トップ > 有機農業特集 > インタビュー ツルネン・マルテイ氏 有機農業は国の力、国の宝
今、日本の農業が大きく変わろうとしています。有機農業を推進する法律ができたことをきっかけに、各都道府県では、有機農業を普及している様々な民間団体や個人、行政が連帯し、有機農業を推進するための具体的な計画づくりを始めています。これは従来の農業政策から考えると180度とも言える転換です。
Webエコピュアでは、「有機農業推進法の画期的意義 日本の農が変わる」と題して、日本農業の進むべき方向や課題、具体的な取り組み、モデルケースなどについて、有機農業に関わる各分野の方に本音で語っていただきます。
第4回インタビュー「有機農業は国の力、国の宝」
参議院議員 有機農業推進議員連盟事務局長 ツルネン・マルテイ氏

有機農業推進法成立から1年半が経過しましたが、食料自給率の低迷、食の安全の危機、石油高騰による食料危機など、農と食をめぐる問題はますます混迷を深めています。その中で、第3の道と言われる、有機農業への期待は高まる一方です。今回は、参議院議員で有機農業推進議員連盟事務局長のツルネン・マルテイ氏に有機農業推進の現状と展望などについてお伺いしました。


有機農業推進法(以下、推進法)が成立して1年半が過ぎましたが、この間の国や自治体などの動きを、議員連盟事務局長として、どう評価されていますか?

有機農業推進のために、全国各地から講演などの依頼がある(於:今年2月に開催された、第13回自然農法・EM技術交流会京都大会)
有機農業推進のために、全国各地から講演などの依頼がある(於:今年2月に開催された、第13回自然農法・EM技術交流会京都大会)
今まで有機農業に関わってきたあらゆる分野の人に心から喜んでいただいていますが、法律を施行する立場の農林水産省が積極的に動いてくれたことは、私の想像以上のもので、関係者の皆さんに感謝しています。

具体的には、昨年4月、推進法成立後に国の基本方針がつくられ、平成20年度予算には有機農業総合支援対策として約4億5千万円の予算がつき、地域有機農業推進事業(モデルタウン)の45団体も決まりました。また、基本方針には5年以内に全都道府県が推進計画を立てることになっていますが、すでに12道県でつくられています。さらに、5年以内に全市町村の1/2でも推進計画をつくることになっていますが、こちらもすでに100くらいが達成しています。このように短期間でスピーディーに進んでいくことは、今までになかったことだと驚いています。

この理由は、推進法を策定する段階から、有機農業を長年実施している農家の人たちに参加してもらったこと、農林水産省の協力を得たこと、つまり官と民とが協力して生み出した法律だということに尽きるのではないでしょうか。もちろん、議員連盟が自民党から共産党までのすべての党による超党派であったこともうまく展開する理由だったかもしれません。


最近では、有機農業についてテレビや新聞でもよく報道されるようになりましたね。

推進法をつくる段階ではあまりマスコミで取り上げられることは少なかったですが、推進法ができた後には、食と農の安全に関連して、有機農業の話題を朝日や読売などが掲載してくれようになりました。NHKをはじめテレビでも「食の安全、農の安全」をテーマに、有機農業を行っている人を紹介しています。これも法律ができた良い影響だと見ています。また、ある新聞の調査では、農家の70%が有機農業に取り組みたいということです。

私個人としては、「有機農業」についての講演依頼が増えて、7月には10か所で行うことになっています。有機農業に無縁なビジネス団体で「食の安全」の話をしたところ「有機農業はマニアのものかと思っていたが、国をあげて取り組もうとしているとは知らなかった」という感想を聞きました。有機農業への関心が、世間にも急速に広がっていることを実感しています。また、農水省の福田英明環境保全型農業対策室長らも、あらゆるところからスピーチを依頼されているようで、国としても有機農業の推進方針を話しています。


