前回の第6話は特に読者からの反響が大きく、著者として本当にうれしかったです。私たちが取り組んでいる生ごみから出発した元気野菜づくりは、食べることを通して自分と地球のきずなを感じ、食べ物を心からありがたく、いとおしく感じるという、まさに食育の根幹に触れる体験活動なのです。
食べる前に手を合わせる心
「チクショウ、あと少しだったのに!」と思っているかどうか分かりませんが、菜の花さんはあきらめません。生きる力を1番花に集中させましたが、まだ養分は残っています。それをどうしても子どもにつなぎたくて、もう一度花を咲かせる準備を始めます。2番花です。それを、また、人間に取られてしまうのです。それでも子どもをつくりたくて、あと少し残っていた力を3番花に集中させていきます。 また、それを人間に取られてしまい、それでもあきらめきれずに、4番花をつくろうとします。
もし、そのつぼみを人間が取らなかった時、やがて花は咲きますが、タネのできない奇形花が発生しやすくなります。なぜなら、1番、2番、3番花と、いつだって子どもにすべてを渡そうとがんばってきた菜の花さんの体の中には、もう子どもをつくるために必要な十分なミネラルやビタミン、ファイトケミカルが残されてはいないからです。
私たちは、そんな菜の花が全力をあげてつくった菜の花の希望を食べて、自分の希望につないでいくのです。そう考えると、ありがたくてありがたくて仕方がなくなります。だから、日本人は食べる前に、食べ物に手を合わせたのだと思います。私は子どもたちによく「食べ物さんに本気でありがとうと思えた君たちなら、食べ物さんが君の体と心になって君を応援してくれるから、きっときっと幸せになれるよ」と言います。
実は私も、私の師匠に「食べ物に感謝できたら人生変わるよ」と教えられ、本気で感謝していたら、だんだん人生が好転して、今では毎日、やりたいことを仲間と楽しみながらやっている自分がいました。感謝の心は脳内モルヒネを発生させるとか、脳波がα波になるとか言います。通常、人は自分の脳を3%程度しか使っていないという説があります。もしかしたら感謝の心は、人間の脳の、普段は使われていないすごい力を引き出しているのかも知れません。
花も茎も葉っぱも役割があるんだよ
手ごろな大きさに育った冬のホウレンソウ。一株収穫して、それを子どもたちと一緒によく観察してください。一番外側には黄色くなりかけたやや小さい本葉、その内側にはより大きな葉、さらに内側に行くと葉は反対にだんだん小さくなり、最後はとっても小さい赤ちゃん葉が現れます。これって、まるで大家族のように見えませんか。もうすぐ役割を終えようとしている外側の黄色くなりかけた小さめの葉は、おじいちゃんかおばあちゃん。つい1か月前、まだホウレンソウが小さかった時には一番活躍していた一番大きな葉だったことを子どもたちは覚えています。その葉はある程度大きくなったところで、自分がこれ以上大きくなるのをあきらめ、お日様の力と土の力を合わせて精一杯栄養をつくり、その栄養を自分ではなく次の葉っぱに注ぎ込んだのです。
だから、次の葉はおじいちゃんよりずっと大きく育つことができました。お父さんかお母さんでしょう。そのお父さんお母さんも、おじいちゃんに大きく育ててもらった葉っぱでたくさん栄養をつくり、それで自分の葉をこれ以上大きくするのではなく、次の小さな葉っぱに毎日栄養を注いでいるんです。そして、今ぐんぐん育っている最中の葉っぱは子どもたちでしょう。
この一株のホウレンソウ家族。どう食べますか?やや黄色になった外葉は捨てますか? 子どもたちはこれも食べたいと言ってくれます。 「おじいちゃんありがとう。ごくろうさまでした。あなたのおかげで家族みんなが育つことができました」 そう思いながら食べてみてください。冬のホウレンソウの黄色い外葉って、ホウレンソウ臭さ(エグミ)が抜けて、素直な甘さだけが残っています。
サツマイモさんも魅力的です。夏の盛りの頃、葉っぱの先に棒を立てて、伸びていく様子を観察してください。昼間はまったく伸びませんが、翌朝見ると数センチ伸びているのです。サツマイモさんは、とっても夜の活動が好きなんですね。こうやって若い頃は上ばかり伸びるものですから、8月までは、つるの根元を引き抜いてもほとんどイモはできていません。ところが、お盆を過ぎた頃から夜活動をしなくなるのです。そして、急にイモが太り始めます。だってサツマイモさんは、冬にとても弱くて、一回霜に打たれただけで地上部は致命的な損傷を受けてしまいます。だから、生き延びるために本体を根っこに移しているのでしょう。
サツマイモさんは、春になったら再び芽を出し、ぐんぐん伸びたいのです。そのためのすべての力をサツマイモの中に詰めて、春の目覚めの日まで深い眠りについているのです。私たちは、それを食べて自分の伸びる力に変えているのでしょう。
体験して欲しい、土づくりとタネの芽出し
もうひとつ、特に野菜のタネの芽出しはぜひ子どもたちに体験させてください。例えば、オクラ。4月下旬にタネをそのまま土に撒いても寒くてなかなか芽が出てきません。だから、人の体温で温めてあげるのです。まず、半日〜1日水に浸けます。そのタネを濡れた綿のハンカチで包んで、ビニール袋に入れ、それを肌身離さず温めてもらいます。
「しっかり温めてあげたら、長い眠りから覚めてオクラの赤ちゃんが産まれてくるんだよ」子どもたちは真剣です。冷たくならないように夜も一緒に寝ます。2日くらいで芽(正確には根)が出てくるのですが、たったそれだけのことに大喜びしてくれます。だって、ここまでオクラのお母さん代わりになって、タマゴを温めるように、自分の体で温めつづけてきたのですから。
根が伸び過ぎないうちに、すぐに土の中に入れて土を被せます。そうすると根は下に伸び、やがて芽が伸びて土から顔を出してきたのを見て、子どもたちはまた大喜び。それからもずっとこの野菜の育っていくのが気になってしまうのです。 この芽出し体験をした幼児は、お母さんとスーパーにお買い物に行くと、野菜のタネが並んでいる棚の所に行って、袋を手で触って写真を眺めているそうです。子どもって、本当に感受性豊かですよね。
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著者の講演会情報
よしだ・としみち NPO法人大地といのちの会理事長。1959年、長崎市生まれ。九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県の農業改良普及員に。96年、県庁を辞め、有機農家として新規参入。99年、佐世保市を拠点に「大地といのちの会」を結成し、九州を拠点に生ごみリサイクル元気野菜作りと元気人間作りの旋風を巻き起こしている。2007年、同会が総務大臣表彰(地域振興部門)を受賞。2009年、食育推進ボランティア表彰(内閣府特命担当大臣表彰)。長崎県環境アドバイザー。主な著書は「いのち輝く元気野菜のひみつ」「生ごみ先生のおいしい食育」「まるごといただきます」など。