開催にあたり、たい肥化協会の瀬戸昌之理事長が、「福島第一原発事故によって汚染された農地など、国民の公益的な財産が失われてしまった。この汚染と破壊に国と東電が責任を取り、さらに持続可能な社会の基盤となる農業の価値を再確認し、国民すべてが正当な評価をすることが大事だ」と挨拶した後、田畑保明治大学農学部教授の歓迎の言葉がありました。
引き続き東日本大震災復旧・復興みやぎ県民センター代表世話人の綱島不二雄氏が、「大震災、原発事故を踏まえての生ごみたい肥化運動と日本農業の課題」を問題提議し、NPO法人大地といのちの会理事長吉田俊道氏から「生ごみは土づくりの最高の資源」と題して、“発酵とミネラル”をキーワードにした食育の提案がありました。
午後からは、20年以上も前から生ごみに着目して地域づくりを行う山形県県長井市NPO法人レインボープラン推進協議会、豪雪地帯でも生ごみ回収・たい肥化に着手し、意欲的でていねいなシステムを構築する秋田栗駒リゾート梶A市民活動から生ごみリサイクルを立ち上げ、現在も継続している福井県越前市のNPO法人土といのちの会、茨城県取手市のNPO法人緑の会などが、事例発表しました。
また、これからの長きにわたる放射能汚染とどう向き合うかをテーマに放射能汚染による農地の線量軽減に向けて有機農業者の献身的な取り組みの発表や、食の専門家からのアドバイスもあり、農業者も消費者も共に学びあいました。
参加者の1人は、「これから健康な野菜は貴重になってくる。その貴重な野菜の残渣は、当然大切な有機資源となるはず。放射能の問題で家庭菜園への意欲が減っていたが、生ごみの有効性と有機農業の優れた面を確認できたので、身近な人や行政に働きかけたい」と決意のほどを語っていました。20年目の節目にふさわしく、食べ物の出口(生ごみ)から入り口(農業)までを考える貴重な交流会となりました。
生ごみを土にリサイクルすることで農薬や化学肥料を使わずに、病害虫のこない元気な野菜を栽培することができる。元気野菜づくりのポイントは、ビタミンやミネラルがたっぷり含まれている生ごみをボカシで発酵させて土に還すこと。草を株間にたっぷり敷くことにより土の乾燥を防ぎ、さらに微生物とミネラルがいっぱいの土にすること。水はけのよい土にするように工夫すること。こうして出来た野菜は、慣行農法の野菜と比べて栄養価が高いこともわかっている。また、土壌を発酵状態にするのと同じように、元気野菜を食べて、人間の小腸(おなか畑)を“発酵とミネラル”をいっぱいにすることが健康の秘訣となる。こうした地球の生命力とつながるために誰でも簡単に実践できる生ごみから野菜を育てるリビングファームキットを考案した。自分で有機野菜を栽培し食べることが、有機農業が基本である地域循環型共生社会の扉を開くと確信している。 NPO法人大地といのちの会
2000年、婦人団体のリーダ研修で、ごみ焼却施設の視察で燃えるごみに出された「生ごみ」の醜悪さを見て、村内の2つの婦人会組織が合同でEMぼかしを使った生ごみのたい肥化の検討をスタート。「ごみの資源化を考える会」(現在は、「なるせEM研究会」)を設立し、豪雪地帯では、各家庭で生ごみを土に還すのは難しいので、回収してたい肥化することに決まった。「ふるさと雇用再生臨時対策基金事業」に2009年に認定され、第三セクターである秋田栗駒リゾート鰍ェ生ごみたい肥化事業を受託。遊休施設となっていたスキー場内の休憩施設を一部改造して生ごみのたい肥施設として利用することになった。現在は、村の2割である205世帯の年間約50tのEMボカシあえ生ごみを回収し、真空乾燥機で脱水・発酵、ペレット化し、「仙人ペレット」という名前で販売している。この「仙人ペレット」で土を元気にし、安心・安全な野菜や米をつくり、健康で豊かな村づくりをめざして、取り組んでいきたい。