有機農業が世間にも認識されるようになってきたのでしょうか。

議員連盟では、有機農業や自然農法の先進地の視察なども積極的に行っている(於:(財)自然農法国際研究開発センター農業試験場
議員連盟では、有機農業や自然農法の先進地の視察なども積極的に行っている(於:(財)自然農法国際研究開発センター農業試験場
昨年、農水省で実施した有機農業に関する農業者、流通加工業者、消費者の意識・意向のモニターアンケートでは、50%の慣行農家は、条件が揃えば有機農業に取り組みたいと答えていますし、90%の消費者が、手ごろな値段なら有機農業で生産された農産物を買いたいと答えています。

現在、日本でつくられている農産物の中で、有機農産物は1%くらいだと思います(有機JAS認定農産物は0.17%)。私たちは、それを10年で50%まで増やすことを目標にしています。これは、議員連盟会長で、元農水大臣の谷津義男先生も言っています。

今までの動きを見ていて、有機農業をやりたい人がいて、有機農産物を買いたい消費者がいるのですから、50%も夢ではないと思っています。


有機農産物に対する消費者のニーズが上がってきたのですね。

食生活にマクロビオテックを取り入れて、ますます元気に
食生活にマクロビオテックを取り入れて、ますます元気に
先般話題になった中国の餃子事件は、食の安全に関して注意を促した神様の計らいではないかと思っています。この事件がきっかけで、安全かどどうかは別問題ですが、消費者はまず中国産よりも国内産を買おうとしましたね。

キューバでは、1989年当時のソ連や東圏の崩壊などのため経済危機に直面し、農薬や化学肥料の輸入量が8割も減少してしまいました。そして、食糧の輸入も半減し、食糧危機に瀕しました。このことから国を挙げて有機農業を研究、実践し、農業の80%が有機農業に切り替わりました。日本では、国内で農薬や化学肥料を生産しているので、そういうことは考えにくいと思います。

OECD(経済協力開発機構)によれば、日本の1ha当たりの農薬の使用量は約15kgで世界1なのです。中国よりも多いのが現実です。農薬は国が安全のチェックをしているとは言いますが、5~10年前に許可されて取り消しになった農薬や化学肥料が、棄てられずに農家の倉庫にある場合もあります。これが、今ある農薬で効果がない時に使われてしまう危険がないとは言い切れないと思います。

こうしたことが現実に起きてあからさまになれば、消費者もいかに有機農業が安全であるかが分かると思います。事実、不幸なことに使用禁止になった農薬が使われていたと報道がありましたね。ただ、農薬と人間の健康との因果関係が分かっていないから、行政もあまり問題にしないのでしょう。

しかし、消費者が安全な食べ物を求める運動を起こして、直接スーパーマーケットに要求したら良いと思うのです。消費者のニーズに応えるのが、スーパーマーケットの役割でしょうから。


有機農業1%から50%への道筋はどのようにお考えですか?

議員連盟の勉強会は、すでに30数回行われている。幅広い分野の人からから意見を聞く
議員連盟の勉強会は、すでに30数回行われている。幅広い分野の人からから意見を聞く
これを実現していくには、様々な課題があると思いますが、その1つに有機農業の技術の確立・普及が挙げられます。国の技術指導についての体制整備については、昨年は35道府県42名の普及員が有機農業を学んでいますが、有機農業を指導できる県の職員が根本的に少ないことは事実です。しかし、民間には有機農業の技術の蓄積はたくさんあります。例えば、NPO法人全国有機農業推進協議会(全有協)のメンバーには、有機農業や自然農法の指導的な役割を果たせる人が多数参加しています。

そのメンバーを県の予算で指導員としてお願いするのも1つの方法でしょう。市のレベルでも市の予算を使い、地域で実践する人を指導者としてお願いする。そうすれば、有機農業は広がっていくと思います。すでにNPO法人有機農業技術会議(西村和雄代表)が、福島県の農業試験場で公開セミナーを開催するなどの活発な動きも出ています。

