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魚を食べて、60~70人いた不登校が2人に
 平成5年から、学校給食を、週6日のうち5食を米飯で魚と野菜中心の献立にされました。子供たちの反応はいかがでしたか。

大塚 子供たちは、喜んでご飯も魚も全部食べるようになりました。青魚を食べるから非常に血がきれいになります。思ったことをすぐに行動に移すということをしなくなりました。自分の感情を抑制できるようになったのです。

米飯給食を始めて7か月目ぐらいから学校全体が落ち着いてきました。以前は、校内でタバコの吸い殻を拾って歩くと、ビニール袋いっぱいになっていたのに、吸い殻が1本もなくなりました。子供たちはキレにくくなって、勉強をする態度が大きく変わりました。

2年目の終わりころには、非行や犯罪をする子供はほとんどいなくなったのです。60~70人もいた不登校は2人になりました。

大塚貢さん
おおつか・みつぐ 1936年長野県生まれ。信州大学卒業後、中学校教員、都内での会社員生活の後、長野県に戻り、県教育委員会指導主事、中学校教頭を経て、92年から中学校校長を務める。97年旧真田町教育長就任。市町村合併後、2006年より上田市教育委員長。07年退任後、教育・食育アドバイザーとして活躍中。
安心・安全、体によい給食を安く食べさせたい
 食材にも注意されたとか。

大塚 食材に疑問を感じたのは、米飯給食にする前に、いろいろなメーカーのパンを試してみようと思って買っておいたんです。ところが、何日たってもパンが硬くならず、カビも生えてこないことに驚いた。どのパンにも軟化剤や防腐剤が大量に入っているんですね。

小麦を製粉(せいふん)してイーストだけで焼いたパンは、3日もたてばバリンバリンに硬くなって、カビが生えてきます。それが自然ですよね。

それなら米は大丈夫かというと、そうでもないのです。お米を何十種類と買って試したら、米につくコクゾウムシがわかない。農薬がしみこんでいるからです。真田町のお年寄りが作っているお米にはコクゾウムシがわきます。

子供たちに安全なものを食べさせるにはどうしたらいいか。大規模農家にお願いして、休耕田やお年寄りが作らなくなった田んぼで、無農薬でお米を作ってもらう契約をしました。

ところが、学校給食の供給団体から、一農家の利益のために学校給食を私物化していると叩(たた)かれました。

そこで、無農薬は無理だけど、低農薬ならできるということで、農協に切り替えることにしました。今は野菜や大豆製品なども農家から仕入れたりしています。

農協との直接取り引きなので、発芽玄米入り米飯でもパン食と費用は変わりません。安心・安全、体によい給食を安く食べさせたい。やり方さえ工夫したらできるのです。地場産の食材を使うことで、地元の農家も元気になります。

 最近は、輸入食材が問題になっています。

食べ残しはほとんどない 食べ残しはほとんどない
大塚 外国産の食材は一切使いません。なるべく地産地消でやっています。

こんな話があります。地元でお年寄りが作ったブロッコリーは2、3日もすればしおれてきますが、中国産のブロッコリーは1週間たってもしおれません。農薬をさんざんかけて、防腐剤を入れているから。そこで青虫が食べたような地元のキャベツやブロッコリーを買うように言っていました。

そうしたら本当に給食に青虫が入っていて、親が子供を連れて乗り込んできました。ひと通り話を聞いた後で、「ところで、お宅のお子さんはアトピーですね」と聞いたら、「かわいそうで仕方がない」と言います。そこで、「虫も食べないものを子供に食べさせている結果ですよ。子供が苦しんでいるのは親のせい。農薬のかかっていない、虫が食べるようなものを食べさせれば良くなります。もう1度親子で話し合ってください」と言って帰しました。

その子は学校給食を続けて、アトピーが出なくなりました。

アトピー・高脂血症・高コレステロールの子供がいなくなった
真田町の子供たちは小魚が大好き 真田町の子供たちは小魚が大好き
 私たちも、もっと食事のことを考え、改善していく必要がありますね。

大塚 真田町の給食は、低農薬で、合成保存料や着色料は無添加、化学調味料を使わず、煮干しや昆布からだしを取ります。だからアレルギーやアトピーの子供はほとんどいません。

もう1つのポイントは、高脂血症や高コレステロールの子供がいなくなったことです。ある中学校の血液検査を信州大学医学部が行ったら、36%が高脂血症、高コレステロールという結果でした。それが何年かたてば生活習慣病になります。

