また、農地の復旧は進まず、作付け制限・自粛の水田が19,500ha、果樹栽培226ha、耕作放棄地は福島県の農地の約20%以上に拡大しています。
なかでも、自然の循環と生態系を守り、健康な作物と家畜を育ててきた有機農業への打撃は深刻で、食の安心安全を求める消費者や流通団体の3割が取引を中断し、有機農家の経営を追い込んでいます。この状況は、福島県だけではなく、栃木、茨城、群馬など関東地方の有機農家にも及び、福島と同様に厳しい状況に立たされています。
さらに低線量被ばく、内部被ばくなどの科学的検証が進まず、健康不安に対して何の長期的対策はとられていません。そのこともあって、「果たして福島で農業をしてよいのか」との強い懸念が、有機農家を二重にも三重にも苦しめています。
こうした中で、8月24日に福島市で「よみがえれ!福島・“生きる”“耕す”有機農業のつどい」(主催:NPO法人福島県有機農業ネットワーク、NOP法人アイフォーム・ジャパンなど5有機農業関連団体)が開催され、有機農家、研究者、消費団体関係者ら約200人が参加しました。
セミナーは、①福島現地3年間の振り返りと現状、②有機農業ー放射能対策の取組み、③消費者・流通の取組みの3部構成で行われ、ことに研究者と農家の実証実験の成果ともいえる、「グリーンオイルプロジェクト」が注目を集めました。土壌汚染を低減化する油脂作物を搾油するとセシウムは移行しないことが判明。この植物油を生産販売し、経営再建をはかるというもの。日本の植物油の98%は遺伝子組換えの外国産油脂作物で作られており、国内産への移行は自給率の向上と食の安全という意味でも、大きな意義をもつものです。
この計画には、作物を交互に栽培する「輪作」など日本の伝統的な農業の手法が生かされ、大規模農地整備や植物工場の建設という方向ではない、農家自身の手で復興が可能となるなど多様なメリットが紹介されました。
コーディネーター:菅野正寿(福島県有機農業ネットワーク) パネラー:石井秀樹(福島大学特任准教授)・野中昌法(新潟大学教授)・伊藤俊彦(J-RAP代表取締役)
2011年5月から、日本有機農業学会が中心となって行った現地調査団(団長・恵泉女学園大学澤登早苗教授)が、相馬市、南相馬市、飯館村、二本松市東和地区の現地視察と聞き取り調査を実施した結果、放射性セシウムは農地土壌0-5cmに90%以上集積していることが判明。場所によっては、1,000〜30,000Bg/Kgと大きく変動することも計測によってわかった。その上で詳細な1m毎の線量マップを作成して、汚染度の見える化を行った。この研究者と農家との協働作業が、その後の対策に功を奏した。
①土壌の放射能が比較的低い圃場では、耕運機により反転して、放射性セシウムで汚染された表層の土を下層に埋め、表面の放射線量を低下させるとともに、作物への放射性セシウムの移行を低減できる、②腐植の多い有機的な土壌ほど放射性物質が土中に吸着固定化されて農産物への移行が低減すること、③水田では、水源のセシウム濃度に作物への移行が左右されることが確認された。
これからの課題
コーディネーター:河田昌東(チェルノブイリ・中部) パネラー:魚住道郎(魚住農園)・稲葉光國(グリーンオイルプロジェクト代表)・杉内清繁(南相馬農地再生協議会代表)
「グリーンオイルプロジェクト」は、24年前からチェルノブイリへの医療支援を行うチェルノブイリ救援・中部の河田昌東氏が進めている「ナロジチ再生・菜の花プロジェクト」※を基に栃木県上三川町のNPO法人民間稲作研究所(代表・稲葉光國さん 写真右)が中心となって始まった計画。実地検証によって、ヒマワリ、菜種、大豆などの油脂作物は、土のセシウムを吸収するが、搾った油にはセシウムが移行せず、水とくっつく性質を持つ(水溶性)セシウム137とストロンチュウム90は、菜種油やバイオマス発酵ガスには入り込まない性質がある。この性質を利用して、エネルギーの自給が可能となる。
土壌の回復を兼ねた油脂作物として大豆を輪作することが自然の循環機能を高める。水田では、「菜種ー稲」の2毛作、畑では「菜種→ヒマワリ→大豆」の輪作とする手法とする。相馬農業高校農業クラブの生徒たちが「油菜ちゃん」と命名した菜種油は、販売を始めている。
参考資料 グリーンオイルプロジェクト
コーディネーター:高橋宏通(パルシステム生活協同組合連合会) パネラー:大内信二(二本松市有機農家)・佐々木博子(パルシステム生活協同組合連合会)・戒谷徹也(大地を守る会)・若島礼子(日本有機農業研究会)
パネラー:大内信二(二本松市有機農家)・佐々木博子(パルシステム生活協同組合連合会)・戒谷徹也(大地を守る会)・若島礼子(日本有機農業研究会)
生協団体のほとんどが、国の放射能規制値よりも低い独自のガイドラインを設定し、自主検査の運用を行っている。その数値が高いか低いか、人によって受け入れられる安全の基準は違うが、消費者が判断できるように数値を明確に表示した。このことによって、消費者が「買って支える」しくみが広まり、「食べる力」で復興への支援ができた。また、数値を明確にすることで、生産者と問題を共に考え、助け合って解決する糸口となった。原発事故は、いのちの危機であり、今まで“商品”であったものを私たちを支える「いのち」として取り扱わなくてはならないことを再確認した。消費者も食生活や生き方、暮らし方を変えて、安全安心な食べ物とはなにか、どのような方法で誰がつくっているのか、さらに関心をもってもらえるように努力していく。日本有機農業研究会では、福島の有機農家支援の「猫の手」プロジェクトを企画、福島有機農学校を設立した。生産者・消費者・市民協同による福島再生をめざす。