって全部堆肥化し、できあがった産物を、私たちが安く買うというシステムがあれば、苦労しないで有機農業が誰でもできる気がします。

また、今まで遭遇したことのないような害虫が来たときに、どう対応したらいいのか、多分、農薬も使わない状態でやっていくと、確実に被害が広がります。化学物質を使わない新たな病害虫防除技術の開発にも対策が必要でしょう。

新しい時代をどう地域に定着させるか

ツルネン
有機農業には近い将来日本の危機に瀕している農業全体の活路を開く力があると思っています。しかし、現状は有機農産物が全体の1%しかありません。なぜ今まで広がらなかったかを考えてみたいです。

1つは、一般的に早川さんのような大規模農家では、有機農業は無理と思い込んでいること。もう1つは、有機農業技術のノウハウ。有機農業で病害虫対策はどうできるかわからない人が多いことです。1つ目の問題は早川さんが実現していますし、もう1つは、今までもEM技術を生かしてやっていますから、その技術を多くの人たちに伝えていくことが大切です。

推進法の基本方針には、慣行農業から有機農業に転換する人に、技術指導や資金援助に務めるということが書かれていますが、そのために有機農業モデルタウン事業は大きな役割を果たすと思います。しかしそれは、補助金をもらうためだけではなく、農協も生協も行政も、そしてノウハウを持っている有機農家も共にその地域が一丸となって取り組むことに重要な意義があると思います。

EMを使わなくてもうまくやっている有機農家さんはたくさんいますし、私たち国会議員、あるいは行政の方の中にも少なからず、「EMは万能ではない」と思っています。しかし、EMが有効な手段の1つであることは充分理解していると思います。

比嘉
有機農業でクリアしなくてはならない一番大事な問題は、寄生虫とかいろんな衛生問題です。EMの場合は、安全で快適でローコスト、ハイクオリティということが基本になっていますから、大腸菌ももちろんそうですし寄生虫に関しても、EMをきちっと使えば確実に対応できるということは、もう世界中認識しているわけです。

私たちの周辺の生ごみやトイレの水を混ぜて、すべてが資源に変わる新しいシステムの構築が必要です。そのためには、たくさんの人がかかわり合わないといけません。それを認識し、学校教育から始め、地域で情報共有しシステム化していけば、廃棄物が、立派な価値ある資源として回転します。

農業1つだけ取っていると絶対にコストが合わないという社会でも、農業を通して環境がキレイになり、健康になり、付加価値の高い商品開発するということになると、コストはいろんなところで吸収させて、社会全体としてトータルで見ると、すごいことになっていきます。

例えば、今の医療費です。農業がしっかりしていて、みんなが健康になったら、医療費は半分になります。そうすると、農業の力ってすごいです。「農業自体は大したことはない」と言っても、これが健全なものになれば社会全体の力なります。この法律をベースにEMの技術を含め、いろんなかたちで社会がさらに活性化していけば、ハイスピードで目的を達成できるのではないか、いい国になるのではないかと非常に楽しい期待をしています。

福田
技術論の他に重要なのは、消費者にきちんと有機農業を理解してもらって、有機農産物を買っていただくことです。その中で、有機農業の基本となるのは、土と種だと思っています。昨年10月から農水省では、土づくりをどう進めたらいいのかを勉強し、「土壌の機能というのは何なのか」ということを整理していて、3月には最終的な取りまとめを行う予定です。

土の機能として、①作物の生産機能、②炭素の貯留機能、③有機性資源の循環機能、④大気や水の浄化機能、⑤生物多様性の保全機能、があると整理しているところです。この5つの機能を高める営農行為については、堆肥や不耕起栽培、輪作、土壌改良資材、土壌浸食のためのグリーンベルトなど6つに整理しています。

これらは有機農業の基本技術です。まさに有機農業は、環境をつくり上げていく機能であることを説明していくために、理論構築をしているところです。そういうことが国民、消費者に情報提供され、表示していくと、消費者が一定のコストを払って有機農産物を買う行為が出てくると、私たちは考えています。そして、地域で有機農産物が買われる仕組みになることが我々の理想です。究極的には、それが自給率の向上につながると思っています。

現在、環境保全型農業対策室には15人の職員がいますが、今年8月には、課になり約30人になります。今後は課を挙げて頑張っていきたいと思います。

早川
日本の農業、特に北海道農業は、国が補助金を付けて、国が農民の姿をつくってきたので、農民側はあまり考えずに、国が示す方向を向いていたような気がします。しかし、私は平成4年にEM技術に出会って、EM関係者の方々が私を育ててくれました。私が推進法に求めたいことは、消費者が農民を育てていただける体制になってほしいということです。

また、環境問題でEMを活用している方たちは、その技術を農家の方にフィードバックしていただけると、農業の質も上がってくると思います。農家だけ消費者だけ、国だけではなく、みんなで協力して安心安全、キレイな地球にしていくという法律になってくれればうれしいです。

保田
主に先進国間の自給率の比較を見ると、日本と韓国を除いて、すべて自給率は落ちていません。日本は高度成長の裏側で、毎年ほぼ1%ずつ落として、現在では40%を切っています。これは私たち親世代が、1円でも安いほうがいいという価値観で暮らした結果です。この流れが変わらなかったら、40年後にゼロになる計算です。

この流れをつくったのは誰でしょう。私たちのための暮らしが、孫たちのためにはならなかったということを、この数字は示しているのではないでしょうか? 孫たちにどういう地球を残すか。孫たちにどのような地域社会を残すか。この流れを変えなければ、孫たちは食べ物を失った国で過ごすことになるのではありませんか?

フランスの子どもに「何でパン食べるの」と聞いたら、「麦畑があるから」と答えるそうです。日本の子どもはどうでしょう。どこの国でも、子どもは窓から見える風景と結び付いた食教育を受けています。日本だけが田んぼを見ながらパンを食べる教育を行っているのです。こんな国は世界にはありません。その結果として、田んぼがつぶれ、畑がつぶれていった時に、果たして有機農業が成立するかどうか、自然農法が成立するかどうかです。

まず皆さんの食卓から見つめ直し、そして新しい時代が来たことに対して、私たちがどのような行動をとるべきか、孫たちのためにどのような地域社会を残すべきかをしっかり考えてみたいものです。今晩何食べます? 明日の朝何食べます? というところから、ぜひ始めませんか。

(文責在記者)

京都大会2008トップ 今井通子氏特別講演 農業分科会 環境・菜園分科会
トップページ | EMとは? | 特集・レポート | 連載 | 投稿ひろば | 用語集 | FAQ | バックナンバー | EM情報室 | リンク集 | サイトマップ

Copyright (C) Eco Pure All Rights Reserved.