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近代農業の自己矛盾

前号では京都大会で発表された「環境と福祉」の事例についてコメントしましたが、今回は家庭菜園を含めた不耕起栽培と有機物のリサイクルです。

私は常々、従来の農業技術は、労働生産性を無視した自給自足的な農業ならいざ知らず、経営の観点から考えると、構造的に赤字になるような形になっており、政策的な助成がない限り、自立は困難であると説明してきました。

この打開策として、海外の先進事例を出すまでもなく、規模拡大、機械化、合理化など様々な手段が実行され、小さな農業は成立し得ない状況になっています。

農耕と言われるように農業は土を耕すことから始まります。一般的に深耕すれば作物は良くできるため、可能な限り土は深く耕すという原則があり、機械貧乏の原因である大型機械が必要となってきます。

有機物の施用も地力の維持に不可欠なものですが、種々の有機物を集め堆肥化し、それを畑に施用するためには多大な労力と時間が必要となってきます。その対策として化学肥料が発展してきましたが、その結果は農地の荒廃はもとより、地下水や河川等が酸化し、様々な問題を引き起こしています。

また、「科学的と称された過去の化学肥料の研究」に基づいたN,P,Kを中心とした施肥体系の結果、日本中の土壌がカリ(K)過剰になり、ハウス栽培の大半がリン(P)過剰となっており、様々な副作用的障害が発生しています。

特に沖縄県ではカリ過剰のため、サトウキビの糖度が上がらないことが明らかとなり、カリを施用しない施肥設計も提案されています。「科学は常に誤ちを犯す」という典型的な事例ですが、普及の現場では、そのことが十分に理解されず、未だにN,P,K理論を持ち出し、自然農法や有機農業に対し、理論的成分量から、現実的に不可能な多大な有機物の施用を求めています。

その他、農業は病害虫や雑草との戦いと言われるくらいに大変な側面を持っています。その結果が、農薬や除草剤の開発と大々的な普及につながっていますが、この弊害は著しく、「農業がすべてを亡ぼしてしまう」という危機的状況に陥っています。

まさに「科学が人類を亡ぼす」構図になり始めています。自然農法も有機農業の復活運動も、近代的な科学的農法の誤りを正すために行われていますが、経済性という観点からすれば多くの問題を抱えています。

不耕起栽培

深根性と浅根性の作物の組み合わせや、混植、雑草との共生栽培など、不耕起栽培にも様々な方法がありますが、油断すると、たちまちにして雑草や病害虫に負けてしまい、経済的に成立し得ず、また規模が大きくなると応用が困難というのが現状です。

私はEMの普及が始まった当初から不耕起栽培にすべきであり、耕す必要があれば表面を軽く騒く程度にし、畑を休まさず連続的に作物を栽培すべきであると主張してきました。この考えは、自然農法の創始者である岡田茂吉師の思想に添ったものですが、EMの活用がない限り、広く一般に普及することは困難です。

この方法を実証してくれたのが、タイ国のサラブリ県にある自然農法研修センターです。そのお陰で、タイ国では20a以下の極めて小規模な農家でも自給自足を果たし、販売余力も出て、経済的に豊かになった事例が多数あります。この方法は麻薬栽培よりも経済性が高いため、麻薬栽培解決の大きな決め手となっています。

日本国内でも、いろいろな人々が不耕起栽培に協力してくれましたが、「従来の農業的常識にEMを上手に使う」レベルに止まっており、「EMに合わせて農業の方法を変える」ということにはなりませんでした。

「EMが導く自給菜園の環」と題して、京都大会で発表した、福井県の敦賀EMハーモニーの会長の樋口正夫さんも、当初は従来の農法にEMを使った生ごみリサイクルから始まりました。自給菜園にしては面積も大きく、朝市やレストランに出荷するようになり、多くの人々の要望に応じるために様々な努力を重ねたのですが、いろいろな面で限界に直面してしまいました。

幸いなことに樋口さんは農業には素人で、EMを活用した自然農法からスタートしましたので、不耕起連続栽培に抵抗なく挑戦し、様々な工夫を重ねながら数々の限界突破を実現し、とうとう有機JAS認証まで取得したのです。農地の利用率は一般の農家の3~4倍、労働生産性や収穫率から言えば、5倍以上に達しています。

