安部 幼稚園や保育所でも講演を依頼されることが多いんです。いつも子供達とお母さんの前で無果汁のジュースをつくります。水の入ったビーカーに合成着色料の黄色4号を入れると鮮やかなレモンイエローになる。オレンジなら黄色5号。合成着色料は今は石油からつくります。
これにブドウ糖果糖液糖のシロップを入れます。これで甘い水ができましたが、この状態では飲めません。子供でも大人でも、「試しに飲んでごらん」と言われてちょっと口にするとあまりに甘いので、「ウエーッ!」と顔をしかめる。体が嫌がっているんです。そこで、クエン酸で酸味を加えます。恐ろしいことに、これを入れると甘酸っぱくなって、「おいしい」と言って飲めるようになるのです。
あとは匂いです。香料は600種類位ありますが全部合成です。つーんと来るもの、ほわっとするもの。それを組み合わせて、レモンでもイチゴでも、何でもつくれる。
「これでレモンジュースができました。さあ、飲みたい子はいるかな?」と聞くと、手品を見ているような顔付きの子供達は「はい!はい!」と元気よく手を挙げます。それを飲んだ子供は、「このジュース、おいしい」と言ってうれしそう。後ろで見ていたお母さん達はすっかり固まっています。
安部 普通の商社のセールスマンは、飲ます、喰わす、値引きする、ということで仕事をとろうとしますが、私は一切しない。その代わり、この会社は何で困っているのか、それはどんな添加物を使ったら解決できるのかを一所懸命自分で研究しました。朝4時に起きてかまぼこ工場に行き、仕事を手伝いながらかまぼこのつくり方を学んだこともあります。それで、食品に関する特許を個人で4件とって、そのうち2件は添加物です。当時は添加物で新しい食文化をつくるんだと意気込んでいました。
―― それが、現在は添加物の実態を知らせるため、全国を講演で飛び回っている。何が転機になったのでしょうか?
安部 長女の3歳の誕生日、テーブルに並んだご馳走の中に、ミートボールがありました。それはメーカーに依頼されて私が開発したものでした。安いクズ肉に、ビーフエキス、化学調味料、結着剤、乳化剤、着色料、保存剤、pH調整剤、酸化防止剤等20~30種類の添加物を投入したもので、「添加物のかたまり」と言ってもいいほど。でも、発売すると大ヒット、そのメーカーはこの商品でビルが建ったと
そのミートボールをおいしそうに頬張るわが子に、思わず「ちょっと待て」と言っていました。
その晩、私は考えました。このミートボールは私の誇り。本来なら廃棄されるクズ肉を食品として生き返らせたわけだから、環境にもやさしいし、勿論、法律的にも何の問題もない。安いから主婦も大歓迎。だからあれほど売れた。これらの開発で食品産業の発展に寄与したという自負もある。
だけど、自分の子供達には食べさせたくない。自分は今までつくる側、売る側に立って考えていたけど、買う側、食べる側に立つと、やっぱり気持ち悪い。これは自分の「生涯の仕事」だろうか――。
一睡もせずに考えた挙げ句、翌日、私は会社を辞めました。
明太子はタラコを原料としてつくられますが、想像以上の添加物が使われています。軟らかくて色の悪い低級品タラコでも、添加物の液に一晩つけておくと、身も締まり、透き通ったつやつや肌になります。この時、着色用、身引き締め用、品質改良用として、ポリリン酸ナトリウム、ニコチン酸アミド等をブレンドして使います。
そうして調整されたタラコを加工して明太子にするのですが、味付けと保存のために、さらに別の添加物が加えられます。ですから、出来上がった明太子には20種類近くの添加物が使われていることになります。とりわけ化学調味料の量は相当なもので、明太子の総重量の2~3%にもなります。
―― 最近は、無着色明太子も売られていますね。
安部 これがくせ者なんです。「無着色」というと、いかにも添加物が少なくて健康によさそうでしょう。でも、合成着色料こそ使われていませんが、それ以外の添加物はみんな入っているんです。20種類のうち、合成着色料が2~3種類減ったからといって、体にいいとは言えません。金色の「無着色」というシールを貼ったものなども見かけますが、わざと消費者に誤解を与えるやり方で、感心しませんね。これは明太子に限ったことではありませんが。
安部 ハムも、きれいなピンク色にするために発色剤として亜硝酸ナトリウム、色が褪めないようにアスコルビン酸ナトリウム等を入れ、それらの色素を落ち着けるためにポリリン酸ナトリウム等を加える。色だけでこれだけ入れます。
それから、業界に「プリンハム」という言葉があります。これは、原料の豚肉に肉用ゼリー液を注射して20~30%増量させ、加熱して固まらせてハムらしくしたものです。このゼリーの原料は主に大豆や卵白ですが、色や弾力を与えるためにさらに添加物を加えます。「このハム、なんでこんなに安いんだろう」と思った時は、裏返して表示を見てください。聞いたことがないカタカナの物質名が並んでいます。それに、大豆たんぱく、卵白、乳たんぱくが使われている。なぜハムにこんなものが入っているの? そういう素朴な疑問をもつことが大切です。
漬物も、添加物を大量に使う食品の1つです。20~30年前、日本人は塩分を摂りすぎていると言われ始め、その槍玉にあがったのが漬物でした。それまでは塩と、着色のためのウコンやシソだけで素朴につくられていたのですが。
例えば梅干。伝統的な梅干は重量の10~15%の塩を使います。塩は味付けのためばかりでなく、カビや色落ちを防ぎ、食感を保つという役割もある。これを低塩梅干にしようとすると、他のものでその代わりをさせなければなりません。そこで、化学調味料で味付けし酸味料で酸味を補い、ソルビン酸で保存、酸化防止剤で色落ちを防ぎます。さらにしょっぱさを弱めるため、甘草、ステビア、サッカリン等の甘味料を加えます。
たくあんも、変色した大根をハイドロサルファイトとかピロ亜硫酸ナトリウムで真っ白にした後、黄色4号できれいな黄色をつけます。しゃきしゃきした食感も添加物を使えば簡単です。味付けも勿論、添加物です。
―― お話を聞くだけで恐ろしくなってきます。
コンビニのおにぎりは全国で1日に約200万個売れています。また、最近では健康志向も手伝ってゴボウサラダとかカット野菜がよく売れています。では、この中に添加物が何種類入っているか。
例えば、昆布の佃煮の入ったおにぎりは、メーカーにもよりますが、10~20種類は使われている。このおにぎりは1つ105円です。新米でつくると135円以上になって高くて売れない。だから、古米を使いますが、それを新米っぽくするために添加物を使います。また、おにぎりを機械でうまくつくるために、色々な添加物を加えます。中の具材を2日ぐらい日もちさせるためにも使います。
実はこれらの野菜は、カットされた状態で殺菌剤の入ったプールに何度も投げ込んで消毒するのです。さらに、食べた時のしゃきしゃき感を出すために、pH調整剤のプールにつけることもあります。そんな野菜を、みんな「健康のため」と思って食べているのです。
コンビニだけではありません。スーパーやデパ地下、外食の持ち帰り弁当やお総菜のばら売りも同じです。生協も安心できません。ともかく、買う時に食品の裏の表示を自分の目で確かめることです。そこに、家の台所にはない物質名が並んでいたら、要注意です。
―― まさに「食品の裏側」をよく確かめることですね。(つづく)
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