サンスカイホテル創業者の先代社長は、1974年ホテルオープンに当たって当時のホテル・ニューオータニ(東京都紀尾井町)の回転式展望レストランを模した高級フレンチレストランを最上階に開店し、周囲をアッと言わせました。
1992年、若干28歳で跡を継いだ濱田時栄現社長。その後、展望レストランは高級フレンチからカジュアルなイタリアンへと変わりましたが、小文字山を背景に、関門海峡を一望する眺望は変わらず、なじみ客でいつも賑わっていました。この時期濱田社長は、スローフードやスローライフについて学び、日本の文化としての食の必要性を考えていたと言います。そして「長期的ビジョンでホテル・レストランの業態変更を検討しました」と振り返ります。
●“ティアのこだわり”体感して決断 ところで、濱田社長が11階の展望レストランをティアにしようと決断した動機のひとつに、“サトイモの皮の天ぷら”があります。2004年のある日、ティア熊本本店を訪ねた際、「サトイモの皮の天ぷらです。普通は捨てる素材をティアでは…」と店のスタッフから声をかけられ、提供されました。「この時、オーガニックレストランという選択肢があることに気づいたのです。スローフードへの課題に一歩前進できると思いました」と話します。
その後、濱田社長は店長候補と共にティア熊本本店の研修に参加し、2005年4月、ティア「眺めのいい食卓」をオープンさせました。すべてのテーブル(20席)が窓側に位置し、パノラマ展望の正真正銘「眺めのいい食卓」です。
フロアー中央に配置されたエレベーター・厨房・配膳台。エレベーターホールがそのままレストランの入り口となっています。配膳台に並んだ料理はティア各店の共通メニューがほとんどですが、野菜の皮や芯など素材を余すところなく使い切ったレシピの多さは他店に類を見ません。これは、濱田社長の意をくんだ厨房スタッフの手腕とも言えます。これで同店の生ごみの量が少ないことにうなずけました。
●生ごみは堆肥に 濱田社長がめざしたのは、「人と地球環境にやさしいホテル」づくりでした。良い物を長く大切に使う、ロングライフの視点で、イギリス製アンティーク家具やヨーロッパ製食器を多く採用する他、地元陶芸家・阿部眞士さん(国展会員)がつくる磁器を茶碗や湯飲みとして使うなど一流品をさりげなく配置しました。
ごみの減量化では、食品廃棄物の地域内循環システムで事業展開する「楽しい株式会社」(北九州市若松区)と提携。食品残さ発酵分解器を設置して生ごみ堆肥化に参画しています。また、リサイクルトイレットペーパーや竹箸なども積極的に活用。使用済みの竹箸は「楽しい株式会社」が回収し、福祉施設で竹炭に加工されます。竹炭の一部は、生ごみ堆肥化の発酵分解の工程で添加資材として活用されています。
現在、ホテルからの生ごみ排出量は1日平均約20リットルで、「楽しい株式会社」研究開発部の竹田英敬主任研究員は「外食産業としては少ないですね」とコメント。これは、ティアで実践している“もったない”精神の取り組みの評価と見て良いでしょう。
●口コミで広がる しかしながら、レストランのある場所は11階。ティアでは大々的な宣伝をせずに地道な営業展開を基本としていることもあって、オープン当初からなかなか集客率が上がりません。しかも、繁盛していたイタリアンレストランだっただけに、お客の側でもイメージを切り替えるのに時間を要したようです。「経営のめどが立ってきたのは、1年半くらいたってからでした」と打ち明けてくれた濱田社長。タウン誌や子育て雑誌などで「自然食レストラン」として取り上げられるようになり、口コミの影響力もあって来客数も増えてきました。
「アトピーの会」代表の下村明魅さんも、口コミで広げてくれた1人です。下村さんは長男が生まれながらのアトピー症状で、自身も32歳でアトピーを発症。自然療法で症状を改善した経験から、情報と食材を全国にいる会員に提供しています。付き合いのある地元の有機野菜生産者が同店と関係があったことから、来店するようになりました。
「外食する楽しみができた!」と喜んだ下村さん。「ティアは全国各地にあるので、旅行先でも安心して食べられるように会員たちにティア情報を流しています」と話し、「私たちのためにも、ティアを支えていかなければ」と発奮します。下村さんは、有線[FMキタキュー]土曜夜のパーソナリティも務めていて、「食と健康」をテーマに時折ティア情報も伝えているようです。
こうして常連客が増えていく陰には、松居清治店長を始め、スタッフの努力も見逃せません。松居店長は、「一度来店されたお客様の顔と名前は忘れないように努力しています」と接客の極意を教えてくれました。デザートを担当する女性スタッフは、休憩時間も楽しそうに料理本を見ながら新メニューづくりに思いを巡らせています。こうしたアットホームな雰囲気が好きで週に1回は来店すると言う女性3人組は、「眺めが良く、ゆっくりと食事が楽しめるので気に入っています。今日はイリコと柿の皮のかき揚げがおいしく、びっくりしました」と、料理も話題に加わって盛り上がります。
今後の取り組みについて濱田社長は、「北九州地方にある昔料理・郷土料理を掘り興して取り入れていきたいですね。季節の行事食をテーマにしたイベントも良いですね」と意欲的。ホテルとレストランの相乗効果で宿泊客の満足度も上がることでしょう。こんなホテルがどんどん増えていってほしいですね。全国のホテル・飲食店のオーナーさん、ご一考を![2007/12/31]