まず、農水を代表して、佐々木大臣官房審議官が挨拶。ぼくの誤解かも知れないけど、ちょっと元気がないように見えた。「大丈夫かな、農水は本気でやる気があるのかな」と。担当者が平成20年度の予算案5億円の概要を説明した後、委員会が始まった。
中島委員長が「有機農業とは何なのかを、国民にはっきり分かってもらうように啓発、情報提供をしていくことがこの委員会に求められている」と切り出した。それを受けて、各委員から様々な提案があった。ぼくも次のような発言をした。
有機にすれば魚も増える
今日本各地で広がっている「田んぼの生き物調査」でも明らかなように、有機に転換した田んぼでは、水生昆虫、メダカやドジョウなど、豊かな生物が驚異的に復活している。周りを海に囲まれ、広大な森林や幾多の河川、温暖な気候と四季に恵まれたこの日本は、この例からも分かるように環境の再生能力は極めて高い。だから森林や河川の整備と併せ、農地が有機に転換することで、枯渇した漁業資源(現自給率52%)の復活が大いに期待できるのである。これも付加価値の1つ。
グローバルな視点で、日本全体の地産地消、自給自足を考える時期に来ているのではないのか。国民みんながこういう視点を持てば、循環型社会の構築や自給率100%が結果として見えてくる。
有機農業は医療や教育も担う
医療費の増大が国家予算に多大な負荷と不安を与えている今、有機農業の推進は緊急の課題。厚生労働省の分野まで、農水省が担うことになる。これも付加価値。
さらに言えば「教育の本質とは何か?」、それは「命の大切さを教えること」。では、命の大切さをどうやって教えていくのか、その環境があるのか。だから今こそ、多様な生物が豊かに循環していく「生命(いのち)豊かな社会」へ方向転換すべき時。文部科学省が抱える根本的な問題を農水省がこれまた担うことになる。以上述べたように、様々な付加価値の根本は、各省庁の枠を超え、農水省が担っているのである。
研修生を受け入れる指導者の立場から言えば、「現場の技術をなめるなよ、草取りから学べ」。土佐自然塾では、入校3か月間は質問禁止、他の生徒と作業を競うことも禁止している。「自ら学ぶことに楽しみを見つけ出せ、すべては自己責任」と言っている。
活動家としての立場から言うと、「有機農業推進法案ができたことを、普通の人たちは誰も知らない。何それ?」。これでは話にならない。一般農家の有機農業に対する誤解と偏見もまだまだ解消されていない。「農薬使わずにできるわけがない、有機では安定生産ができない」というのはまだ序の口で、「草が生えているとみっともない」と言って、自分の庭に除草剤をまく農家も多い。正しい情報を正確に知らせることが、ぼくらと農水省の仕事だ。 ぼくは、委員会の中でこのようなことを話した。
最後に、農水の佐々木審議官が次のような言葉で締めくくった。冒頭の挨拶とは雰囲気がガラッと変わっていて、迫力もあるし声も大きくなっていた。 「…これからは、分離、細分の時代から統合の時代になります。ある転換点を過ぎると、物事は一気に変わるものなんですよ・・・」と言って、顔の前に水平に置いた右手のひらを、飛行機が急上昇するように、思いっきり左に突き上げて見せた。よっしゃ、こりゃ楽しみだ。
やました・かずほ 1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう」を始め、同年12月、第1期生14人の中8人が県内で就農。今春から第2期生11人が研修中。
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外部リンク 「有機のがっこう」土佐自然塾HP http://www.tosa-yuki.com/
山下農園HP http://harehore.net/