ただし、これから有機農業を推進する上でネックなのは、大規模農家に、誰がどのように有機農業を教えるかです。北海道新篠津村の大規模農家の早川仁史さんに「大規模複合農業で有機栽培」という話を議員連盟勉強会でしてもらいました。早川さんは、水はけが悪いなど、畑作には不向きと言われる泥炭土壌で、土中の未分解有機物の力をEM 活性液とEMボカシの施用で引き出し、メロン16年、ダイズ9年の連作栽培に成功しています。さらに、広大な圃場も機械化作業体系を確立させることで夫婦2人での栽培を可能にし、高品質・多収を実現しています。こうした事実から学んでいけば、有機農業は小規模なら可能だが、大規模は無理だという国の認識も変わってくるのではないでしょうか。


今までの有機農家は消費者との提携で継続してきたというケースも多いと思うのですが、今後は流通の分野も整備されていかなければなりませんね。

全国有機農業推進委員会のメンバーには、JAや生協、大手スーパーも入っています。今まで有機農業の推進にJAが参加することはほとんど考えられませんでした。たとえ、有機農業をやっているにしても一部の事業としてであって、ある特定のJAでしかなかったのですから、画期的なことです。前述の北海道の早川さんはJAと協力して成功しています。

また、消費者と提携して成功した山形県高畠町の例もあります。JAや生協、大手スーパーなどの大規模な流通組織のシステムに学ぶことも、有機農業の普及には大事なことだと思います。

それと、先ほど話しました、消費者がスーパーマーケットに有機農産物を取り扱うよう求めていくことも大切です。生産者、消費者、流通業者など農や食に関わるすべての人が問題意識を持つことが必要です。


流通に乗せていくためには、現在ある有機JASとの整合性も課題になってくると思いますが。

小田原のNPOのメンバーと田植えを行うツルネン氏
小田原のNPOのメンバーと田植えを行うツルネン氏
推進法は農業者が容易に有機農業に従事できるよう、また消費者が容易に有機農産物を入手できるよう推進し、有機農業を発展させることが目的です。一方現在の有機JAS認証は、取り締まるための法律で、条件が厳しく、お金もかかるなど、高齢化していく農家に不満があることは事実です。

現在、農水省でも「有機JAS規格の格付方法に関する検討会」(座長・保田茂兵庫農漁村社会研究所代表)が設置され、活発な議論がされています。フィンランドでも、同じような認定制度があり、行政が無料で認定審査を行っています。日本でも行政の力で無料にすることも含めて、考えていかなければなりません。

推進計画や推進体制が整備できた都道府県や市町村は、その地域独自の認証制度を策定してもいいのではと思います。また、農家と消費者が提携をして、無農薬無化学肥料で栽培した農産物を直接販売するケースは現在でも多くあります。個人的には、そういう方法で良いのではないか思います。


ところで、推進法は超党派の議員立法でできましたが、今後はどのような働き掛けをされていくのですか?

法案には、内閣提出法案と議員立法案の2つがありますが、どちらも成立したら法律として同じ扱いになります。日本は官僚中心のために法律の90%は、内閣提出法案なので、その点でも珍しい法律と言えますね。中でも超党派で生まれた法律はまれで、その点でも誇りを持てるものだと思います。

実は、2004年私がフィンランドに帰国していた時に母国の有機農業議員連盟の議員たちと会った時から、この計画は始まりました。フィンランドでできることが日本でできない訳がないと思いました。フィンランドの有機農産物の割合は7%。価格は一般のものもよりも2~3割高いのですが、消費者には好評です。まだ、そのころは80%が有機農業であるキューバのことは知りませんでした。

その時にたまたま、日本の新聞社から電話取材があって、「日本に戻ったら、有機農業推進議員連盟をつくるよ」と答えたのです。帰ってすぐに各党をまわり23人の発起人を集めました。会長には、与党自民党の元農水大臣の谷津義男議員にお願いしたら、二つ返事で引き受けてくださった。後から聞くところによれば、ツルネンは外国人であるし、民主党ではあるが党の色が薄い。こういう評価があったようです。同じ趣旨の議員連盟があったそうですが、立ち消えになり、30年後に実現できたということです。やはり、有機農業は時代の要請であり、まさに「有機農業の時が来た」ということに尽きます。

