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成果が上がり始めた三笠プロジェクト

これまで度々お話ししてきたように、EMの社会化については、従来の慣行的なシステムでは中途半端になってしまいます。そのためにはEMの機能が十分に発揮できるようなシステムを構築する必要があります。海外の成功例として、昨年の8月8日にマレーシアのペナン州で行われた100万個のEM団子投入と研究機関や自治体へのEM普及体勢を紹介しましたが、日本でのEMモデルタウン推進事業の第1号となった北海道の三笠市のプロジェクトも着実な成果を上げ始めています。

三笠市はバイオマスタウン推進事業として国の助成を受け、市の生ごみの約80%を回収しEMで有機肥料をつくっており、市のごみ減量対策として望ましい成果を上げています。しかしながら、この生ごみからできた有機肥料は、50%程度しか三笠市では使われてなく、残りはEMの良さを知っている他の地域で使われており、循環型とは言えない状況となっていました。試験的に、EM有機肥料を使った農家からは好評ですが、EM技術を応用し、無化学肥料、無農薬、不耕起等々の可能性に対する理解が足りず、従来の農法の中で、化学肥料をEM有機肥料に変えた程度のもので、EMの活性液も十分に活用されていませんでした。

3年前に三笠市のEMによる生ごみ有機肥料化施設を見る機会があり、そのついでに、市や農業委員会や議会の関係者を集め、EMのセミナーを行い、生ごみ有機肥料化施設を上手に活用して、市全体をEM化し、市の活性化を図るべきであり、もし本気でやるならば名桜大学国際EM技術研究所とEM研究機構でお手伝いすることを約束しました。

そのような経過を踏まえ、三笠市と名桜大学、およびEM研究機構との合意が得られ、三笠市がEMモデルタウン推進事業の第1号となったのです。三者各々の役割については、昨年も説明しましたが、三笠市はあらゆる場面でEMの活用を推進する。名桜大学はEMの最新情報を提供する。EM研究機構は三笠市が必要とするEM活性液を3年間無償で提供し、技術指導を行う。その他年2回の成果検討会を行うことになっています。

昨年の12月5日に農業に関する検討会が行われました。三笠市の農家は120軒ですが、そのうちの50農家がEM有機肥料(生ごみボカシ)を使っています。昨年は、その50軒の中でEM活性液を併用した農家が20軒もあり、初年度としては上々の滑り出しでした。

EM活性液の供給量は多い日は60トンを超えましたが、そのうち10トン程度は下水処理関係で使われています。この三笠プロジェクトの特徴は個々の農家がEM活性液をつくるのではなく、EM研究機構が良質の活性液をつくり、全量責任を持って供給していることです。EMの効果は活性液の質と使用する量によって決まるため、個々の農家にバラツキが生じないようにすることと、規模の大きな農家でシーズンが限られていると農家自身で大量の活性液をつくることは困難であり、かなりの経験を積む必要があるためです。

長雨、日照不足、冷夏の異常気象でも平年並か平年以上の成果

昨年の北海道は、30年または50年に1回と言われる長雨、日照不足、冷夏の異常気象となり、平年の15〜30%減はもとより、50%以下という希有な結果となってしまいました。

EMを活用した農家は、稲作でイモチ病が抑えられたため、平年並か10アールあたり1〜2俵も多いという結果を得ています。稲作は秋処理が基本となりますが、スタートが遅れたため、大半は秋処理を行っていませんでした。栽培期間中に10アールあたり600リットルのEM活性液の流し込みを行った結果です。稲作の場合は、秋処理を含め、10アールあたり1000リットルの活性液の流し込みが当初の目安で、土壌が発酵合成型に変われば300〜500リットルに減らす計画にしています。

