神奈川県の西部に位置する小田原市は、豊かな自然と温暖な気候に恵まれ、小田原城を中心に商業、文化が栄えてきた歴史ある街です。その小田原市が「いのちを大切にする小田原へ」をスローガンに官民あげて地域おこしを始めています。その中心を担うのが、地元の4つの有機農業団体が連携したモデルタウン事業。都市の有機農業モデルづくりとして注目されます。
小田原が有機農業のモデルタウンづくりに名乗りを上げるには、それなりの背景がある。有機農業の実践では小田原は神奈川県下でも先駆的な役割を果たしているとされている。
自然農法グループは1960年代から取り組まれているというから、すでに50年の歴史がある。さらには生協との産直を切り開いてきたプロの農業者集団、有機農業を軸に農業に船出した人たちを支えるグループ、小田原出身で農の営みを中心において社会・経済・産業の振興を図り、日本における協同組合の先駆者とされている二宮尊徳の思想と実践を受け継ぐ人びと、など長い歴史と実践の蓄積を持つグループが、協議会を支えているのだ。こうした蓄積は、神奈川県における有機JAS認定農家42戸のうち26戸が小田原市であるという数字にも表れている。
協議会の活動内容は多岐にわたる。柱は次のようなものだ。
もうひとつが「市民の農業参加」。傾斜地が多く、一枚一枚の田畑、果樹園も小さくて機械が入りにくい小田原では、農家が高齢化するにつれて耕作放棄地や遊休農地が目立つようになった。小田原は温州みかんの産地として知られている。だが全国のみかん産地を襲った安い輸入果実の流入、生果の消費の減退、それに伴う価格の低迷に見舞われ、生産は衰退、それに生産者の高齢化が加わり、放棄園が急増している。また。平場の農地は宅地化の波で乱開発が進み、農地の減少が目立つ。
その一方で、「市民から農業をやりたいが、という相談がくるようになった」と渡邉さんは言う。もちろん、専業農家志望ということではなく、仕事を他に持ちながらの家庭菜園の延長のようなものだが、そうした市民の声を積極的に受け入れることが出来れば、都市と農山漁村が一定のエリア内に共存する地域での将来の農業の姿を先取りすることになるかもしれない。農業政策というと、大方の人は国の農政を思い浮かべるが、むしろ主体は地域のことを一番知っている市町村であるべきだと思う。そして有機農業は市町村農政によく似合う。
小田原有機の里づくり協議会 小田原市を中心に有機農業を行い、活動している4団体が参加して平成21年3月に発足。 代表は加藤憲一小田原市長。小田原有機農法研究会(代表・石綿敏久)、農事組合法人小田原産直組合(代表・長谷川功)、NPO法人あしがら農の会(代表・中村隆一)、農事組合法人報徳農場生産組合(代表・田島享)の4団体が参加。協議会の農業者はあわせて55戸、30ha。農産物の内訳は、水稲、野菜、果樹(ミカン、梅、キウイフルーツなど)で、宅配や市内の学校給食、大手生協、有機食品業者などに出荷している。なお、小田原市の総面積は、1万1406haうち農地は2522ha。自給的農家を含めた農家数は2万4477戸。
大野和興(おおの かずおき) 1940年愛媛県生まれ。日本農業新聞記者をへてフリージャーナリスト(農業・食糧問題)。長年にわたり日本とアジアの村を歩く。アジア農民交流センター世話人。脱WTO草の根キャンペーン事務局長。主著に『日本の農業を考える』(岩波ジュニア新書)、共著に『食 大乱の時代』(七つ森書館)、『危ない野菜』(めこん)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)など。
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