私は、㈱EM研究機構のコスタリカ事務所の駐在員として勤務しておりましたが、2年前に独立してEM Produccion y Tecnologia S.A.(略称エムプロテック社)を立ち上げ、EMの開発者・比嘉先生の指導の下、EM1号の製造及び普及をコスタリカ、パナマ、ニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラスの5か国で展開させていただいております。
中南米でのEMの普及は中米コスタリカにあるアース大学(国際熱帯湿潤地区農業大学)を中心に2000年から本格的に始まり、当時中南米ではブラジルとコスタリカ以外にはEMそのものもありませんでしたが、2000年以降はアース大学卒業生によるEM普及への参加もあり、今日ではEM製造国は14か国にまで至っております。同時に普及の熟成度も日に日に増してきており、優良事例も数多く出てきております。 この機会に、いくつかの国の優良事例を数回に分けて紹介したいと思います。今回は、ニカラグアについて紹介します。
●ニカラグア
ニカラグアでは、同国にある2つの大きな湖のうちの首都マナグア市にあるマナグア湖(面積は1,053平方キロメートル。ちなみに琵琶湖は670平方キロメートル)が、沿岸の工場廃水から垂れ流された水銀によって相当汚染されていると言われています。そこでアース大学卒業生らと共にEM技術によってこの湖を浄化することを大きな目標に置きました。
上手い具合にちょうど良い大きさでしかも近年汚染されて問題になっていた湖が急遽デモンストレーションモデル用として浮上しました。湖の名前はティスカパ湖という淡水の湖で、死火山の火口に雨水が溜まってできた火口湖で、マナグア市の中央に位置しています。元々は市民のレクレーション公園として使用していましたが、長年に渡って市街地の汚水やごみが流れ込み汚染が進んでしまい、すべての水上レクレーションが禁止された状態が続いている湖です。マナグア市役所も浄化対策を打ち出し、オゾン浄化などを進めてきたようですが思うようには進まず、費用だけがかかってしまったという失敗事例もあることから、安価で効果があり、さらに効果に持続性がある技術を求めていました。
EM活性液投入の様子
EM活性液タンク(1タンク10,000リットル)。湖水を利用して製造している
湖底へのEM注入には、ホース先に重石としてブロックを付けている
ティスカパ湖は水上面積が20ヘクタール、最大水深が50メートル、貯水量が1000万立米、年間に流入するヘドロ量が19,000立米で、流れ込む主な汚水は市街の下水(一部)、炭化水素(ガソリンスタンドや修理工場からの廃油)、そして有機物や一般ごみです。
EMによる浄化によって期待されている効果は、BOD(生物酸素要求量)、COD(化学酸素要求量)、大腸菌、悪臭、浮遊物、堆積物の低減でこれらの項目はマナグア市との契約書に盛り込まれ、3か月ごとに水質調査が行われています。
浄化方法は湖の大きさ、汚染の程度、雨量や市街地からの汚水の流入量などからEMの投入量を決め、まずはEM投入1か月後にある程度の結果が出ることを目標に進めました。EM活性液は週当たり50トンを水上と湖底へ直接動力ポンプを使って投与することとしました。
問題はEM活性液をつくるために必要となる水の調達でした。1週間に50トンの真水を調達するのは非常に困難でありましたが、様々な実験を繰り返し、最終的には汚染された湖水を使ってpH3.5のEM活性液の製造に成功し、これがこのプロジェクトの大きな鍵となりました。
1年間通しての同プロジェクトの結果は以下の通りですが、簡単に示すとBOD(生物酸素要求量)、COD(化学酸素要求量)は75%減少、病原菌性大腸菌を80%減、湖水のpHの正常化(6.5~7.0)、悪臭の完全除去並びに浮遊物質の60%除去とそれに伴う透視度の回復、湖底深度の回復(堆積物の減少)、溶存酸素の回復(表面部、深層部ともに100%以上回復)という素晴らしい結果となりました。
2007年には比嘉先生にも同プロジェクトを視察していただき、優良事例とお褒めのお言葉をいただいた次第で、ニカラグア人スタッフと共に、次回はマナグア湖だとモチベーションが高まっております。ちなみにこのプロジェクトは政権交代があったにもかかわらず2008年も継続しており、マナグア市にとっても重要なプロジェクトとして認められています。[2008年10月6日]
BODの減少データ(マナグア市提供)
大腸菌数の減少データ(5月始めにEM投入後2か月後にはほぼ0に)
リンの減少データ
中南米で進むEMの普及 第2回 コスタリカで実施されるEM活用のバナナ栽培 第3回 コロンビア初の地方行政参加型の事例 第4回 コスタリカの日本人学校での取り組み