長井市の市民と行政がともにつくりあげてきた生ごみリサイクルを切り口とした地域循環システム・レインボープランの正式名称は「台所と農業をつなぐ・ながい計画」。「土から生まれたものは土に戻す、生ごみ=有機資源の循環」と「まちとむらをつなぐ人の輪の循環」という2つの循環をめざす。長井に暮らす人々が市民として参加し、自らの意思でつくり上げる市民自治の地域づくり。さらに生ごみを「ごみ処理の視点」ではなく「土づくりの視点」でとらえた食と農の基本的な考え方。この三つの理念のもとに事業開始から20年、NPO法人レインボープラン市民農場、NPO法人レインボープラン市民市場「虹の駅」の2つのNPO団体が誕生し、移動販売事業や福島県からの避難者と市民が共に野菜を栽培し、福島へ届ける”絆”循環プロジェクトなど、さまざま事業へ発展している。こうした活動は、日本だけではなく、アジアへも波及し、タイ東北部にあるポン市では、行政がレインボープランに取り組み、長井市との交流も始まっている。次世代へ確実にバトンをつなげていきたい。 レインボープラン推進協議会
鯉渕学園を退職し、地域の社会的事業として農業をになおうとNPO法人「NPOあしたを拓く有機農業塾」を2011年4月に茨城県笠間に立ち上げたが、大震災・原発事故が重なり、農地のみならず、土づくり資材である堆肥、落ち葉、刈り草も放射能に汚染された。放射能の作物への移行抑制技術としては、土壌を30cm〜50cmの深さに耕して放射性物質を拡散させる。また、腐食の多い所は抑制効果が高い傾向があるので、放射性物質の外からの持ち込みを避けるために、これからの有機農業技術としても有望な緑肥草生栽培をすすめたい。セシウムは土・水・腐食(有機物)の複合体がセシウムを固定していると考えられる。腐食がやせてくるとセシウムを離すので土づくりが大事と思うが、国や県がもっとこのことを検証しなくてはならない。多くの有機農業実施者と支援者が、放射能の作物への移行抑制技術の知恵を出し合うことが必要だ。 NPOあしたを拓く有機農業塾 あした有機農園
取引先や茨城大学の支援を受け大根畑での線量測定を行った結果、地上の空間線量1.5マイクロシーベルト/時が堆肥をまいて15cm耕し(0.7マイクロシーベルト/時に)収穫された大根のセシウムは17ベクレル/kgと基準値以下だった。耕さない表層5cmの土は17,000ベクレル/kg、15cmの深さで耕すと4,000ベクレル/kgに、25cmの深さで耕すと1,000ベクレル/kg。作物の線量も低く、耕した土に混和された放射性セシウムは土壌に固定化されると考えられる。野中昌法新潟大学教授の東和地区の水田調査でも玄米への移行調査では、昨年度の水田土壌1500〜6500ベクレル/kg(15cmのところ)での玄米への移行係数は0.01以下(稲わら=0.05、もみ殻=0.03、精米=0.003)で、国の米への移行係数0.1よりも大幅に低い。
有機農業学会の共同調査でも、腐食が多く、粘土質土壌は移行が低減されることが出てきた。一万ベクレル以上あっても有機農業田では放射性セシウムが基準値以下であることは、有機農家にとって希望だが、復興の名のもとに大型農業を推進しようとする動きもあり、農家や消費者の立場にたった実地検証がまず必要だと思う。3500年の歴史をもつ稲作文化を50年の経験しかない原発につぶされては申し訳ない。耕すことによって福島から有機農業を復活させたい。 福島県有機農業ネットワーク
会の発足当初から「生ごみの減量とリサイクル部会」を立ち上げ、EMボカシによる生ごみたい肥化の活動を続けてきた。そして武生市時代に、県内のトップを切ってたい肥化バケツに奨励金を付けることに成功。たい肥にしても使い道のない人のために1994年から1年半に渡って、家久地区の80軒の生ごみを市が回収しEMワールド(民間のたい肥化工場)へ持ち込みたい肥化した。その後、商店街と一緒にまちかど環境倶楽部を結成して、商店街の生ごみを「エコ大虫ごみリサイクルの会」に持ち込んで処理。また、行政・農家・消費者・事業者と一緒に「生ごみたい肥化推進会議」を立ち上げ、先進地視察や検討会を重ね事業計画をつくってきた。原点に戻って、生ごみが出たところで処理する「自己完結型」をめざし、「エコ菜園チャレンジ講座」を開催し、家庭菜園の普及を目指している。家庭菜園の普及は、健康や地域の環境の増進、自給率アップ、そして生きがい農業、こだわり農業による地域農業の活性化へもつながる。特に越前市では昨年「コウノトリが舞う里づくり構想」を策定し、コウノトリをシンボルに「自然と人の共生」をめざす政策を推進している。生ごみをたい肥にして有機農業を推進することは、循環型社会を目指す「コウノトリが舞う里づくり」に欠かすことのできない政策と思うので、引き続き提言していきたい。 エコ大虫ごみリサイクルの会
