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第30回NOFA-NY年次会議:ランチの時間も惜しまず熱心にディスカッションする参加者たち photo:John-Paul Silva
オーガニックの動きが活発化しているアメリカで、今ニューヨークが熱い。

2012年があけ、雪がちらつく中、摩天楼がそびえるマンハッタンから電車で北へ向かうこと約3時間半。そこには、ニューヨークという言葉のイメージとは程遠い広大な土地がある。ニューヨーク州はカナダと隣接していて、マンハッタンから北に行けば行くほど、大きな牧場、りんご園などが眼下に広がる。

そこの人口約3万人都市サラトガ・スプリングス市内で、1月19日〜22日、第30回有機農業年次会議(NOFA-NY:ニューヨーク有機農業協会主催)が行われた。毎年農閑期を狙って行われるこの会合は、さまざまな役立つ情報の宝庫。オーガニック関連業者が知識を増やしたり、ネットワーキングしたりするのに欠かせない絶好の機会だ。特に今年は、参加者が過去最高の1400人を数えた。行き交う参加者は、みな笑顔。外は摂氏マイナス7度という寒さをよそに、会場内では、熱いディスカッションが飛び交っていた。

多方面からの参加者が参集


会議中の食事はすべて 有機栽培認定農家から寄付された食材使用。う〜ん、思わず舌鼓! photo:John-Paul Silva
参加してみて驚くのは、参加者の多岐にわたる顔ぶれだ。

有機栽培認定農家はもちろんのこと、家庭菜園実践者や、最近農業に転向した人たちもいる。

その一人、リッチ・ウッドブリッジさんは、以前西海岸でコンピュータ関連事業に携わっていた。しかし、心機一転、6世代続いた約40haの農園を引き継ぐために、ニューヨーク州バッファロー市近郊の実家に、つい数年前奥さんと共に戻ってきた。「どうせやるならオーガニックと決めていました。初心者なので、見るもの聞くことすべてが刺激的です」と語るその目は真剣そのもの。

参加者には、他にも、流通業者、ジャーナリスト、政府関係者、レストラン経営者、シェフ、発展途上国で農業振興を担うNGO関係者、オーガニックファーマーズマーケットを長年運営してきた人たち、有機野菜を食べてガンが治ったという消費者の人たち、地元や近隣大学の教授、学生らも参加していた。

エリー・マセニーさんは、4年生から9年生(中学3年)までの約90人の生徒をあずかる全寮制ノースカントリースクール(www.nct.org)の教師。学校は、永続農業を教育の一環として取り入れていて、広い農場の一部に校舎がある。「今回初めての参加だけど、いろんな人に会えてすごく楽しいわ」とマセニーさん。放牧家畜(ヤギ、豚、鶏、馬など)の世話やメープルシュガーの採取、各種野菜を栽培する生徒たちに、今回学んだことを早く帰って伝えたい、と目を輝かせた。

展示ブースには、消費者と生産者をインターネット上で直接結ぶ産直販売プラットフォームを開設した起業家も机を並べていた。


「将来の夢は農場経営」とヘンネべリーさん
目立つ若い参加者

後継者問題で頭を悩ます日本の農業界とは裏腹に、参加者には、学生や青年の初々しい姿が多く見られた。特にはつらつとした若いボランティア達が目立ち、会場案内、受付、会場設営や、セミナー講師アシスタント役などを担う一所懸命な彼らの動きに、参加者は思わず顔をほころばせていた。

パトリック・ヘンネベリーさん(29歳)は、福井県若狭町で5年間、高校英語指導をしていた。しかし、一昨年アメリカへ帰国。今は、念願の有機農家への就農を果たした。「牛の世話で一日が始まるんです」と嬉しそう。この春からは、約20aの野菜栽培を任されることになっている。日本語を流暢に話す彼の将来の夢は、農場主になり、有機日本野菜を国内日本人マーケットに供給すること。今回は、そのために有機農業を基礎から勉強すべく実習生として会議に参加している。

内容は初心者からベテラン向け、
営業方法、法律相談までも

会議は、学術的な発表会というよりも経験的な内容が多く、先輩農家が、後輩へ苦労話を語ったり、耳寄り情報を分かち合ったりしていた。一般消費者を対象にした「なぜオーガ

多岐にわたる内容でも堅苦しくない気軽な講義 photo:John-Paul Silva

参加者からスピーカーに真剣な質問が次々と
ニックなのか」といった分かりやすいテーマの分科会もある。この気軽な雰囲気が、さまざまな分野の人の関心を呼び、オーガニックへの大きな動きを牽引するひとつの原動力になっているようだ。

分科会は、約1時間半、50人程の小さな会議室で同時に15セッションくらいずつ行われる。

テーマは多岐にわたり、農業技術に関するものを中心に、家庭での発酵食物保存方法、レストランへの営業方法、農家密着型コミュニティをいかにつくるか、大都市での農業、有機認定農家への道のり、小規模農場の経済的インパクト、生産コストの考え方、消費者との相互野菜販売マーケティングなど3日間で約90項目を数える。

基調講演で情熱的に語るアイカード博士 photo:John-Paul Silva

中でも、日本発の技術も紹介された堆肥作りセッションは、人気を博し、入り口まで人があふれていた。フェアトレードを考えるセッションでは、弁護士らが講師となり、労働基準法、移民法の解説なども行われた。

学術的な研究発表シンポジウムも、集中的に初日行われ、農務省や各大学研究機関の基金による研究成果を中心に、パネルセッションも含め、小麦、酪農、養羊、虫、除草対策、ウリ科作物関連など約50項目。変わり種では、東海岸では従来考えにくかった米作の可能性についての研究発表もあった。

基調講演では、ミズーリ大学農業経済学名誉教授ジョン・アイカード氏が登壇し、この会議のテーマである「経済との融合」に触れ、「オーガニック業界の発展につれて、参入してくる企業らは、経済効率を追求するあまり、永続性を犠牲にしてはならない。そして、大自然の法則を守る社会的、環境的責任を自覚し、それが経済を守る現実だと認識し、さらに、人類が、永続性をも超えて、経済的、社会的、スピリチャル的にも素晴らしい人生が送れるように配慮すべきだ」と訴えた。(ニューヨーク特派員:荻野未来)


(2012/2/14)
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