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第2回 コスタリカで実施されるEM活用のバナナ栽培



コスタリカ地図


緑に囲まれた広大なアース大学キャンパス


EM1号のラベル


アース大学卒業生らと筆者(右から2番目)
今回は中米コスタリカのEM普及現場の事例を紹介したいと思います。コスタリカと言えばアース大学(国際熱帯湿潤地区農業大学)を抜きには語れません。それはただ単に研究分野だけではなく、コスタリカ国内のEMの販売面でも大きな影響力があるからです。

まず、コスタリカ国内のEM販売システムについて簡単に説明します。EMの製造は私が代表を務めるエムプロテック社(EM Produccion y Tecnologia S.A.)がアース大学内にある専用のEM工場で製造し、EM原液をアース大学所有の民間会社P.T.H社(Productos de Tropico Humedo S.A.)に引渡し、同社がボトリングし販売する仕組みになっています。

アース大学が直接販売できないのは大学が非営利団体で商業活動が法律で制限されているためで、P.T.H社がEMを含め大学で開発された液肥やヨーグルトも販売しています。言うまでもなくそうした商品の販売額の1%が学生の奨学資金となります。

EMの販売には広告は一切行っておらず、ほとんど口コミによるものです。しかしアース大学の国内でのネームバリューは非常に大きく、それがそのまま信頼として販売につながっているのも事実です。ただいつまでもアース大学の名前に甘んじられるほど世の中は甘くはなく、常に試行錯誤しながら最適な普及方法を取っています。

販売スタッフもアース大学卒業生中心だったのを、最近ではベテランの農業技師を販売員として雇用するなどして、販路の開拓ときめ細かいアフターサービスを提供できる体制を構築するなどの新しい方向性も探しています。

販売体制とともに普及度を熟成させるのに重要なのは、今までEMの普及が十分に入り込めなかった“農薬の聖地”といわれているバナナ栽培にEMを普及させることでした。コスタリカにはバナナ耕地面積が5万ヘクタールあり、バナナ産業は今でもコスタリカの重要な輸出産業になっています。




バナナの葉を侵すブッラクシガトカ病斑 上が対照区、下がEM区(アース大学タボラ教授提供)
その反面、年間70億円近くの農薬費(人件費や飛行機散布費用含む)がバナナの葉を犯す黒斑点の病気、ブラックシガトカ病に対して注ぎ込まれていると言われています。この病気は雨量に比例して発生するために、コスタリカの主要なバナナ産地であるカリブ沿岸地帯では年間雨量が4000ミリに達するために甚大な被害を及んでいます。また、この病気を完全に押さえ込むことの出来る農薬が見つかっておらず、農薬に対して強い抵抗力を備えた病原菌が蔓延する理由にもなっています。このために、この地域だけでも農薬の航空散布が年間50回以上(週に1回の割合)にも及び経済的な負担だけでなく、環境やバナナ農園に従事する従業員の健康にも被害を与えています。

EMがアース大学に導入された当時、バナナ残渣を使ったボカシの投与やEMを散布するなどしてシガトカ病に対する研究が行われ、シガトカに対するEMの有効性が実証されてきました。しかし、その結果がなかなか普及には繋がりませんでした。理由としては「農薬でも防除が難しいのに微生物資材ではシガトカ病にはまったく効かない」と言った固定概念的なものや、「効果はあくまでも試験レベルのもの」「商業ベースでの実績がない」などの意見が多くあり、EM使用はバナナの残渣ボカシ以外ではほとんど使われることがありませんでした。

そこで2006年からシガトカ病の防除専門家を、EMシガトカ病対策普及員として迎え入れて、本格的にEM普及を進めました。まずはEMに理解を示す大手バナナ農場の中にEM区(最低30ヘクタール)を設けてもらい、1年以上に渡ってシガトカ病の動向、EMの散布量やEM活性液の品質による効果の出方などや、さらに普及員の意見を取り入れながら模索を続けました。その結果、以下の3点が重要な普及のポイントとして見出すことができました。

