そんな厳しい状況で、夢のもてる経営に挑戦しているリンゴ農家も少なくありません。そのひとつが、津軽平野の西にある板柳町でリンゴ、コメ、毛豆を栽培する長内農園です。板柳町は、ヤマセとよばれる強烈な風が吹き、寒暖差も激しい地域ですが、浅瀬石川や十和田霊水という豊富な水資源に恵まれた農村地帯です。代々コメ農家の長内良蔵さん(60歳)は、平成3年、コメだけでは先が見えないと田んぼの一部をリンゴ農園へ転換します。現在は、フジをはじめ8種類のりんご、「幻の枝豆」と呼ばれる毛豆、そして青森米の代表格、「つがるロマン」を合わせて6haの農地で栽培しています。労働力は、長男の将吾さんと元看護師を辞めて今年から農業者となった奥さんの久子さん。農繁期には3人の従業員が加わります。
転機は、平成14年に制定された『りんごまるかじり条例』(正式名・りんごの生産における安全性の確保と生産者情報の管理によるりんごの普及促進を図る条例)です。板柳町のリンゴ農家で、発ガン性が指摘される無登録農薬を使用したために、産地自体の安全性が問われる事態になりました。この危機に地元の有機農家が率先して無農薬化学肥料を使わない農法の推進と、1人ひとりの農家の情報公開に踏み切ります。町は、安全なリンゴを栽培する法律をつくり、同時にEM活性液を無料で農家へ配布する取り組みを行います。長内さんも、エコ農業研究会に加わり、EMで循環型の農業へ転換を図りました。
「EMを使い始めてから、3年目あたりから、雑草の種類が変わり、土の様子が変わってきた。今まで、リンゴの木しか見てこなかったが、木の下が大事だということが理解できた。土が変わると、当然畑の生き物たちが変わったが、一番驚いたのはキジや山鳩、かわせみなど鳥の種類が増えたこと」だと言います。稲ワラ、米ヌカなどの有機物をEMでたい肥化し、リンゴの花が咲く直前の5月末ごろに土に投入。その後、数回井戸水でつくるEM活性液を散布しています。この結果、リンゴの切り口がネバネバするほどの糖度の高いリンゴになり、病害虫で大きな被害もないとのことです。
長内農園では、農業体験ができる民宿も開業し、都市と農村の交流にも力を入れています。自給用をかねて作る野菜は、新鮮なうちに町の市や五所川原市立佞武多の館の軽トラ市で販売し、リンゴは特製ジュース、乾燥りんご、燻製用のリンゴチップなどに加工して、フル活用しています。規模が小さいからこそできる持続可能な農業をめざして、家族結束日々奮闘しています。