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土に命と愛ありて─ティア
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施設長の藤原勝さん
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パン工房のメンバースタッフの中村吉裕さん
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産直や「蔵し」の鶴久格さん(写真奥)
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まんまる農園の白仁田裕二さん(写真中央)
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まんまる農園のほ場
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お問い合わせ
ティア 風と虹の店
福岡県八女郡広川町
TEL:0943−32−2430
営業時間
ランチ 11:30〜15:30
ティアコース…¥1500など
ディナー 17:30〜21:00
大人…¥2000など
ディナータイムは土日祝日のみ営業
終日店内・館内禁煙。喫煙所は店外店舗出入り口
【第13回】 福岡・風と虹の店
●授産施設に併設したレストラン
九州自動車道広川インターに近い国道3号線に沿って、ティア「風と虹の店」はあります。緑に囲まれた、一見瀟洒(しょうしゃ)な平屋建て住宅のような佇(たたず)まいですが、石を積んだ塀に描かれたエメラルドグリーンの文字(風と虹の店)が、レストランであることを教えてくれます。

玄関に回って、扉を開けると大きなガラス窓越しに中庭の緑が目に飛び込んできます。床やテーブル、イス、配置された飾り家具もナチュラルカラーの木で統一されていて、明るく温かい雰囲気に溢れています。しかも、同店はこれまでに訪ねたティア各店とは異なり、オープンキッチンではないので厨房の様子は扉の窓越しに見るだけで、音はほとんど聞こえません。トラックが行き交う外の喧噪(けんそう)も嘘のように静かな店内です。

施設長の藤原勝さんは、「レストランの立地条件として有利とは言えませんが、安全安心な食材を使った家庭料理にお客様が納得していただき、口コミで広がっているようです」とにこやかに話してくれます。ところで、藤原さんはなぜ店長ではなく施設長なのでしょうか。実は、「風と虹の店」は、医療法人コミュノテ風と虹・のぞえ総合心療病院が経営する多機能型就労支援事業所「のぞえ風と虹」に併設したレストランで、藤原さんは施設長であると同時に看護師としても執務しているのです。

●能力を発揮する場づくり
精神に障害を持った人が治療を受けた後、社会復帰をめざしても一般企業での就労は大変厳しい現状だと言われています。市内で精神障害者の社会復帰施設を備えている唯一の施設「のぞえ風と虹」では、ティア「風と虹の店」を併設して授産施設と就労施設の2か所で継続支援を行い、すでに17人が一般就労するという画期的な社会復帰効果を上げています。

現在54人がメンバースタッフ登録し、毎日20人強が厨房やフロアー、パン工房、施設内清掃、畑作業に従事しています。ここで働くメンバースタッフは、障害者としてではなく一社会人としてイキイキと働いています。だからこそ藤原施設長は、「フロアーすべてをメンバースタッフで回している時もあります。今までは能力を持っていても発揮できる場がなかったのです。しかし、ここは一般就労の場への通過点。一般企業が雇用を拡大してもらえれば…」と訴えます。

ランチタイムの店内は、グループや家族連れで賑わっています。辺ぴな場所にあるとはいえ、17台収容の駐車場は車で埋まっていきます。満車の時は、隣接する病院の駐車場を拝借するそうです。タクシーで乗り付けた会社員グループもいます。

10人の女性グループが来店。医療法人コミュノテ虹と風・のぞえ総合心療病院で実習する看護専門学校の生徒たちです。健康に専門的な知識を持つ人たちだけに、「野菜のメニューが豊富で体にやさしい感じ」「アットホームな雰囲気で癒されます」と声を揃えます。

●将来の夢はパン屋さん経営
配膳台には約20種類の野菜をふんだんに使った惣菜が所狭しに並んでいます。厨房から焼きたてのパンの香りが漂ってきます。できたての調理パンが次から次と並べられ、並ぶと同時にお客さんが皿に取り分けていきます。

パンを買いに来たという主婦は、「近所に住んでいて週1回パンを買いに来ます。素材にこだわっているので安心して食べられ、おいしいです。食事もおいしいですよ。時々家族で来ますが、安くて安心で、お腹がいっぱいになります」と、ベタ褒めです。

天然酵母が売りの同店のパンづくり。毎日10数種類以上のパンは、スタッフ、パートさんと一緒に8人のメンバースタッフたちの手づくりです。市販の天然酵母以外にもブドウやイチゴ、桜など自家製酵母でつくられるパンが季節の味として焼かれます。現在一般就労に向けて訓練を受けているメンバースタッフの中村吉裕さんは、パン工房に入って2年半、「お客さんに喜ばれるパンをつくりたい」と言います。中村さんが得意とするのは“メロンパン”。将来の夢は「自分でパン屋を経営すること」とのことです。

パン工房の責任者田中雄さんは精神保健福祉士ですが、大手パンメーカに勤めていた経験でパンづくりを指導しています。「メンバーさんは、もともと持っている力があるので、1年くらいでパンづくりを普通にこなしてしまいます。技術を取得して、自立できることが願いです」と、兄のような視線で見守ります。

●人と人との太い繋がり
ところで、ティア同店は平成15年にオープンして2年目まではディナータイムも営業していましたが、現在ディナーは土日祝日のみでウイークディはランチタイムのみの営業です。メンバースタッフの状態に合わせてそれぞれの就労時間が決まるので、現在の仕様になりました。「競合店が近くにないことは幸いです」と言う藤原施設長。

藤原施設長の案内で、隣町久留米市にある産直や「蔵(くら)し」を訪ねました。産直や「蔵し」は、鶴久チズ子さんと格(いたる)さん親子が経営する産地直売店です。チズ子さんは16年前に地域の生産者と消費者を結ぶグループ「生ごみを活きごみにする会」を結成し、事務局を務めます。店頭に並ぶアイテム数は約2000で、EMと糖蜜、EMボカシなども置かれ、「筑後地方では一番の品揃え」と格さんは言います。地元で入手できない食材はやむを得ず遠方から仕入れていて、北から南までの30戸の生産者から旬の食材が送られてきます。

ティア同店が使用する米と野菜のほとんどは同店から届きます。時には旬の野菜や規格外の野菜がドッサリ届くこともありますが、「ティアでは嫌な顔せず引き取ってくれるのでありがたい」と格さん。藤原施設長は「地元生産者のつてがなかったので助かっています」と喜びます。今では、「かなめ」「いたる」と呼び合う仲。ちなみに「要」とは、ティアの用語でリーダー格の人を「肝心要」とするところから出ている呼び名です。

筑後川河川敷で昨年から循環農法・元気野菜園「まんまる農園」(3000坪)に取り組む白仁田裕二さんも、ティア同店が取引している地元の有機野菜生産者です。白仁田さんは、久留米市内で居酒屋「まんまる」や仕出しや業を営むファインフーズサービス株式会社の代表取締役でNPO久留米「大地といのちの会」を主宰します。居酒屋から出る生ごみはすべてEMボカシで発酵肥料化して畑に投入、無農薬・無化学肥料で野菜栽培をしています。「地元に有機生産者あり」の心強い存在です。

心強いと言えば、障害者にとって1人の社会人として就労できる場を支援してくれる人・企業・機関・事業体の存在はどんなに心強いことでしょう。障害の中でも一番障害者として見分けがつかず、理解が得られにくいと言われる精神障害者の社会復帰。私たちにできることは、彼らの働き場の間口がもっともっと広がるように、支援の声を挙げていくことではないでしょうか。[2008/2/2]

(鹿島祐子)

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