  1. EM活性液の品質が防除を大きく左右することが判明。常に抗酸化力の高い良質のEM活性液を使用するとシガトカ病の発生を抑えることが可能。
  2. 農薬使用量を50%減らすことを目標にEMと農薬を交互に使用する。この方法であれば比較的生産者に受け入れ易いことと、防除効果も農薬100%使用農場よりも効果が高い。
  3. EMの使用量をヘクタール当たり5リットルでも十分に効果が出る。
現在、チキータ社、デルモンテ社、ドール社といった大企業の農場にEM区を設けてもらい試験的に使用してもらっています。結果は良好で農薬と同等若しくはそれ以上の結果を出しています。さらに原油価格の高騰により農薬製品の価格も跳ね上がって経営面を圧迫し出したことや、食の安全性や環境保全といった面で農薬使用が輸入国側にも注視されていることも追い風となり、企業側としてもEMの使用に大きな興味を示しています。実際にEM区をさらに増やし、準商業ベース(300~500ヘクタール)での使用も始まろうとしています。

今から10年程前には考えられないような変わりようですが、これもEMの実力が少しずつですが、認められ始めたことを感じます。ただ今後、さらにEMの普及をステップアップさせるために取り組まなければならない点もあります。

  • EM使用による経済的な効果の調査
  • EM使用による間接的な効果(環境面、衛生面)の調査
  • 無農薬100%のバナナ栽培実現するための防除法の確立とデータの蓄積
  • 農薬販売会社との共存共栄の道を探すこと。EM使用により農薬販売が脅かされるという懸念を取り除き、彼らにEMの普及や販売に参加できる方法を探すこと。
特に農薬販売会社にとって農薬販売が減ってしまうことは死活問題でもあり、またコスタリカという小さい国では人々が色々な面で繋がっている場合が多く、商売を奪い取ってしまうという方法は将来的なことを考えても得策ではなく、農薬に替わってEMを普及できるようなシステムづくりが大切。現在、コスタリカ国内で最大手の農薬販売会社とEM販売に関してすり合せしている段階でもあります。

最後に今年6月にコスタリカにおいて中南米で最初の「EMフェスタ」が開催され、比嘉先生にもご列席いただきました。先生が沖縄で実践されているEMバナナ栽培を近い将来コスタリカで、しかも大規模に実践できるよう関係者とともに努力していきたいです。

 

 EM活用によるシガトカ病防除データと写真の一部を公開いたします。

EM処理区(航空散布)のバナナ。葉にまったくシガトカ病斑が見られないばかりか、線虫害の減少もあり土壌改善までされている

↑シガトカ病菌を培地に培養した実験。左はシガトカ菌のみを培養したもの。シガトカ病の菌糸が成長していることが分かる。右側はEMを加えたもの。シガトカ病菌糸の成長が抑えられていることが分かる。(右の写真の真ん中がシガトカ菌糸。右上方の黒いものはEM)


EMの航空散布

シガトカ病被害程度と防除方法との関係を示したグラフ。農薬区(慣行区)は赤いグラフ線、農薬+EMのコンビネーション区(農薬50%減の処理区)は青いグラフ線。両者を比較してもEM区(50%減農区)は慣行区に比べて全く遜色ない効果を示していることがわかる。また他の農場でもほぼ同じ(場所によってはEM区が明らかに優れる結果を示す)結果を得ている。
なお、グラフ中の赤横線以上になると被害程度が甚大となり、緑横線以下は被害程度が極小。

 

EM希釈率25%区(赤色)とEM希釈率20%区(青色)のシガトカ病抑制実験
希釈率25%区はシガトカ菌糸の生育をほぼ90%抑制していることが分かる↓
[2008年11月7日]

中南米で進むEMの普及
第1回 ニカラグア・ディスカパ湖浄化活動
第3回 コロンビア初の地方行政参加型の事例
第4回 コスタリカの日本人学校での取り組み

EM情報室より
比嘉照夫琉球大学名誉教授の連載「新・夢に生きる」でもコスタリカのことが書かれています。こちらもあわせてご覧ください。
新・夢に生きる 第17回 中米フェスタ


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