安部司さん
「食品の裏側」著者、食品ジャーナリスト
あべ・つかさ 1951年福岡県生まれ。山口大学文理学部化学科卒。食品・添加物商社でトップセールスマンとして活躍した後、無添加食品・自然海塩の開発・推進に携わる。現在は執筆のかたわら、全国の自治体や学校を中心に講演活動を続けている。有機農業JAS判定員。水質第一種公害防止管理者。著書の『食品の裏側』(東洋経済新報社)は55万部を超えるベストセラー。安部司さんの講演についてのお問い合せ先 株式会社 永紘(えいこう) TEL:06−6649−0563 URL:http://www.e-eiko.jp
なぜ多くの添加物が使われる?
―― なぜ今日、こんなに多くの添加物が使われるのでしょうか。

安部 添加物は約1,500種類あります。食品衛生法によると、「食品添加物とは、食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用する物」となっています。これでは分からないでしょう。私に言わせれば、添加物は「家の台所にないもの」それだけです。

添加物の働きを要約すると、次の5つが挙げられます。

まず「安い」。添加物を駆使すれば、質が悪い原料でも使えます。だから安い食品ができるんです。

2番目は「簡単」。買う時にでき上がっているものが多い。そのまま食べられるから簡単です。

3番目は「便利」です。スーパーの弁当をつくっても、夕方までしか持たないのでは相手にされない。そこで保存料をいっぱい入れて長持ちさせる。カップラーメンなんて、お湯を注ぐだけで食べられる。便利でしょう。これは添加物によって可能になるんです。

4番目は見た目が「きれい」。少々色の悪いハムだって、4~5種類の添加物を使うと本当にきれいなピンク色になります。卵焼きも真っ黄色になる。野菜だってしなびてよれよれになっていても大丈夫。次亜塩素酸ソーダ、ブリーチで5~6回洗っておいて、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等が入ったpH調整剤の溶液の中に氷と一緒に浸ければパキンパキンになります。

5番目は「味が濃い」。素材に味がなくてもいい。ビーフ100%って言うけど、ビーフの正肉じゃなくて、ネック(首)だろうが何だろうがかまわない。コンビニ弁当の小芋の煮っころがし、ホウレン草のお浸し、白和え、炊き込み御飯、どれも化学調味料が使われています。しかも野菜のうまみより、野菜に添加物を入れた味のほうが好まれるんです。

消費者が求めている添加物
―― そんなふうに聞くと、メーカーを責めるだけではダメですね。

安部 そうなんです。消費者が求めるから添加物を使っているという部分も大いにあるんです。あるリサーチ会社が、消費者の購買動機、つまり何を基準にして物を買うかを調べたところ、上位6位に、安い、簡単、便利、きれい、おいしい、が全部入りました。次に入るのは、日付です。こういった基準で物を買う以上、添加物は絶対に減らない。だから、年々増えているんです。農薬なんかも減るわけがないでしょう。

つくる人だって大変なんです。どれだけ値切られていると思いますか。おにぎりが105円なんですよ。20年位前にこんな話が出た時、大手上場会社のある工場は、売値150円でないとできないと言ったんです。今はもう100円でできるようになった。それだけがんばってコストダウンした。私の知っているおにぎり工場は1日に2万個つくれます。それくらいつくらないと採算が合わない。米を炊くのはたった2人です。あとはロボットで成型していかないと、そんな値段でできない。

売る人も大変です。もし異物でも入っていると、店もメーカーも、回収だ、補償だということで、両方潰します。この前、パンの中に鍋の焦げが入っていた。髪の毛でも虫でもない、鍋の焦げですよ。それだけで1万2,000個全品回収させた。これが日本の消費者であり流通です。それだけ厳しい。だから、メーカーはびくびくしながらやっている。

擁護するわけではないけれど、消費者がこれだけの値段でこれだけの要求をするから、メーカーは添加物を使わざるを得ないのです。本当は添加物を使いたくないと思っているメーカーもたくさんあることを知っておいてください。

消費者の行動で減る添加物
安部 コンビニでは、あれだけ照明を当てなくては日本の消費者は買わない。そして常温で売っている。「これ、常温で大丈夫なの?」って素朴な疑問を持ちませんか。おにぎりだって、後ろから冷気が来ているけど、20度か22度です。品質のために扉をつけると、売り上げが40%落ちる。消費者が、開けて取り出すのは面倒臭いというんです。

それに、日本人は非常に見てくれを気にします。私はアラスカ、アメリカ、メキシコ、台湾等を回って、日本向けの市場や食材開発を視察しましたが、日本人ほど世界中でバカにされている民族はありません。農薬が基準すれすれであろうが、とにかく形がよくて安くないとだめというんです。

