大塚 授業を改善してから、いじめや非行はずいぶん減ってきましたが、まったくなくなったわけではありませんでした。
そのころ、朝礼で貧血になって倒れたり、遅刻したり、登校しても保健室にずっといる生徒が多いのを見て、もしかしたら食べ物に原因があるのではないかと感じました。
そこで陸上競技大会とか球技大会の日に、早朝から会場のそばのコンビニに行って車の中から見ていると、母親が子供を車に乗せてやって来るのです。子供たちはコンビニで菓子パンとかジュースとか好きなものを買って出てくる。ジュースといっても果汁ではなくて、合成甘味料や合成着色料の入ったものです。
その子たちを調べると、毎朝朝食を食べて来なかったり、いつもイライラしていじめや非行をしたり、あるいは無気力な子供が多かったのです。
そこで親を呼んで、子供の指導を頼んでも、子供は親の言うことを聞かないですよ。なぜかというと、その子たちは、「今日、かあちゃんは何を作ってくれたかな」と、母親の気持を思いながら弁当箱を開くことがない。自分の好きな菓子パンやなんかを買って食べているのだから、親は“お財布(さいふ)代わり”です。
家に帰っても、「今日は、お弁当おいしかった?」と親が子に問いかける場面もないわけです。親子の心の絆(きずな)が切れてしまっている。子供たちにとって何とも寂しい親子の関係ではないかと思うのです。
大塚 以前から食事に問題があると思っていたので、校長になった時、食の調査を徹底的にやりました。その結果、38%もの子供が朝食をとっていないことが分かりました。
例えば、夕飯を前日の午後8時に食べても、給食は午後12時半頃からですから、少なくとも16時間ぐらい何も食べていないことになります。最も活動が盛んで、エネルギーの補給が必要な子供が、16時間も食べていなければ、空腹でイライラするか、無気力になるか、腹が減って友達をいじめてうっぷん晴らしをするようになるのは当然だと思います。
朝食を食べている子でも、何を食べているかと言えば菓子パンです。ジャムパンとかレーズンパン。それにハムやウインナーをちょっと焼いたもの。合成甘味料や合成着色料が入ったジュース。夜は、カレーや焼き肉。そういう子は朝食を食べていても、無気力だったり、キレやすかったり、非行を起こすことが多い。食事の改善をしなければ、根本的な解決にはならないと思いました。
大塚 そうです。ですから、少なくとも2日に1度は魚を食べて、カルシウムなどのミネラルを取らせてほしいと父兄に呼びかけました。子供が好きなカレーや焼き肉は、簡単で手間がかかりませんが、カルシウムや亜鉛、マグネシウムなど、血をきれいにして、前頭葉の働きを活発にしてくれるような微量栄養素がほとんどとれません。だから自己抑制ができなくて衝動的な行動をとってしまう。
でも、ほとんどの父兄は耳を傾けてくれませんでした。
もちろん、言われなくてもある程度バランスのよい食事を心がけている父兄もあります。でも無気力だったり、いじめや非行、犯罪を起こす子供の父兄にこそ考えてもらいたいのに、そういう家に限って聞き入れてくれない。それなら、もう学校の給食から変えるしかないと考えました。
最近でこそ「食育」が大事だと言われるようになりましたが、当時、まわりの反応はいかがでしたか。
大塚 そのころ、学校は週6日制で、2食が米飯、4食がパンやソフト麺でした。それをできるだけ米飯に切り替えて、野菜や魚中心のバランスのよい献立にしようと試みました。しかし、子供だけでなく、親や先生まで大反対でした。
先生たちも、揚げパンやレーズンパンのような菓子パン、ソフト麺や中華麺を食べて育ってきているから、そういうものが好きなのです。
最近の親は、「給食費を払っているのだから、子供が好きなものを食べさせてほしい」と言います。「食育」が叫ばれる今でも、そういう傾向が強いのです。
調理する方も、米を洗って炊いたり、食缶に移し替えたり、ご飯粒がこびりついた箸や食器を洗ったりと、米飯給食は手間がかかるのでいやがられます。
大塚 熱心に取り組んでくれる栄養士がいましてね。根気よく米飯給食の試食会を重ね、食の特別授業をしてもらいました。
試食会では、イワシの甘露煮やサンマのかば焼きなどを、本当においしく作ってくれて、食の授業で、「青魚にはEPAやDHAが含まれていて、血液をきれいにしてくれます」と、栄養が体にどう影響するかをきちんと説明しました。
今でこそ食育基本法が制定されて、栄養教諭が授業できるようになりましたが、当時はクラスで栄養士が授業をするなんてことはありえませんでしたから、かなり思い切った挑戦でした。給食を改善しようという信念を持って、私の校長判断で進めましたから、私も一生懸命でした。
食が体にどう影響を与えているのか分かると、子供や親も変わってきました。最初は反対していた先生も、栄養の大切さが分かってきます。現実に子供たちが問題を起こしていましたからね。
例えばどんな料理ですか。
大塚 魚はイワシやサンマの甘露煮、マスの南蛮揚げ、アジの香味焼き、焼きシシャモ、ワカサギの唐揚げなど、全部頭からおいしく食べられるもので、カルシウムや亜鉛やマグネシウムなどのミネラルを自然な形でとることができます。
ご飯は、ただの白米ではなく、発芽玄米を加えました。発芽米に含まれるギャバは血管を柔らかくし、腸をきれいにしてくれるのです。それでもまだミネラルが足りないから、手のひらいっぱいの小魚を毎日食べます。今日は食べる煮干し、今日はコオナゴ、今日はキビナゴという具合です。家庭でも、これだけしっかり食べさせているところはそんなにないと思います。 週に1食だけは、揚げパンとかソフト麺とか、みんなのお楽しみメニューにしました。 栄養士が本当によく頑張ってくれました。[2009/4/16](つづく)
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