真田町のような取り組みで、子供の時から生活習慣病を抑えることができれば、健康になるばかりか、医療費だってかなり抑えることができるわけです。

 米飯給食になってから、ほかに子供たちが変わったということがありますか。

大塚 荒れている時は図書館にほとんど行かなかった子供たちが、米飯給食を始めて2年目ぐらいから、自分から求めて本を読むようになりました。

それまでがらがらだった図書館の120ある椅子が、昼休みになると瞬(またた)く間にいっぱいになってしまうのです。椅子がいっぱいになると床に座って読む。床がいっぱいになると、廊下にまであふれ出して読んでいます。

図書館司書が子供たちを引きつけるために、本に関するクイズを出したり、先生の読書感想文を校内放送で流したり、工夫もしてくれました。当時としては珍しかった、朝の読書の時間も始めました。

そうすると、2年目からは読売新聞の作文コンクールで1位や2位に入賞する生徒も出てきたのです。

不思議なことに、本を読む子がいなかったころは、図書の紛失が年間480冊もあったのに、みんなが読むようになってからはゼロになりました。

教育長になってからも町全体の学校改善を進める
 平成9年に真田町の教育長になられてから、学校改善を町全体に広げられました。

飛躍的に伸びた真田地区の生徒の学力

A…高学力、B…中間、C…低学力
大塚 教育長になった時、町内の小中学校は、校長に就任した時と同じように荒れていました。盗んだバイクで夜中に暴走行為を繰り返す。無免許運転で事故を起こす。公園の公衆トイレを破壊する。やっぱり授業が面白くないのです。

校長の時の経験をもとに、先生たちと授業の改善に取り組みました。全国で数百万人が受ける数研式CRT学力テストを取り入れ、その結果をもとに研究授業を徹底的にやりました。

真田町では先生全員が年1回、多い先生は数回研究授業をやります。そこで批判し合って、叩き直す。最初はひどかった先生も、3回目、4回目になると、がらりと変わります。

校長の時は自分の学校だけ見ていればいいわけですが、教育長になると多くの学校を改善しなければなりません。

真田町の公立小学校を米飯給食に切り替える時は、先生や親の反対がものすごかった。米飯は手間がかかるので、調理師も猛反対です。それで校長時代によくやってくれた栄養士を呼んで、1校1校おいしい米飯給食の試食会を開き、根気よく説得して回りました。

そうやって1食ずつ米飯給食を増やして、平成13年には真田町の全公立小中学校で、週5日制の全食米飯給食に切り替えました。真田町が学校改革に成功した理由は、この地道な取り組みにあります。

 まわりの理解を得ることが大切ですね。

大塚 「食育」がクローズアップされている今でも、現場の状況は変わりません。

滋賀県のある市で、給食センターの新所長が子供の心と体を作ろうと、市長を動かして米飯に切り替えたところ、先生たちは猛反対しました。先生自身、菓子パンやソフト麺が好きな世代ですから、「まずくて食べられない」と先生が食缶に戻す。子供たちもそれをマネして捨ててしまった。それで残飯が増えて、行政から叩かれることになりました。

相談を受けて行ってみると、理解を得る手だてをしていなかったのですね。それに、米飯給食といっても肉料理が中心の献立になっていたので、これでは結果も出ません。

琵琶湖畔でいい米が取れるのだから、地場産の米を使って、琵琶湖の魚を使うことを提案しました。地元の農家や漁業関係者は大喜びです。そこであらためて先生や親の理解を得る努力をして、残飯はほとんどなくなったそうです。

真田町全体の非行や犯罪が減った
 学校改革によって真田町の非行や犯罪も減ったとか。

大塚 真田町で非行や犯罪がなくなって、もう5年以上たちます。少年だけでなく成人の犯罪も減っています。これは家庭の食事が変わってきたせいではないかと思うのです。

大人になって犯罪を起こす人は、子供のころから何らかの問題を起こしているケースが多い。だから子供の時に自己抑制できるように育つと、大人になってから犯罪を起こさなくなる。そして大人自身も食生活が変わって、自己抑制できるようになったのではないでしょうか。

今も年に1、2回、大学の先生を呼んで、食のフォーラムを開いています。そのせいか、「最近、お母ちゃんの料理が変わった」と子供たちは言います。冷凍食品やカップ麺を買わなくなったそうです。親の認識が変わってきたのでしょう。

それから、米飯給食は学力の向上とも関係していると思います。先ほどの数研式CRT学力テストですが、真田町の子供は、学力が高いAランクと中間のBランクが多く、学力が低いCランクはほとんどいません。

もちろん、先生の努力で授業が分かりやすく楽しくなったことも大きいのですが、魚を食べて、カルシウムや亜鉛などのミネラルやDHA、EPAをとるようになって、血がきれいになり、前頭葉の働きが活発になったためだと思います。[2009/4/23](つづく

撮影/山下恒徳
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