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大塚貢さん
おおつか・みつぐ 1936年長野県生まれ。信州大学卒業後、中学校教員、都内での会社員生活の後、長野県に戻り、県教育委員会指導主事、中学校教頭を経て、92年から中学校校長を務める。97年旧真田町教育長就任。市町村合併後、2006年より上田市教育委員長。07年退任後、教育・食育アドバイザーとして活躍中。
学校が荒れる一番の原因は授業にある
 大塚先生が校長として赴任された中学校は大変荒れていたということですが、どんな状況だったのですか。

大塚 私は平成4年に、長野県真田町(現在は上田市真田町)の中学校に校長として赴任(ふにん)しました。当時、生徒数1200人弱のマンモス中学校でした。

生徒は学習に対して無気力で、いじめや暴力事件が多く、それが原因で不登校になっている子供たちが60~70人もいました。非行や犯罪もとても多かったのです。

暴走族が結成されていて、夜中にバイクで学校に乗り込んできて、廊下を走り回り、きゅっとハンドルを切るものだから、タイヤ痕が焼き付いていました。それが取れなくて、本当にみっともなくて。

校内にタバコの吸い殻が散乱し、窓ガラスが割られることはしょっちゅう。
当時はそういう学校が全国的に多かったのです。
平成9年、真田町の教育長になった時も学校の状況は同じでした。

 なぜ学校が荒れるとお考えですか。

大塚 子供が無気力な原因、あるいはイライラして非行を起こしてしまう一番の原因は、授業にあります。

私は教師時代も荒れた学校への赴任が多かったので、経験的にそう感じていました。そこで校長として赴(おもむ)いた時、すぐに全員の先生の授業を見ました。やはり授業がつまらないのです。先生としての能力が落ちているというより、子供が本当に分かる、できる、楽しい授業をしなければいけないという自覚や意気込みが欠けているように感じました。

もちろん、中には、教材研究をして、指導力を向上させようと努力している先生もおりました。しかし全体的に無気力で、分からない授業をしている先生が多かったのです。

荒れた学校でもう1つ感じたのは、食生活の影響です(詳しくは2、3回目に掲載)。アンケートを取ってみると、朝食を取らない子供が38%もいました。

球技大会や陸上競技大会では、お母さんのおにぎりではなく、コンビニで買った菓子パンやジュースを持ってくる。そういう子供は、学校でもイライラして、キレやすく、非行に走る子が多いのです。

また、子供が犯罪を起こした学校を見て回ると、花一輪咲いていません。命をはぐく育む心の教育がされていないということです(詳しくは4回目に掲載)。

それから、先生の人権意識の低さが子供のいじめの原因になっている場合も少なくありません(詳しくは4回目に掲載)。こういったことが複合して、荒れた学校を作っているのだと思います。

先生が変われば学校が変わる
 先生方自身、荒れた学校への対応でエネルギーを使い果たしているのかもしれません。

子供たちへの深い愛情が、困難な教育現場の改革を可能にした
大塚 そうなんです。授業が分からない、つまらないから、机にうつぶせたままの子供が目につきます。イライラして、弱い子をいじめてうさを晴らす。あるいは、無気力になって不登校になる。

エネルギーがある子は、学校の外で非行や犯罪を起こします。非行や盗みが起きれば、先生は警察や商店に対応に行かなければならないし、親を呼んで、子供の指導もしなければならない。それがまた学校の中で先生たちの負担になってくるのです。ノイローゼになっている先生もいました。

だからこそ、楽しく、分かる授業にしなければならないのですが、先生たちは疲れきっていて教材研究などできません。この悪循環に先生たち自身、気がつかないのです。

 大塚先生は校長になる前の教師時代も荒れた学校を経験されたということですが…。

大塚 私は、技術と社会の免許を持っていたのですが、若いからなんでもできるだろうという理由で、数学、理科、それに美術まで持たされて大変な思いをしました。

そんな中でも、心ある先生たちと立ち上がって、外部から講師を呼び、研究授業を始めたのです。自分たちの指導のあり方を高めるために、夜を徹してやりました。

そうしているうちに、荒れた学校がものの見事に立ち直っていきました。先生たちの努力が、学校を変える一番の力になるのだと思いました。

つまらなかった授業が、面白い、分かる授業に
 校長になってから、そういう経験を生かされたのですね。授業の改善はどんなふうに進められたのですか。

大塚 先生は、「子供がだめ」「親がだめ」と言いますが、そうではありません。問題は自分たちにあるということをまず自覚することです。私は民間企業に勤めたこともありますから、「民間会社なら、こんな授業ではクビだ」と、よく言いました。

