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潤いのある学校なら子供が人を殺したりしない
 学校における「心の教育」とはどんなことでしょうか。

大塚貢さん
おおつか・みつぐ 1936年長野県生まれ。信州大学卒業後、中学校教員、都内での会社員生活の後、長野県に戻り、県教育委員会指導主事、中学校教頭を経て、92年から中学校校長を務める。97年旧真田町教育長就任。市町村合併後、2006年より上田市教育委員長。07年退任後、教育・食育アドバイザーとして活躍中。
大塚 私はこれまで、少年少女の凶悪犯罪が起きると、全国どこであっても、1週間以内に、その子が通っていた学校や住んでいる町を訪ねてきました。1回見ただけでは分からないから、一定期間をあけて同じ場所を最低3度は訪ねています。どの学校にも共通していたのが、学校に花がまったくない、潤(うるお)いが感じられないということでした。

例えば、平成9年に起きた酒鬼薔薇聖斗が通っていたA中学校は、神戸市の高級住宅街にありますが、校門から見えるプランターは草が枯れて、花一輪咲いていませんでした。数年あけて3回訪ねましたが、いつも花はありませんでした。

奈良の事件で、医師の母親と弟、妹を焼き殺した子供が通っていたB学園は、関西有数の進学校ですが、まるで製薬会社か研究所のような無機質な校舎でした。

会津若松で、母親の首を切ってショルダーバッグに入れて持ち歩いていたという事件がありましたが、その子供が卒業したC中学校は、グラウンドが草だらけで、廃校のような雰囲気でした。そんな学校で子供の豊かな心が育つはずがないのです。

もちろん、家庭にも問題があるでしょうが、学校が楽しく、潤いのある場所であれば、子供が人を殺したりしません。そこで、子供たちと一緒に花づくりをして、心の教育をしようと思ったのです。

 花づくりは前からやっていらっしゃったのですか?

大塚 荒れた学校の教師の時に、学校の中庭を開墾して、土づくり、苗づくりから始めました。子供たちは遊びたいのに花づくりをさせられるものだから、最初のうちは嫌われましたね。子供が泥だらけになって家に帰るので、親にも文句を言われて。それでも、花が咲くとみんな心が明るくなるのです。

自分たちで花を育てることに意味がある
大塚 校長として赴任(ふにん)して1年目、あえてグラウンドの横に大きな花壇を2つ作りました。

そんな場所ですから、最初はサッカーボールが花をなぎ倒したり、野球のボールが茎を折ったり。また、ボールを取るために平気で花を踏みつぶして入ってきました。そこら中でチューリップやパンジーが何十本とやられてしまった。やっていいことか悪いことか判断して自己コントロールすることができないのです。

その場所を担当している子供にすると、花が踏みつぶされていたら切ないですよね。子供の心を踏みにじることになるので、私は夜のうちに車のライトを照らして、それを植え替えたんです。30本から、多い時は80本ぐらい植え替えていました。

でも花壇の花が見事に咲くと、子供たちの心も開いて、花壇の草花がなぎ倒されることはなくなりました。それから5年間在籍して、野球ボールが入って花が折れたのを見たのは2本だけです。1人ひとり汗をかいて苗を植え、花を育てて、命を大事にする気持が芽生えたのでしょう。

結局、校内に20か所以上の花壇を作って、全国花壇コンクールで文部大臣賞をいただくまでになりました。

花を育てることの本当の意味
 ただ花があるだけでなく、自分たちで育てるということが大事なのですね。

大塚 花を育てる、命を育てるというのはそこなんです。芽が出て、花が咲いたら、子供たちの心は変わります。反対していた親も、「こんなにきれいな花が咲いた」という子供の生活記録を見て納得しました。

ある夏の暑い日曜日に、小学校3年生の男子がお母さんとお姉さんといっしょに学校に来て、じょうろで1本1本丁寧に水をやっていました。ホースで水やりすると苗を傷めるというのです。

また、ある小学校で菊の花弁にアブラムシがたかっているのを見て、子供がつまようじで1匹ずつ取っていました。私が「殺虫剤をかけたら」と言うと、「花が傷むからだめ」と叱られました。

花を大事にする気持が育ったのは、自分たちで汗を流して土づくり、苗づくりからやって育ててきたからです。

真田町では苗を3万本ぐらい育てて、半分は学校に植え、半分は子供たちが地域に持ち帰って、お寺や神社、道路端などに植えています。町ではお年寄りや地域の人が子供を手伝って花づくりをするようになりました。

