まだ2月というのに、暖かさが続く。天気予報によれば4月の陽気だとか。風のニオイはたしかに春。薄ぼんやりした空の青も、霞(かす)む山々も、温(ぬる)む水も、暦を見なければ、誰もが春が来たと錯覚してしまう、そんな暖かさだ。しばらく行くこともないけれど、川原のネコヤナギもそよ風に揺れていることだろう。水生昆虫が羽化し、アメゴたちも、深い淵からそぞろうごめき始めているに違いない。
ま、行ったり来たりを繰り返しながら、春は徐々にやって来るだろうけど、その前に、冬の農作業は、きっちりと済ませておかなければならない。
ハウス内で前作を片付け、手作業で除草の後、コマツナ、ホウレンソウ、コカブ、ミニチンゲンサイを播種し、たっぷりとかん水した。12月下旬に播種したコマツナなどは、もう出荷が近い。いつものように、次作、次々作の準備を進めながら、収穫、調整、袋詰め出荷も同時進行の毎日が続いていて、多品目栽培、周年出荷の山下農園の従業員や四つ年上の恋女房みどりは、これらをテキパキとこなしている。
一方、有機のがっこう「土佐自然塾」はと言えば、昨年4月からの土づくりが功を奏し、11月ごろから本格的な収穫が始まり、塾生たちも嬉しい悲鳴を上げていたのだが、ここに来て、さらに大きな悲鳴を上げている。土日の休みもなく、1日中、収穫、調整などの出荷準備と配達などに追われているのだ。その合間を縫(ぬ)って、畑作業もしなければならない。
入塾以降、延々と続いた連日の草取り作業には「こりゃたまらん」と、少しずつモチベーションが下がってきたこともあった。そんな時には、草取りの大切さを繰り返し教えてきた。「畑には無限の情報が広がっている、土が何を言いたいのか、何を求めているのか、素手で土に触れ続けることで、汗を流し続けることで、その情報を肌で感じなさい」と。
入塾当初、塾生たちは「農薬と化学肥料を使わずにちゃんと出来るでしょうか?」という不安を持っていた。「出来たとしても、それで生活が成り立つでしょうか?」という不安もあった。出来るか出来ないかは、すでに結果が出ている。売れるか売れないかも、昨年末から、出荷に手が足りないほど注文が来ているから、問題ない。
と、思いきや「それは、塾長や理事長が開拓した販路、果たして自分の農作物は売れるのだろうか」という不安がまたぞろ出てくる。それについて、「問われているのは、商品のクオリティだけでなく、生産者の心だ、小手先のテクニックでは、一時的に売り上げを伸ばすことが出来ても、持続性はない。何のために農業をするのか、自分なりに答えをちゃんと持っていなければならない」と話し続けてきた。少しずつ、何となく、ぼんやりと分かってくれているとは思っていた。
昨日、どんぴしゃりのタイミングで、地域興しのプロの講義があった。話はおもしろ可笑しく、塾生たちの目が釘付(くぎ)けになるほど、目から鱗(うろこ)がポロポロ落ちるほどインパクトのある講義だった。「モノを売るな、生産者の生き様を付加価値としなさい、モノを売るだけなら、いずれ、価格競争に飲み込まれて売れなくなる」と。
ともあれ、卒業を目前に控えた塾生たちが、不安を持ちながらも、夢と希望に胸を膨らませていることは事実で、塾長としても、手応えを感じる卒業間近の日々であります。
やました・かずほ 1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう」を始め、同年12月、第1期生14人の中8人が県内で就農。今春から第2期生11人が研修中。
著書「超かんたん・無農薬有機農業」は自ら開拓した「超自然農法」での有機農法をユーモア溢れる語り口で書かれた実践本。野菜20種の栽培法収録のCD 付き。
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外部リンク 「有機のがっこう」土佐自然塾HP http://www.tosa-yuki.com/
山下農園HP http://harehore.net/