規模は小さいとはいえ、10年余のこの実績は確かなものであり、高齢化社会における未来型農業のあり方を明確に示しています。この樋口さんの不耕起連続栽培はかなり波及し始めていますが、兵庫県篠山市の川崎二郎さんもその1人です。

川崎二郎さんと言えば、菜園部会では知らない人はいないくらいに有名な人で、「土が変わる人が変わる」のEM生ごみリサイクルの実践編を出した功労者です。二郎さんも従来の農業の方法にEMを上手に使うことからスタートし、数々の限界突破を実現しましたが、寄る年波に勝てず、樋口さんの指導を受け、とうとう不耕起連続栽培へと切り替えたのです。

その成果は、二郎さんの80歳の傘寿を記念して、生ごみ再利用で楽しい家庭菜園EM15年の実績として、『不耕起栽培の世界』を5月上旬に出版されます。写真500点100ページ余の「喜びや楽しみを見つけ、喜びや楽しみを創る」楽しい独創的な本となっており、これからの家庭菜園の必読書です。また、規模が大きいため専業農家にも活用できるレベルに達しています。

究極の不耕起連続栽培

私は2年半前から15aのひどい荒れ地を、誰の手助けも受けずに究極の不耕起連続栽培の完成のため、バナナ園を中心に野菜等をつくってきました。忙しいために、中々進まず、最近になって基盤整備がやっと終わり、本格化し始めています。畑は10a弱ですが、昨年はバナナ1500s余、野菜は9軒の家庭に過不足なく配り、たまにはEM研究機構の職員に配るくらいにできるようになりました。

不耕起連続栽培ですので、通路にはジュウタン(中古)が敷かれ、草も生えず、ボカシもまったく使わず、施肥と病害虫対策は、青草液肥を思い切り活用する方法に切り替えました。(米ヌカ1~2%、EM活性液1%、スーパーセラC30gを100リットルのドラム缶に入れ、その中に雑草やハーブ、防風林の剪定枝、収穫残渣等を入れ、4~5日発酵させたもの)

紙面の都合で詳細な機会を改めたいと思いますが、今年の目標はバナナ3000s、野菜は昨年の2倍を設定しています。うまくいけば一般農家の10倍以上の収益性があり、有機物のエネルギーを120%に活用することも可能であり、今年中には究極の不耕起連続栽培が実現する見通しとなりました。

(2008年5月1日・毎月1日更新)
PROFILE
ひが・てるお/1941年沖縄県生まれ。EMの開発者。琉球大学名誉教授。国際EM技術センター長。アジア・太平洋自然農業ネットワーク会長、(公財)自然農法国際研究開発センター評議員、(公財)日本花の会評議員、NPO法人地球環境・共生ネットワーク理事長、農水省・国土交通省提唱「全国花のまちづくりコンクール」審査委員長(平成3年〜平成28年)。著書に「新・地球を救う大変革」「地球を救う大変革①②③」「甦る未来」(サンマーク出版)、「EM医学革命」「新世紀EM環境革命」(綜合ユニコム)、「微生物の農業利用と環境保全」(農文協)、「愛と微生物のすべて」(ヒカルランド)、「シントロピーの法則」(地球環境共生ネットワーク)など。2019年8月に最新刊「日本の真髄」(文芸アカデミー)を上梓。2022年(令和4年)春の勲章・褒章において、瑞宝中綬章を受章した。


 
自然農法研修センターで行われているEMボカシづくりの実習風景


京都大会で発表する敦賀EMハーモニーの樋口正夫さん


約5年前から不耕起栽培に取り組んでいる川崎さんのトマト。一房に13個摘果


究極の不耕起連続栽培


2年間不耕起のレタスの株出栽培。右端のドラム缶で青草液肥をつくっている


青草液肥をやった今年のバナナは平年の1.5倍を収穫


青草液肥をやると、バナナの下のリーフレタスも良く育った


青草液肥で、バナナの下のサラダ菜も良く育った


不耕栽培2年余のレタスの株出栽培。株が出ない場合は補植し、周年収穫できるようにする。不耕起なので畑の所々に花等も植え楽しんでいる

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