今年のテーマは「たね・水・いのち」で、関連する国内外9本が上映され、いずれも現代の農と食をめぐる問題を浮き彫りにした社会派作品。ことに、戦火の続くアフガニスタンに水路を引くことで人々のいのちを守る日本人医師中村哲らの奮闘を描くドキュメンタリー映画「アフガンに命の水を〜ペシャワール会26年目の闘い〜」、遺伝子組み換え種子企業と種を奪われる農民の戦いをリアルに描いた「パーシー・シュマイザー サンモントとたたかう」、自家採種を25年間続ける長崎県雲仙市の有機農家・岩崎政利さんの農の営みを伝える「種を採る人」に関心が集まった。
この映画祭は、上映の前に簡潔な解説が行なわれるのが特色で、今回も農薬問題の第一人者の田坂興亜さんや遺伝子組み換え種子問題に詳しいジャーナリストの天笠啓祐さんらが登壇した。中でも、「化学肥料や農薬とセットで販売される遺伝子組み換えの種は、経済的に農民を苦しめ、しかも在来種に比べて病害虫に犯されやすい。また、できた作物も自然の種からできた作物とは違うことが確かめられている」とした田坂さんの報告が注目された。
会場では、岩崎さんの自家採種から育った野菜や、秩父地方に伝わる品種の作物、自然農法による種の研究を行なう2団体の種などが展示された。岩崎さんは、「こんなに活気のある映画祭で自分の映画を上映してもらってうれしい。種を採る農業に関心を寄せる人の声を聞けて私にとってもよい経験だった」と語った。自家採種の研究に携わる(財)自然農法国際研究開発センターの中川原敏雄さんは、同センター・石綿薫さんとの共著『自家採種入門』がまたたくまに完売したことに対して、「一般の人が種についてこんなに興味をもっているとは予想外だった」と驚きの声をあげていた。いのちの源である種までもが経済至上主義に巻き込まれている現実を参加者が自分の問題としてとらえ、農についての興味を深める映画祭となった。
なお、公募による「食と農」をテーマとした3分ビデオの中から7作品が上映された。神奈川県小田原市を舞台とする「地場・旬・自給」をめざすNPO法人「あしがら農の会」を紹介する『ここから』やパレスチナの主食の加工風景を描く『クスクス』、誰でも簡単にできる種採りを紹介する『自家採種のすすめ』など6作品がHPで公開されている。
同運営委員会では、農業は国民の全体の問題として、地域での開催を進めており、企画や運営、映画の貸し出しなどのアドバイスを行なっている。同映画祭は、すでに福井県池田町を皮切りに4年間で全国10か所で開催され、いずれも話題を呼んでいる。
2011年は、11月19、20日の両日今回と同じ会場で開催される。5周年を記念した映画祭となる予定で、運営委員ならびにボランティアスタッフを募集している。 お問い合わせは、http://yuki-eiga.comまで。
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