まず、コスタリカ国内のEM販売システムについて簡単に説明します。EMの製造は私が代表を務めるエムプロテック社(EM Produccion y Tecnologia S.A.)がアース大学内にある専用のEM工場で製造し、EM原液をアース大学所有の民間会社P.T.H社(Productos de Tropico Humedo S.A.)に引渡し、同社がボトリングし販売する仕組みになっています。
アース大学が直接販売できないのは大学が非営利団体で商業活動が法律で制限されているためで、P.T.H社がEMを含め大学で開発された液肥やヨーグルトも販売しています。言うまでもなくそうした商品の販売額の1%が学生の奨学資金となります。
EMの販売には広告は一切行っておらず、ほとんど口コミによるものです。しかしアース大学の国内でのネームバリューは非常に大きく、それがそのまま信頼として販売につながっているのも事実です。ただいつまでもアース大学の名前に甘んじられるほど世の中は甘くはなく、常に試行錯誤しながら最適な普及方法を取っています。
販売スタッフもアース大学卒業生中心だったのを、最近ではベテランの農業技師を販売員として雇用するなどして、販路の開拓ときめ細かいアフターサービスを提供できる体制を構築するなどの新しい方向性も探しています。
販売体制とともに普及度を熟成させるのに重要なのは、今までEMの普及が十分に入り込めなかった“農薬の聖地”といわれているバナナ栽培にEMを普及させることでした。コスタリカにはバナナ耕地面積が5万ヘクタールあり、バナナ産業は今でもコスタリカの重要な輸出産業になっています。
EMがアース大学に導入された当時、バナナ残渣を使ったボカシの投与やEMを散布するなどしてシガトカ病に対する研究が行われ、シガトカに対するEMの有効性が実証されてきました。しかし、その結果がなかなか普及には繋がりませんでした。理由としては「農薬でも防除が難しいのに微生物資材ではシガトカ病にはまったく効かない」と言った固定概念的なものや、「効果はあくまでも試験レベルのもの」「商業ベースでの実績がない」などの意見が多くあり、EM使用はバナナの残渣ボカシ以外ではほとんど使われることがありませんでした。
そこで2006年からシガトカ病の防除専門家を、EMシガトカ病対策普及員として迎え入れて、本格的にEM普及を進めました。まずはEMに理解を示す大手バナナ農場の中にEM区(最低30ヘクタール)を設けてもらい、1年以上に渡ってシガトカ病の動向、EMの散布量やEM活性液の品質による効果の出方などや、さらに普及員の意見を取り入れながら模索を続けました。その結果、以下の3点が重要な普及のポイントとして見出すことができました。
今から10年程前には考えられないような変わりようですが、これもEMの実力が少しずつですが、認められ始めたことを感じます。ただ今後、さらにEMの普及をステップアップさせるために取り組まなければならない点もあります。
最後に今年6月にコスタリカにおいて中南米で最初の「EMフェスタ」が開催され、比嘉先生にもご列席いただきました。先生が沖縄で実践されているEMバナナ栽培を近い将来コスタリカで、しかも大規模に実践できるよう関係者とともに努力していきたいです。
● EM活用によるシガトカ病防除データと写真の一部を公開いたします。
↑シガトカ病菌を培地に培養した実験。左はシガトカ菌のみを培養したもの。シガトカ病の菌糸が成長していることが分かる。右側はEMを加えたもの。シガトカ病菌糸の成長が抑えられていることが分かる。(右の写真の真ん中がシガトカ菌糸。右上方の黒いものはEM)
シガトカ病被害程度と防除方法との関係を示したグラフ。農薬区(慣行区)は赤いグラフ線、農薬+EMのコンビネーション区(農薬50%減の処理区)は青いグラフ線。両者を比較してもEM区(50%減農区)は慣行区に比べて全く遜色ない効果を示していることがわかる。また他の農場でもほぼ同じ(場所によってはEM区が明らかに優れる結果を示す)結果を得ている。 なお、グラフ中の赤横線以上になると被害程度が甚大となり、緑横線以下は被害程度が極小。
中南米で進むEMの普及 第1回 ニカラグア・ディスカパ湖浄化活動 第3回 コロンビア初の地方行政参加型の事例 第4回 コスタリカの日本人学校での取り組み
EM情報室より 比嘉照夫琉球大学名誉教授の連載「新・夢に生きる」でもコスタリカのことが書かれています。こちらもあわせてご覧ください。 新・夢に生きる 第17回 中米フェスタ