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東北地区自然農法技術交流会
有機農業を継続するために
原発事故被害にゆれる福島で



収穫前の現地見学会


手ごたえ十分、と児島徳夫さん(左)
9月17日、福島県会津美里町で東北地区自然農法技術交流会(主催:財団法人自然農法国際研究開発センター)が開催され、約50人が参加しました。この交流会は、自然農法や有機農業の実践者、またそれをめざす農業者や関係者を対象に現地見学を通して自然農法技術の基礎的な情報を提供するとともに、参加者の交流をはかることを目的に開催されています。今回の交流会では、特に東日本大震災に伴う福島第1原子力発電所事故による放射能汚染対策に関する情報交換を行うことが主な目的にあげられ、急きょ開催されることになったものです。

開催地である会津美里町は、阿武隈高地と奥羽山脈を挟んだ場所にあり標高203m。福島第1原発からは約100kmで放射線量は比較的少ない地域ですが、県内でも有数の稲作地帯ということもあって、米への放射能汚染が心配されています。

地下かんがい法+自然農法の技術に期待



地下かんがい法を説明する福士さん


前年の稲作の後の大豆の根
参加者が現地見学に訪れたのは、この地域で自然農法を15年間続けている「自然農法無の会」の児島徳夫さんのほ場。同会は、多様な微生物が共存できる小宇宙を創り、日の光を最大限に取り入れて作物を健やかに実らせることを目標に活動しており、代表の元高校教師の児島さんは、8.5haに米、ソバ、ダイズ、野菜などを栽培しています。また、最近では、青森県浪岡町の稲作農家である福士武造さんが考案した地下かんがい法を取り入れ、質的にも量的にも安定したお米を消費者に提供して喜ばれています。

この見学会には、福士さんも青森から参加し、自ら指導した地下かんがい法での稲の作柄を確認。「地下かんがい法によって酸素を多く含んだ水が有害ガスを除去して微生物の働きを活性化させる。この微生物が過剰な有機物をすばやく分解し、健康で食味のよい米が収穫できる」と話し、病虫害もなく見事に実った稲穂に見入っていました。

午後から会場を会津美里町本郷公民館会議室に移し、福士さんが地下かんがい法についての講義を行いました。福士さんは、地下かんがい法の利点として、田畑転換と一年輪作が可能なこと、作物の組み合わせや雑草種子流入防止により雑草対策が容易なこと、水稲の直播が可能になり生産コストが下がること、自在に水位の調節ができるため天候に左右されない安定した収量になることなどを、説明しました。

放射能除去技術開発に全力を



松下浩二福島県有機農業推進室長


ゲルマニウム半導体検出器による分析
続いて行われた放射能汚染対策情報交換会では、「福島県における放射能汚染の現状と課題」をテーマに、福島県農業総合センター有機農業推進室の松下浩二室長が講演し、福島県では農業総合センターにゲルマニウム半導体検査器を導入して、分析した結果を翌日には公表していることや、モニタリング検査で暫定基準値を超える農作物が出た場合は国から出荷や摂取の制限があることなどを説明。今後農業総合センターの取り組みとして、県内の放射性物質の分布状況や各種作物のセシウム吸収量の把握など関係各所と連携して行うことや、土壌のカリウムが高いほどセシウムの作物への移行が少ないことから適量のカリウムの施肥を行うこと、セシウムの吸着効果が高いゼオライトの使用やセシウムが吸着されている表土の剥離などをあげ、放射能汚染から福島県の農業を再生させたいと話しました。
モニタニング検査結果(外部リンク)
http://www.new-fukushima.jp/monitoring.php

地元有機農家と協力体制を



有機農業参入促進協議会事務局
でもある藤田さん


現地で調査する研究員
一方、民間団体として(財)自然農法国際研究開発センターの藤田正雄特別研究員が、県内で堆肥提供から栽培指導、販売まで行うマクタアメニティ(株)の幕田武宏さんと共同して行った現地試験の中間報告を行いました。この試験の目的は、農産物を栽培することによる高濃度放射能汚染土壌と作物の関係を明らかにし、有機農業での対応策を検討すること。そのために3か所のほ場に、①堆肥+EMボカシ+EM活性液、②堆肥+米ヌカ+水、③無処理+水の処理区を設けた結果、①②の処理区では無処理区よりも大きな放射線量の低減がみられ、作物の放射性セシウムの分析値も14検体中13の作物がND(不検出)だったと報告しました。まだ全容が明らかにはなっていませんが、作物と土壌養分との関係が複雑な系にある有機土壌の方が、汚染物質を閉じ込めるのではないかと推察され、生物的(生態学的)方法を重視した除染の方法を提案したいと発表しました。



真剣な表情で聞く女性たち
参加者で漢方無農薬研究会の辺見芳正さん(郡山市在住)は、「この時期、不安になっている有機農家がたくさんいる。県の担当者と民間の研究者、農家が話し合い、意見を出し合う。そんな場が今一番大切だと思う。今日は、そういう意味で、とても価値のある交流会だった」と感想を述べ、また主婦の諏波美穂子さん(会津若松市在住)は、「1日も早く福島第1原発からの汚染物質の発生を止めてほしい。福島県の農産物の安全性基準値をより厳しくすることが国民から信頼を得る一番の方策。農家を存続させることと子どもたちの安全を守ること。この両方を矛盾なく実行して」と切々と訴えていました。(小野田)

(2011/10/1)
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