1994年、地球の環境悪化に心痛め、会を設立し、生ごみ回収・堆肥化活動開始。2001年度より取手市の委託をうけ、1,000世帯の生ごみをEMボカシで堆肥化。2008年度より所轄は常総地方広域市町村圏事務組合。現在1,779世帯の参加し、会員は55名。EMを利用した新方式のワイヤーパレット積み上げ発酵方式を考案、ニオイとハエの問題を解決した。133t(2011年度実績)のたい肥は、参加者へ年1回配布。いちご農家と会員の家庭菜園で使用し、好評である。取手市全域45,000世帯の生ごみをたい肥化するのが、最終目標。そのために低コストで、悪臭や衛生問題もなく、敷地面積の小さくてもできる乾燥嫌気発酵方式を提案している。こうした大規模な施設は、国の関与がなくては実現が難しい。生ごみたい肥化事業に携わる者として、家庭の生ごみを対象にした「食品リサイクル法」改正案※の成立を心待ちにしている。 NPO緑の会
原発の危険性について警鐘を鳴らしてきた日本科学者会議のメンバーで、事故後、栄養学の専門家として、食の安全という視点から放射能汚染への不安を抱える市民の要望に応えて学習会活動を行っている。放射性物質への防御を中心に、子どもたちの健康を考えた食生活の提案として、@便秘を起こさない食生活、A抗酸化成分の多い野菜・果物をとる(果物のカリウムはセシウムの吸収を抑制し、排泄を高める)、B充分なカルシウムを摂る(カルシウムは骨や歯へのストロンチウムの移行を防ぐ)、C健康的な食生活は放射線の影響を防御する(チェルノブイリ原発事故でもヨウ素欠乏が甲状腺ガンの発症を高めた)などをアドバイス。生態の成分、特に水などに放射線が当たると活性酸素ができて、その活性酸素がDNAに影響を与える(過酸化波動)、核酸の構造を変えてしまうことがあるが、それでも人間の体の中では、傷ついたDNAを修復することはできる。人間の免疫力を高めるような食生活をすることがなによりも大事だが、放射線から確実に身を守る方法としては、原発0以外に良い方法はないことを訴えたい。
福島原発が起きる前から、大津赤十字病院放射線部(2002年発表)や独立行政法人・放射線医学総合研究所(2006年発表)による研究で、乳酸菌や酵母などの発酵型有用微生物の摂取で放射能を緩和できたという研究の成果が出ている。それによると、消化器官が健全な発酵環境になるとミネラル摂取効果や活性酸素消去能力も高まり、免疫力を持つマクロファージやナチュラルキラーT細胞が増えて、細胞のガン化が抑えられる。さらにガン化した細胞の除去能力が上がるというもの。 http://www.nirs.go.jp/information/press/2005/03_24.shtml
生ごみを利用した畑の土づくりによって抗酸化力の高い野菜ができることを通して、「人間もおなか畑を土づくりしたら、もっと元気になれるのでは」と考え、「おなか畑の土づくり」というアイデアが生まれた。実際、元気野菜を食べることで、子どもたちの心と体が劇的に変わった。皮や根っこなどの植物の生長点を取り入れた栄養価や抗酸化力の高い野菜をまるごと、よく噛んで食べることで、便秘や低体温が改善され、集中力が高まった。この結果からみても、放射能障害の緩和にも元気野菜を食べることが効果的であることがわかる。
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第19回生ごみリサイクル交流会2011
外部リンク
NPO法人有機農産物普及・堆肥化推進協会 (NPOたい肥化協会)