有機農業関係者以外の参加者も多かったシンポジウム

美山有機農業推進協議会の発表を行う大澤事務局長
平成23年度環境保全型農業シンポジウムが11月22日、東京・全国農業共済会館で行われ、”環境保全型農業を行う優良事例に学ぼう”と関係者およそ140人が参加しました。環境に負荷をかけない減農薬に取り組むエコファーマーは21万戸を超えていますが、市場での評価は定まっておらず価格に反映できないなどの問題を抱えています。主催した全国環境保全型農業推進会議(事務局・財団法人日本土壌協会)の松本聡会長は、福島第1原子力発電所の事故に触れて、「農業は大変困難な情況にあるが、今まで蓄積してきた技術で乗り越えていきたい」と前向きに取り組む決意を述べました。

シンポジウムでは、平成22年度の環境保全型農業推進コンクールで農林水産大臣賞を受賞した三区町環境保全隊(栃木県那須塩原市)、佐藤農場(旧佐藤柑橘(かんきつ)園、佐賀県鹿島市)、美山有機農業推進協議会(京都府南丹市)の3団体が発表。当サイトで掲載した「からぶきの里便り」の舞台、美山有機農業推進協議会は、南丹市市議会議員で「美山自然農法の会」代表の村田正夫さんが議会開会中のため、市職員の大澤忠和事務局長が発表しました。

また、「農地の除染及び農作物への吸収抑制対策」と題して、農林水産省生産局農林部・鈴木良典農業環境対策課長が、国の除染方法を初めて発表しました。なお、12月5日には、福島県の農地と林地の除染基本方針を11月22日の報告に沿い水田や畑地は、ゼオライトやバーミキュライトなどの吸着材を散布した上で、反転耕すか深耕することに決定しました。米を今年度作付けなかった水田では、表土の削り取りも実施するとしていますが、削り取った廃棄土をどこに処分するかは未定。また、食品中の放射性物質規制値の見直しにより、土壌中の放射性セシウムの上限値(現在は5,000Bq/kg)が変わり、関連して農地の除染目標値も変わる見込みです。

京都府南丹市の美山有機農業推進協議会の発表要旨
美山有機農業推進協議会事務局長 大澤忠和


平成16年から実施されている認定制度
水稲有機栽培を実践する「美山自然農法の会」、南丹市美山町独自の農産物認証制度を実施する「美山認証野菜生産者の会」、流通を担う「美山ふるさと株式会社」、京都府南丹農業普及センター、南丹市役所美山支所産業建設課で構成する協議会は、平成20年に設立。有機農業モデルタウン事業に選ばれ、都市農村交流や農業体験・環境学習、有機農業技術講習、販売促進など多方面にわたる活動を行っている。

米づくりには自然農法の技術を用い、水深5センチほどの水を張りロータリー耕を浅くかけてトロトロ層をつくることや、田植え後にEM発酵ペレットを田面施用し、深水管理をすることで雑草を抑えるなどの成果が出ている。また、独自の農産物認証制度では、化学肥料も化学合成農薬も使わない農産物に「金」の認証シールを貼り、減化学肥料で防除回数を制限した農産物には「銀」の認証シールを貼るなど、消費者にも一目でわかる工夫をしている。町外への販売は第三セクター「美山ふるさと株式会社」が行い、消費者グループとの連携で、生ごみなど食物残さを一次処理して回収、堆肥化して生産に役立てる資源循環の取り組みも行っている。今後は、専業農家だけではなく、家庭菜園を行う市民にも参加して、学校給食への安全な地場農産物の供給、観光の拠点として都市との交流をさらに充実させたい。

「農地の除染及び農作物への吸収抑制対策」の講演要旨
農林水産省生産局農林部農業環境対策課長 鈴木良典


農水省の除染対策について発表する 鈴木課長
3月の原発事故の影響により、放射性セシウムによる農地土壌の汚染が発生し、その影響は東北・関東一円に拡大している。事故発生後の風向きや雨の影響により、原発からの距離と関係なく、汚染の程度に大きな差が出ている。放射性セシウム(134Cs、137Csの合計)は、耕起しない農地土壌の表面から2.5cmの深さに95%が存在している。放射性セシウムは土壌中で陽イオンとしてふるまうため、負に帯電する有機物や粘土鉱物に多く結合している。

1.農地土壌の除染技術について

表土削り取り、水による土壌攪拌・除去、反転耕の3つの実験を行った。表土削り取りのメリットは、放射性物質を農地から除去できるが、大量の廃棄土壌が発生する。(土壌4cm削った場合、10a当たり40トンの廃棄土が出る)約4cm削り取りにより、土壌の放射性セシウム濃度は、約75パーセント低減。水による土壌攪拌・除去は、土壌の種類によって異なるが、予備試験で約30〜70%低減すると推定。反転耕による除染については、土壌診断や地下水位などの評価が必要なため、結論が出ていない。

2.農産物の吸収抑制対策について

@ 吸収抑制資材
バーミキュライトなどの粘土鉱物やゼオライトやベントナイトなどの粘土鉱物資材は、セシウムをきわめて強く固定するため、植物への吸収を抑制する効果が期待できる。
カリウムとセシウムは、同じアルカリ金属に分類され、物理的にも科学的にも性質が似ており、土壌溶液中のカリウム濃度が低い場合は、植物によるセシウムの吸収が促進されることが知られている。そのため、特にカリウム肥沃度が低い土壌において、カリウム施肥によるセシウム吸収抑制効果が高いとの報告がある。
A 品目・品種の転換、剪定・改植
土壌中放射性セシウムの移行の程度がより小さい品目、品種に作付転換することで、農作物への移行低減をはかる。「農地土壌中の放射性セシウムの野菜類と果実への移行について」(平成23年5月27日農林水産省)によれば、いも類を除く野菜類における移行係数は、最大値は0.1未満。
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/nouan/110527.html

3.安全な農産物の供給体制の構築

資材対策

堆肥や肥料などの暫定許容値400Bq/kgの遵守。土壌や作物対策のモニタリングを行い、安全な農産物を供給する体制を構築する。

4.食品の放射性物質の新たな規制値の設定

放射線による影響が見出されているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における追加の累積線量をおおよそ100mSvと判断。

小児については感受性が成人より高い可能性がある。(食品安全委員会答申 10月27日)
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/radio_hyoka_qa.pdf 

食品中の放射性物質の新たな規制値の設定

年間5mSvと設定されている食品から許容することのできる線量を、来年4月を目処に一定の経過処置を設けた上で、年間1mSvに引き下げることを基本に厚生労働省薬事・食品衛生審議会で今後検討する。

2011年12月21日

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