だから、つくる人も売る人も、添加物が必要なんです。そして、何よりもそれを一番いいと思っているのは、これを買う消費者です。消費者は被害者でも何でもない、添加物の支持者なんです。だから、私の本にも「みんな大好きな食品添加物」と書いている。食品の裏側に添加物がこれだけ書いてあるんだから、嫌な人は買いませんよ。

―― 消費者の行動で、添加物を減らすこともできるわけですね。

素朴な疑問を大切に
安部 「添加物はむずかしそうで分からない」という人がいます。でも、何もむずかしく考えなくていいんです。添加物は台所にないものです。食品の裏側に、台所にないものがいっぱい書いてある。それだけで充分じゃないでしょうか。

それに、裏のラベルを見なくても、これは私がつくるとすぐ傷むのに、という疑問はありませんか。例えば、ゴボウサラダとかホウレン草のお浸しを夕方につくった。冷蔵庫にしまうのを忘れて、次の朝、食べる勇気がありますか。24時間後は?気持ち悪いでしょう。でも、そういう売り方をしているじゃないですか。

卵焼きだってたくあんだって、どうしてあんなにきれいな黄色をしているんでしょうか。

本当なら1本1000円するしょうゆが1本198円。えらく安いな。2本買っておこう。いくらスーパーの特売だからって、そんなわけはないでしょう。1年かけてつくった本物のしょうゆではなく、添加物でつくった「しょうゆ風調味料」だからそんなに安いのです。

そういった素朴な疑問を大切にすることです。

添加物には光もあれば陰もある
―― 添加物でつくった“まがいもの”の食品も多いのですね。

安部 210円のポテトサラダに入っているマヨネーズはニセモノです。本物のマヨネーズを使っていると210円では売れません。サラダ油と水とを乳化して真っ白にしておいて、増粘多糖類、酸味料、化学調味料を入れて、少し黄色く染めて、マヨソースとか半固形状ドレッシングとか、適当な名前を付けて売っています。そうやって安い商品をつくっているのです。

合成イクラは、アルギン酸ナトリウム溶液に着色料で色を付けて、塩化カルシウムを溶かした液に滴を垂らしてやると、球形に凝固してイクラそっくりになる。挙げだすときりがありません。

でも、全ての添加物を追放するなんて不可能です。と言うか、みんな添加物の恩恵をこうむって暮らしているのです。高くて、保存がきかず、食べるのに手間がかかるとしたら、今のような食生活は望めません。出先でお腹が空いたけどゆっくり食べている時間がないという時、コンビニのおにぎりはありがたい。添加物には光の部分もあれば陰の部分もある。そこを忘れないで、添加物と付き合うことです。

―― 確かに、添加物を悪者にするだけでは何も解決しないですね。


①とろみのある溶液に着色料を混ぜる

②カルシウム入りの水溶液に垂らすと…

③凝固反応で丸く固まり、人工イクラの完成

添加物はどの程度安全か?
―― ところで、添加物の安全性はどこまで信頼できますか?

安部 分かりません。もちろん食品衛生法で厳重に管理はされています。安全性はきちんと証明されている、と言う人もいます。でも、それはネズミを使ってですね。ネズミに90日間与えたらどうなるか、皮膚に塗り続けて皮膚ガンが発生するのか。どれだけ与えるとネズミ100匹のうち50匹が死ぬか、そういったことを莫大な時間と予算をかけてやっています。その上で、ネズミで大丈夫なら、その100分の1にすれば人間にも大丈夫じゃないか、という規準でやっています。でも、私に言わせると、しょせん動物実験。だから、急に禁止になることがある。

最近も、アカネ色素という天然系の色素が禁止になりました。15年も使っていたが、人間にとっては発ガン性があることが分かった。ネズミでは分からなかったわけです。じゃ、15年間も摂り続けた私たちはどうするのと言いたいけど、これは個人の責任です。だって、アカネ色素で異常にきれいに染められた食品を追い求めたのは自分でしょう。そんな色に染められたものは気持ち悪いから私はいらない、という人だっていっぱいいるんですから。

それともう1つ、1種類ずつは実験をやっています。でも、子供たちや皆さんが食べるものには、20種類、30種類と入っている。

また、朝は、何とかの素でちょこちょこっと朝食を食べて、お昼はコンビニの弁当を食べて、夜はみんなでファミリーレストランに行った。これだけで、連続して3回摂っている添加物は10種類以上ある。それでどうなるかは分からない。となれば、やっぱり自己責任で自分が判断するしかない。

その判断基準は、法律を勉強しても追いつきません。化学を勉強してもなお追いつかない。そこで、「素朴な疑問で行きましょう」と言うんです。(つづく

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