玉ネギについても、10アールあたり200〜300kgのEM有機肥料と同時に100リットルの活性液を散布したあとに、50倍のEM活性液の葉面散布を7〜8回、可能な限り回数を多くするように協力してもらいました。その結果は10アールあたり5トン内外で平年並となったそうですが、葉面散布を15〜16回ぐらい行った畑は7トン内外に達し、大豊作であったとのことです。

ワイン用のブドウにも、ほぼ玉ネギに準じた方法でEMが活用されたそうですが、一般の栽培では、病害虫の多発で糖度も低く、さんざんな結果であったのに対し、EMを活用した区は無農薬となり、これまでの最良の結果と変わらない成果を上げています。キュウリを中心としたハウス栽培は、これまでよりも15〜30増収、品質も向上し、葉面散布を徹底すれば、ほとんど無農薬で栽培が可能であることも明らかとなりました。

私はこのプロジェクトの発足当初から、EMを徹底して活用すると無農薬栽培が可能であり、多収・高品質で機能性の高い農産物を生産することが可能であり、従来の農産品とは異なる新商品として流通させられることを強調してきました。

はからずも今回、30〜50年に1回と言われる長雨、日照不足、冷夏という最悪な条件で平年並か平年以上の成果を上げることができました。EMのモニターに参加した20軒の農家に例外がなかったことを考慮すると、極めて客観的で再現性のある結果として確信できるものとなりました。これらの結果から、三笠市ではEMの効果は疑う人は皆無となり、次年度の大々的な活用のための準備を進めています。

EMは改めて述べるまでもなく、その強い抗酸化作用で病害虫の発生を抑えるとともに、葉面散布は光合成を著しく促進する作用があります。同時に土壌中の従来の有用菌も活性化するため低温期には地温を2〜4℃も高め、高温期には植物体の温度を2〜4℃も下げ、過剰な呼吸を抑える力もあります。それらの総合力が様々な異常気象に対応できる仕組みとして働いています。

平成5年の大冷害の時もEMは今年の三笠市と同じ成果を上げましたが、農業関係者は運が良かったのではという程度で片づけていました。私はそれ以来、北海道の冷夏対策にEMを徹底して使うべきであることを、繰り返し強調してきましたが、それを実行したのは、EM村で有名な新篠津村だけでした。昨年もEMを着実に活用した新篠津村の農家は、三笠市の農家と類似の成果を上げています。

(2010年2月1日)
PROFILE
ひが・てるお/1941年沖縄県生まれ。EMの開発者。琉球大学名誉教授。国際EM技術センター長。アジア・太平洋自然農業ネットワーク会長、(公財)自然農法国際研究開発センター評議員、(公財)日本花の会評議員、NPO法人地球環境・共生ネットワーク理事長、農水省・国土交通省提唱「全国花のまちづくりコンクール」審査委員長(平成3年〜平成28年)。著書に「新・地球を救う大変革」「地球を救う大変革①②③」「甦る未来」(サンマーク出版)、「EM医学革命」「新世紀EM環境革命」(綜合ユニコム)、「微生物の農業利用と環境保全」(農文協)、「愛と微生物のすべて」(ヒカルランド)、「シントロピーの法則」(地球環境共生ネットワーク)など。2019年8月に最新刊「日本の真髄」(文芸アカデミー)を上梓。2022年(令和4年)春の勲章・褒章において、瑞宝中綬章を受章した。


三笠市
北海道三笠市は札幌の北へ1時間、夕張市に近い炭坑で栄えた町です。高齢化が進み、生活保護世帯もトップクラスで、市の財政は再生団体寸前の状態です。炭坑の外にアンモナイトをはじめとする化石の山麓(さんろく)に囲まれた穏やかな気象条件のため、札幌へも良質の野菜を出荷していた実績もあります。
人口10,742人 、5,676世帯(2010年1月1日現在)

 

 

 

F.Aリサイクルセンター

生ごみの回収

製造されたEMボカシ(還元有機肥料)

EM活性液の葉面散布

キュウリ栽培

タマネギ栽培

水田へのEM活性液の流し込み

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