有機種苗の普及が遅いにもかかわらず、有機農産物の認証に有機種子を義務付つける動きが強まり、有機認証農家に危機感が生まれています。ちなみに世界の有機農産物は有機種子から育てることが常識となっています。そんな状況下、まずは有機種苗の現状を知ろうと、有機農業推進議員連盟や特定非営利活動法人全国有機農業推進協議会、特定非営利活動法人日本有機農業研究会などが協力して、種苗に関する団体や個人が一同に会しました。セミナーでは、世界のGMO(遺伝子組み換え種子)戦略をはじめ、有機農業の原則である有機種子・有機種苗の重要性、自家採種のメリット・デメリットを学び、すべて外国にたよる種子の現状をどう変えていくかを議論しました。
「種子メーカーの世界戦略」と題した基調講演を行った天笠啓祐さんは、近くのホームセンターで売られている種子の産地を調べてみると、「販売されている種子は244種類。国産はクロマメ、カボチャ、エダマメの3種類、残りの241種類の種子はすべて外国産で、しかも京野菜の種子はニュージーランド産、大根はほとんどが米国産で、日本独自と思われている作物の品種の種子が、ことごとくイタリアやメキシコ、タイなどからきている」と身近なところから、日本の種子の現状を報告しました。
さらに世界へ目を転じると、なんといっても種子生産の企業化です。モンサント、シンジェンダ、デユポンの3社が、世界の種子の50%近くを支配し、2010年には29カ国・1億4800万haに達し、全世界の作物面積の10%、栽培地域は南北アメリカ大陸を中心に、アジア、アフリカ、ヨーロッパに拡大しています。今後は、日本をはじめアジアの国をターゲットにしてイネとコムギの種子、さらに野菜の種子を支配する計画があります。日本ではまだ許可されていない遺伝子組み換え種子(GM)の開発を強力に進めています。また、すでに耐性菌を持ってしまったGM種子を改良して旱魃になっても経済性が落ちない作物生産を行うため、8種類の殺虫遺伝子を導入する動きもあります。
GM種子が入ってくると、在来の自然の種子が駆逐されることはすでに報じられています。たとえば、アメリカから名古屋・四日市港に陸揚げされた「GMなたねの種」が知多や松坂の工場へ運搬される街道の両脇にこぼれ落ち、明らかにそこにはなかった「なたね」が咲いたり、GMなたねがブロッコリーと交配されてブロッコリーからなたねの花が咲いてしまったということは、すでに新聞報道されています。また、家畜の飼料としてGM大豆・トウモロコシが輸入されており、GM種子の広がりは歯止めのきかない状況です。 生命特許制度によって各国がGM種子の安全性を調査することもできない仕組みをつくっているのも問題です。風による受粉を防ぐことができず作物が交配することで、農家が守ってきた種を失うほか、特許をとった品種との交雑することで、自家採種することも難しくなります。(文責在記者)
この講演の後、固定種や在来種の採種に取り組む、中川原敏雄さん(公益財団法人自然農法国際研究開発センター・研究部特別研究員)と林重孝さん(千葉・日本有機農業研究会副理事長)が、種子の現状と取り組みについて問題提起しました。
一方、林さんは、年間に栽培する150種類の果樹や野菜のうち、およそ60種の野菜の種を採取しています。種から育てることこそ有機本来の姿だという信念を持ち、「身土不二」を実践しています。一般に流通している農薬と化学肥料を使う品種の種をそのまま有機の土にまいてもうまく育たないという欠点があり、これが有機農業の普及を狭めているのではという問題意識から、「農家は、農薬のない時代からつくり続けている野菜がひとつやふたつある。その種は農薬を使わなくても立派に育つのだから、その種を交換しよう」と日本有機農業研究会で種苗交換ネットワークを立ち上げました。1982年から種苗交換会を年1回行っています。「自家採種は手間がかかるため農家の負担になる。また、自家採種した固定種は、F1に比べてばらつきが出る欠点もあるが、なによりも自分だけのおもしろい野菜をつくることもでき、有機農業ならではの価値が出る」と話しました。
これを受けて、堺泰男さん(IFJ理事・株式会社ビオマーケット専務取締役)の司会で、パネルデスカッションが行われました。
これに対して、海外にも販売網をもつグローバル企業の㈱サカタのタネの加々美勉さんは、日本を含め世界19か国に委託して生産しているとして、「世界の食糧とその多様性を保証するためには、海外での生産が不可欠。185品種の在来種と59品種の固定種を採種しているが、高温多湿、国土が狭い日本では安定的な採種が難しい」と話しました。同じく海外でもシェアを上げる㈱タキイ種苗の岸本好示さん、は、「世界トップクラスの育苗技術でこれまで開発した品種は2000品種。これからは異常気象に対応する種子の開発に力を入れたい」と世界市場への高い意欲を示しました。
一方、種子の使い手である小豆畑守さん(アズちゃん農苑代表)は、畑1町2反、水田1町6反で、自家採種にこだわった夏野菜を中心に年間約100種類を秀明自然農法で栽培しています。無肥料・無農薬による自家採種作物の特徴として、「味がよく、身土不二そのもののその土にあった最良の品種がつくれる。市販の種子に比べて寿命が長く生命力が高い。自然の変化に適応力があり、病害虫、風水害に対しても防御・回復力が強い。また、収穫期間が長く、収穫後の味が落ちない。化学物質過敏症や食物アレルギーの人でも食べられ、真に安全・安心な食べ物になる。栽培者の魂がのり移った「ならでは」の性質を持つ」といった自家採種のすばらしさを披露しました。
有機野菜の宅配会社の「らでぃっしゅぼーや」の森崎秀峰さんからは、各地の伝統野菜や珍しい野菜の種を入手し契約生産者(約2600軒)に栽培作付けを広げ、美味しい食べ方情報とともに全国10万6千世帯の会員に向けて2004年からセットとして販売している”いとめずらし”が紹介されました。約1〜3品・840円で、頒布形式でセット購入会員は1000世帯。「全国の種苗店とネットワーク化して、広げていきたい」と抱負を語りました。
有機野菜をつくりたい、食べたいという需要は、ますます高まると思われますが、有機種子の供給体制は、はなはだ心もとないということが明らかになりました。参加者のひとりは、「そもそも有機農業は地場、小規模が基本であり、経済性を優先する大規模な種苗メーカーとは相容れない世界。有機種子の生産には国家規模の戦略が必要とあらためて痛感した」という声がありました。しかし、すべての参加者が問題にした最近の種子の弱体化は、これから先大きな課題となると思われ、その代替としての有機種子が着目される可能性もあります。消費者からの発言はありませんでしたが、食べる側も種子についてもっと関心を払うようにしたいものです。(小野田)
IFOAMジャパン http://www.ifoam-japan.net/
日本有機農業研究会 http://www.joaa.net/
公益財団法人自然農法国際研究開発センター http://www.infrc.or.jp/
野口種苗研究所 http://noguchiseed.com/
株式会社サカタのタネ http://www.sakataseed.co.jp
タキイ種苗株式会社 http://www.takii.co.jp/
らでぃっしゅぼーや株式会社 http://www.radishbo-ya.co.jp/
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