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自主検査で安心を届ける
「アグリSCMふくしま」契約農家の挑戦



文部科学省による航空機モニタリングの結果(福島第一原子力発電所から80km圏内のセシウム134、137の地表面への蓄積量の合計)より
果物王国福島。実りの季節を迎えても今年の夏は重苦しい。第一原子力発電所事故から5か月。いまだに収束の気配が見えず、土壌汚染による農産物の出荷が不安視されているどころか、福島産といえば国の基準値をクリアしていても消費者は手を出さない。これを単に風評被害といえるかどうかは別としても、少なくても農家が加害者ではないことは確かなことである。ことに志高く有機農業をめざしている福島近郊の農家の苦悩は計り知れない。

しかし、ただ国や県の指示を待つだけではなく、未経験の事態を自ら栽培を通して突破していこうという生産者も少なくない。たとえば、SCM(サプライ・チェーン・マネージメント)を農業の世界に持ち込み生産・流通をしている「アグリSCMふくしま」に参加する農家だ。このSCMシステムは、原料や部品の仕入れから製造・流通・販売まで、製品がたどる全過程の情報を管理し、収益を高め経費を節減しようとする経営手法のことで、農業では難しいといわれている分野。このシステムを運営するマクタアメニティ㈱は、一定の水準で発酵させた堆肥や有機肥料など契約農家に供給し、技術提供を行っている。マクタブランドで高級スーパー、百貨店、有名レストランなどの販路を切り開き、消費者や需要者の信頼を得てきた。

代表である幕田武広さんは、「震災後、50軒だった契約農家が、津波による行方不明者も含めて40軒までになった。これだけでも、十分ショックだったが、放射能汚染は世界的なニュースになってしまった。このまま、何もしなければ終わる。今までつくり上げてきたシステムを止めるのではなく、動かす、いや、システムがあるからこそ、動けるんだと気持ちを切り替えた」と話す。均質の品質管理という項目は、この火急の事態のポイントだった。契約農家の生産物を検査機関の分析に出した結果は、現状において放射能物質は不検出判定となった。

危機感の中の希望



300aの果樹園で、渡辺さん親子と幕田さん(右)


放射能不検出の報告書を前に
福島市北部、宮代地区の渡辺金壽さんは、福島県でも数少ない果樹の特別栽培農家である(「アグリSCMふくしま」の契約農家)。3月11日、渡辺さんは、モモの手入れをしているときに農園の前を通る東北新幹線の高架が大きく波打つのを見て、ただならぬ事態を知る。それから1週間、停電、断水。情報はまったく入らなかった。渡辺さんの井戸に行列ができ、「放射能のことよりも毎日水の確保でみんな精一杯だった。行政から農地についての情報も指示もなにもなかった」という。

テレビでは、原発事故はたいしたことはない。放射能汚染の農産物への影響も少なく、健康被害は直ちに出ないと報道されていた。そうこうしていくうちに計画的避難区域は広がり、ほうれん草、茶葉、藁から、放射能が検出され、出荷停止となる。当時は、モモの管理作業をするべきか、どうか迷う農家も多かったという。しかし、渡辺さんは、どんな結果でもいままでやってきたことをやると決めて、作業に打ち込んできた。

「皮肉なのか、ありがたいことなのか、今年の桃は最高の出来だ」と渡辺さんは笑うが、「渡辺さんのおいしいモモを食べたいけど、今年はやめておく」という常連のお客さんの電話には沈黙するしかなかった。そこへ舞い込んだのが、幕田さんが検査を依頼した渡辺さんのモモの分析結果だった。「悪いことは考えないようにしたが、この分析結果は救いだった」と話す。モモに続いて、ブドウ、リンゴと収穫が続く。「もしもの時は、出稼ぎに出る覚悟だけれども、年老いた両親を置いて、ここを離れることはできない。なによりも、放射能のせいで農業をやめるのは納得がいかない。それに放射能物質が出ないというなら、このまま続けていけるのではないか」とこれからに小さな希望をつないでいる。

地域まるごと除染



6月2度目の講演会で挨拶する大内有子さん


旧盆向け菊の出荷に忙しい大内夫妻
福島市西部、笹木野地区で代々果樹農園を経営する大内孝さんも思いは同じだ。大内さんは、有機肥料を使い、農薬を慣行の約半分に減らしてナシやリンゴを栽培。低農薬というだけではなく、味が申し分ないと評判でアグリSCMなど共同選果以外の販売量を増やしていた。「農地が放射能で汚染されてしまった」との悪夢が現実とは思えず、ただ立ちすくむばかりだった。放射能の情報が出てきた4月には、土の表面に蓄積したセシウムやヨウ素を残したまま、農作業を始めてよいものかと複雑な思いだったという。

しかし、巨大地震と福島第一原発事故から始まった途方もない災害の広がりに大内さん夫妻は、活動を開始する。「甦れふくしま命をめぐる大地」と題して、NPO法人チェルノブイリ救援中部理事の河田昌東さんを講師に講演会を開催したのだ。テーマは、「放射能防御と農業再生菜の花プロジェクト」で、この反響は大きかった。いうなれば、国や行政の情報に見切りをつけて、自ら真実を知り、どう防御すればよいのかを農家自身が見出していく作業を始めたのだ。

本業のナシの収穫を前に不安がないといえば嘘になる。でも、幕田さんが、指導する農家の「どれも不検出」との結果を知らせたら、ことに体調がすぐれなかった大内さんの奥さんの有子さんに笑顔があふれた。

土壌汚染と有機物の解明も



無化学肥料栽培の甘いモモ


収穫を待つ大内さんの萱場梨
幕田さんは、「これから先のために契約農産物に関する精度の高いデータを集めていきたい。このデータの積み重ねが、土壌汚染と良質な有機物について解明されていく鍵になると思う。また、こうした情報を農家と農家、農家と消費者、流通業者と消費者が相互にやり取りする仕組みをつくれば、過度な風評被害を防ぐこともできる。これを機会にさらにお互いが身近な関係になるシステムづくりをすすめていきたい」と話している。

なお、経済産業省平成23年度「地域新成長産業創出促進事業」にマクタアメニティ㈱がコア企業で、生産者グループ「アグリSCMふくしま」などが加わる「ふくしまから日本へ[農業再生]ビジョンネットワーク」が採択され、大学や研究機関、普及機関などとともに有機循環農業のビジネスモデルに磨きをかけることとなった。放射能災害は想定していなかったものの、有機農業生産・流通の情報支援システム「アグリSCM」をすでに構築、運用していたのは幸運だった。最悪のシナリオから見えてきたさまざまな問題を解決し、新しい農業の形を福島から発信して欲しい。関係者すべての願いだ。

(2011年8月12日)

関連項目

自主検査で安心を届ける
「アグリSCMふくしま」契約農家の挑戦 その2

幕田武広ふくしまリポート


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