 「つまらない授業を50分も我慢して聞いている子供たちの方がよほど我慢強い。まず分かる・できる・楽しい授業に改善しよう」と訴えました。そう言われてやっと先生たちは立ち上がってくれたのです。みんな本気で教材や指導法の研究に取り組みました。

研究授業を徹底的にやると、「こんな授業をよく30年も平気でやってきましたね」と厳しい意見も出ます。お互いを批判し合い、切磋琢磨(せっさたくま)して、指導力を磨きました。すると、あのつまらなかった授業が、私が聞いても面白い、分かる授業に変わったのです。「そうか、こんな考え方もあるんだ」とか、「こういうふうにやればもっと楽にこの問題が解けるんだ」とか。楽しくて、身につく授業が増えました。

教育長になってからも、真田町では、小中学校のすべての先生が年に1回、多い人は数回、研究授業をして、指導力の向上を図っています。全部公開で、どこの学校の誰が見てもいい。親が参加してもかまいません。人に見られるとなると本気でやる。年齢が上だからと言って、いばっていられません。授業という土俵が勝負。研究授業を何回かやると、授業のレベルはがらりと変わります。

ブタの解剖授業で抗議の電話が殺到
 子供たちはどんなふうに変わりましたか。

大塚 学習に対する姿勢が見事に変わりました。机にうつ伏せになっていた子供が、きちんと姿勢を正して、真っすぐ前を向いて授業を聞くようになりました。

授業が分かると面白くなる。勉強してわくわくする気持が出てきたと思うのです。面白ければ集中して授業を聞くようになり、外へ出て非行や犯罪をしなくなります。次第にいじめもなくなっていきました。

 子供たちはもともと学びたいという意欲を持っている。それを引き出せるかどうかということですね。

大塚 テレビでよく学級が崩壊している学校が映し出されますが、先生の指導のまずさを公表しているようなものです。授業をきちんとしていれば、学級崩壊は起こりません。非行や犯罪を子供や家庭のせいにして、先生が自分たち自身の問題だというところへ踏み込んでいない。授業に対して本気で取り組んでいないのです。

真田町では、「私が責任を取るから、いいと思ったことはなんでも挑戦してほしい」と話してきました。

するとある時、理科の先生が、解体したブタの頭や内臓をもらってきて、解剖の授業をしたのです。そうしたら、抗議の電話が学校に殺到しました。うちにも電話があったようで、ワイフが「あなた、何をやっているの」とびっくり。全員の電話番号と名前を聞いておいて、私から電話をかけました。

 「真田町には本当にすばらしい先生がいます。ブタの頭を解剖させて、腸の長さや胃の大きさも全部子供に計らせた。これだけの先生はほかにいません。みんな教科書の図で説明しているだけ。だから子供がだめになる。親も行ってブタの解剖をしてきなさい」と。そうしたらもう何も言ってきませんでした。

子供と親が先生を評価する仕組み
 思い切った取り組みが必要なのですね。

大塚 徹底した研究授業を重ね、工夫を凝(こ)らせば、授業のレベルが格段に上がります。

真田町では、先生の授業を子供たちが評価しています。

板書ひとつとっても、雑に板書されたものを写して、家で復習しようとしても、何が何だか分からないですよね。黒板に分かりやすい字で丁寧に書かれているか、課題の中心がよく分かるようになっているか、前後がきちんとつながりがあるように書かれているか。そこまで細かく子供たちに質問します。

子供たちの先生の評価は90%以上です。文部省の調査では、「今日の授業はよく分かったか」という質問に対して、中学生の評価は41%と半数にも満たない。だから、分からない子が下にたまってしまう。その子たちが非行や犯罪を起こしたり、不登校になるのです。

全国学力テストをやっても、真田町では低いレベルの児童はほとんどいません。先生たちの努力の賜物です。
親にも先生を評価してもらいます。親は先生たちを直接は知りませんから、子供の姿を見て評価してもらいます。

自分の子供が毎日元気よく楽しそうに学校へ行っているか、いやいやつまらなそうに行っているか、親はよく見ています。子供が生き生きと学校に通っていれば、学校では、分かる・できる・楽しい授業をやっていたり、学校を楽しい場にしてくれる先生がいたりします。

 「わが子は生き生きと学校へ行っているか」という質問に対して、小学校1年生は99%、3年も99%、6年は100%が「はい」と答えています。つまり不登校ぎみの生徒はいないということです。

しかし、荒れた学校の問題は、授業の改善だけで解決したわけではありません。もう1つの大きな問題は、子供たちの食にありました。[2009/4/9](つづく

撮影/山下恒徳
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