●議員と市民の役割

法律をつくることが議員の役割です。勉強会を重ねて、来年再来年、もっと有効な法律案(改正案)を提出したいと考えています。また、第169回通常国会(2008年1月~6月)で可決・成立した、生物多様性基本法の中に、有機農業という文言が入りました。今後、他の法律でも盛り込まれるように、取り組んでいきたいです。

現在、議員連盟の国会議員は172人おり、有機農業関係者とのパイプ役になって、各都道府県に推進計画ができているかをプッシュしています。県レベルでは県会議員の役割が大きいです。同じように市町村議員が推進計画に基づく条例を作成するなど、議員が動くことがこれからは大切になります。一方、農家や消費者はいつどんなふうに有機農業を進めていくのか、議員に働きかけることもとても大事です。


ツルネンさんの今後の方向性はいかがですか?

ツルネン氏の自宅の畑。生ごみも剪定の枝もEMを活用して堆肥にしている
ツルネン氏の自宅の畑。生ごみも剪定の枝もEMを活用して堆肥にしている
有機農業推進に関連して、生ごみリサイクル法も制定を考えています。食品廃棄物リサイクル法でかなりの有機物がリサイクルされていますが、家庭の生ごみだけが法律化されていないのはご存知の通りです。

議員連盟の勉強会でも、生ごみ堆肥化を行う市町村を視察したり、農家が使いやすい生ごみの堆肥化を行っている優良事例の報告を聞いたりして、生ごみリサイクルは可能だと確信しています。法律ができれば、年間100tといわれる家庭の生ごみが堆肥化でき、有機農業の推進にも役立つと考えています。


最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

私自身、神奈川県湯河原の自宅にある40坪の家庭菜園で、すでに15年間、EMを活用した有機栽培で土の中の有用微生物を増やして、元気な野菜を、それほど手間をかけずに栽培しています。日本全国には、私と同じように有機農業で家庭菜園や市民農園で自給している人たちが、たくさんいるのはご承知の通りです。

それに日本には38万haという耕作放棄地があります。団塊の世代だけではなく現役の都会人でも、田舎の遊休地や空き家を借りたりしていけば、農地が癒しの楽園になります。農の危機は農革命のチャンスでもあるのです。消費者の立場でもいいし、実際に農地を耕してもいいし、国民すべてがこの改革に参加していただきたいと思います。食料自給を高め、食の安全や環境を守り育てるために農業の再生をめざしましょう。その先には、きっと素晴らしい日本の姿が現れてくると信じています。

健康にも環境にも貢献できる有機農業は、国の力であり宝です。

有機農業推進は私のラストミッションです。
Where there is a will, there is a way. 「意志のあるところに道あり」。

[2008/7/5]

ツルネン・マルテイ
1940年フィンランド生まれ。67年キリスト教の宣教師として来日。日本古典文学の翻訳、英会話塾経営、講演活動などを行う。79年日本に帰化。92年湯河原町議会議員に当選。95年、98年、01年に参議院、00年に衆議院に出馬。いずれも惜敗だったが、02年繰り上げ当選で参議院議員となる。04年超党派による有機農業推進議員連盟設立、事務局長に就任。06年議員立法での有機農業推進法成立に貢献。現在は、参議院環境委員会理事も務める。著書多数、最新刊に「ツルネンの人と地球のエコライフ」がある。

ツルネンの人と地球のエコライフ
ツルネンの人と地球のエコライフ
原書房
2008/07/07出版 \1,575(税込)

日本一わかりやすい『日本』
日本一わかりやすい『日本』
明日香出版社
2004/8/31出版 \1,365円(税込)

そうだ、国会議員になろう
そうだ、国会議員になろう
カバン、カンバン、地盤
なしで戦う方法
中経出版
2003/05/14出版 \1,575(税込)

トップページ | EMとは? | 特集・レポート | 連載 | 投稿ひろば | 用語集 | FAQ | バックナンバー | EM情報室 | リンク集 | サイトマップ

Copyright (C) Eco Pure All Rights Reserved.