学生ボランティアが支えた映画祭

屋嘉宗彦法政大学沖縄文化研究所長
今年で7回目となる国際有機農業映画祭2013(主催:国際有機農業映画祭運営委員会/法政大学沖縄文化研究所)が、11月23-24日に東京・法政大学市ヶ谷キャンパスで開催され、2日間でおよそ700人が参加しました。この映画祭は2007年に始まり、国内の作品だけでなく、海外の農と食に関する映画を紹介し、有機農業を核とした社会づくりをすすめるというもので、今年は9作品を上映しました。「食の選択」と「GMO OMG 遺伝子組み換え? なんだそれ?」の2本は、いずれも日本初上映で話題を呼びました。

今年から共催団体となった法政大学沖縄文化研究所の屋嘉宗彦所長は、今年のテーマの「土くれを握りしめて」について「土で表象される自然が私たちの経済活動の、あるいは生命活動の根底にあることは文明が進むほど忘れられたり、軽視されたりします。17世紀半ばに経済学が成立したとき、その経済学の創始者というべきケネーやアダム・スミスは、私たちの社会が、農業を出発点として成り立っていることを鮮やかに描き出し、当時の、貨幣を至上の富とする重商主義の考え方を批判しました。今日、私たちは、再び、貨幣至上主義の市場経済に振り回されています。土地を生かし、人を生かすという根源的な原理が今ほど再考・再評価されなければならない時期はないと思います」と挨拶しました。


左から入沢牧子共同代表、仲西美佐子さん、島田恵さん
1日目は、基地と原発に収奪される農地をテーマにした「人間の住んでいる島」(1997年/日本・監督・橘祐典)と「福島 六ヶ所 未来への伝言」(2013年/日本/監督・島田恵)など4本を上映。トークコーナーでは、沖縄でエコビレッジを主宰する仲西美佐子さんと「福島 六ヶ所 未来への伝言」の映画監督・島田恵さんが登場。仲西さんは、沖縄の誰とも戦わない伝統的思想を脅かすさまざまな問題に地域の有機農業(伝統農業)を守りながら住み続けることこそ未来への責任だと明確に語り、生命のバトンをわたすことができない核燃料サイクル廃止を追求する島田さんは、原発のために犠牲になる人々の痛みを自らの痛みとして共有することの大切さを強調しました。


組み替えかどうか見分けるメガネ。「GMO OMG」から
2日目は、ニコチノイド農薬や遺伝子組み換え問題などをテーマに5本を上映。「食の選択」(2009年/アメリカ/監督・アナ=ソフィア・ジョアンズ)は、食物を効率よく生産するしくみの実態と有機的な生産の豊かな営みを比較して、未来を守るための食の選択を提案した作品。「GMO OMG 遺伝子組み換え? なんだそれ?」(2013年/アメリカ/監督・ジャーミー・セイファー)は、子どものために食について考えるようになった父親が、「遺伝子組み換え」の謎を解く旅に出て、学者や企業などを訪ねて出した結論は、オーマイガット!(OMG)な現実だったというストーリーで、メルボルン環境映画祭観客賞などを受賞しています。日本では、すでに大豆など8品目の遺伝子組み換え作物が承認されており、その影響が不安視されています。この2本は、同実行委員会メンバーが翻訳作業を行い、日本初上映にこぎつけました。


若い世代が目立った会場
尚、会場ブースでは、有機農業の盛んな埼玉県小川町の“まいっか農園”や放射能を測定、公表しながら加工食品の販売を手がけてきた福島県三春町の“福島「農と食」再生ネット”など18団体が出展し、オーガニックのおいしさを提供しました。会場には、若い世代も多く見られ、親子で参加したという三橋芳子さんは、「なるべく安全な食を子どもにと思って調理してきましたが、この映画祭を親子で見ることで、その意味を子どもに伝えられてうれしい。親の小言としか聞いていなかった食への忠告をすんなりと理解してくれたようです」とうれしそうに話していました。

今年は、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉をめぐり、小規模な有機農業にかわり大規模な農業への転換がなされ、生産性の向上のためにさらなる農薬散布や、遺伝子組み換え作物はどこまでも広がるのではないか、という危機感があります。しかし、だからこそもっと別の、人間らしい、たしかな農と食、そして暮らしがあるとの提案が、鮮やかに印象に残る映画祭となりました。

同映画祭では、「東京だけではなく、全国各地での上映会を開いていただきたい」と呼びかけています。

詳しくは、国際有機農業映画祭のサイトをご覧ください。
http://www.yuki-eiga.com/

2013年12月24日


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