学校から発信して、町中に花が咲いてきれいになりました。毎日、水をやって、世話をして、命あるものを育てる経験を通してたどりついた結果です。

特殊学級の子供たちに学ぶ
 先生の人権感覚が大事だと言われていますね。

大塚 先生たちの人権感覚が低下してきていると感じます。

先生によるいじめもけっこう多いのです。できない子をいじめたり、障害を持っている子をからかったり。

「いい先生」と言われる人が、実は子供の言いなりで席替えをして、結果的に仲間はずれにされる子を作っていたりします。先生に根本的な人権の感覚が欠けていることが、いじめの大きな原因になっている例が非常に多いのです。

身体的、精神的に弱い子、学力の低い子、障害のある子などを支えてくれる子供を意図的に配して、共同生活の中で互いに人間的に成長していく必要があります。

校長は、自分の学校の先生の人権意識が確立されているかどうか、常に目を光らせていなければなりません。

普通の校長は、1番だめな先生に特殊学級を持たせますが、私は1番できる先生に障害を持っている子供たちのクラスを持たせるんです。いい先生をつければ子供は変わります。どれほど本気で勉強しているか、一生懸命に掃除をしているか。それを普通学級の子供の手本にするのです。

例えば、普通学級の勉強ができる子供が、トイレの掃除の時に便器のところに行かず、要領よく入口を掃除しているので、叱ったんです。特殊学級の子供たちは手袋もはめないで、雑巾を持って便器の内側を掃除している。それを見せたらやらざるを得ないです。

どこかばかにしていた特殊学級の子供が、自分よりはるかに立派だと分かったら、人を見る目が変わる。それが人権意識につながっていきます。

 先生が実践されてきた、食の改善や花づくりに挑戦する企業も出てきたとか。

大塚 私の講演を聞かれた機械部品会社の社長が、会社がすすけて汚いので、花を植えて明るくしたいと相談に来られました。そこで、「苗を買ってきて、社長自ら社員と一緒に植えなさい」とアドバイスしました。

社員300人位の会社ですが、7人の社員が「やります」と手を挙げました。終業後、一生懸命苗を植えて育てたら、とてもきれいな花が咲きました。すると、今まで薄暗い蛍光灯の下で黙々と昼飯を食べていた社員たちが外へ出て、花を見ながら明るい顔で食べるようになったそうです。

道を通る人も、「きれいな花ですね、見せてください」と言って入ってくるようになりました。ご主人がその会社に勤めている奥さんが「そこは夫の会社です」と誇りを持って言うようになりました。

それまで社長を煙たがっていた社員が、会社について積極的に意見を言ってくれるようにもなったそうです。

食の改善もいろんな企業で取り入れ始めています。社員1800人の会社の社長から相談を受けた時は、社員食堂のメニューに麺類が多かったので、食堂の栄養士に話して、魚と野菜中心の食事に変え、そこに含まれる栄養素を書き出してもらいました。今それが社員食堂の定食になっています。まだ始まったばかりで無気力社員が変わってきたという話は聞きませんが、しばらくすれば成果が現れてくると思います。

給食費を払うか払わないかは学校経営のバロメーター
 最後に、学校関係者に提言するとしたら?

大塚 いじめや不登校、凶悪事件、学力を上げるための無理な競争。すべての問題に対して対症療法ではだめです。今起きている教育事象の根本的な解決を目指さなければいつまでたっても変わりません。

例えば、給食費の滞納ひとつとってもそうです。私が校長になった時、全部で280万円ぐらい滞納がありました。高級外車に乗っている裕福な家で、兄弟3人分65万円ぐらい滞納していたこともあります。そんな親が何人もいたのです。

教育長の時も同じことがあって、給食費の滞納を自分で立て替えてボーナスが全部消えたこともありました。

 よく奥様が納得されましたね。

大塚 「公務員のボーナスが支給されたそうですが……」と聞かれて言ったんです、「ボーナスというのはね、本気で働いて、成果がきちんと出た人だけもらえるんだ。俺みたいにぐうたらなことをやっていて、学校も荒れたままで、ボーナスなんか出っこねえじゃねえか」と。ちゃんとボーナスが出ていることは妻も分かっています。でも、それ以上言いませんでした。

今までなぜ給食費を滞納していたかというと、子供が学校へ行っても、いじめられたり、ばかにされたりして面白くないからです。親もそれを知っている。

そんな行きたくなかった学校が、給食が変わり、先生の指導が変わって、いじめがなくなり、行きたい学校に変わって、子供が生き生きしてきたら、給食費の滞納はほとんどなくなりました。私は給食費を払うか払わないかを、学校経営のバロメーターにしています。

思いやりがある、心も体もたくましい、人間性豊かな子供を育てるために、広い視野を持って実践的に取り組んでもらいたいと思います。
(おわり) [2009/4/30]

撮影/山下恒徳
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