その結果、12年度は国内の年間消費量を賄えないほどで、海苔の高騰を招きました。「諫早湾干拓の堤防の影響が有明海の海況異変につながった」など、マスコミでも大きく取り上げられ、社会問題となったことはまだ記憶に残るところです。
ところが、有明の海苔養殖が始まって以来の危機的な状況下で、まったく被害を受けなかった地域があったのです。それが、熊本県河内町でした。同区では平成7年から中川ケイ子さんら校区婦人会環境部会のメンバーがEM活性液で有明海に注ぐ河内川の浄化活動を行っていました。その結果、海苔漁場の悪臭が消え、平成12年度産の海苔に色落ちは見られず、「むしろ品質の良い海苔が生産された」と漁協関係者から驚きの声があがりました。地元新聞は「EM効果を実証」と報道し反響を呼びました。
実は、河内町だけではなく、福岡県八女郡の山下鏡子夫妻、熊本県天草市の杉本烈子さん、熊本市のクリーン帯山(青木スミエ代表)、佐賀県北方町のステップ北方(上野淑子会長)など、個人やグループが有明海に続く河川の浄化活動を開始していました。これらの一帯は河内町と同様に海苔不作の被害をほとんど受けていませんでした。
このような流れから、有明海に面する長崎・佐賀・福岡・熊本4県の市民・漁業関係者など19ボランティア団体で、平成13年「甦る有明海ネットワーク」が結成され、日本初の広域的な「EMじゃぶじゃぶ作戦」が始まりました。
この作戦は、同年4月から10月末までの30週間にわたり、有明海に流れる河川(甘木市・久留米市・柳川市・大牟田市・広川町・大和町・諫早市・大牟田市)と瀬戸内海に流れる河川(行橋市・犀川町・苅田町)などで、一斉にEM活性液やEM団子を投入するというもの。(株)EM研究機構が支援をし、諫早市連合婦人会、小長井漁協、かたつむりの家(障害者作業所)、瑞穂町、国見町役場(雲仙市)なども参加しました。
「EMじゃぶじゃぶ作戦」の内容は、①1tタンク21箇所に設置、②1週間に1回1tタンクでEM活性液を培養する、③培養したEM活性液を河川にタンクから流す、④期間中の作業はすべてボランティアで行う、⑤EMボカシで団子をつくり干潟に投入する、⑥米のとぎ汁とEM活性液で発酵液をつくり、家庭の排水口から流す、というもので、この期間だけでEM活性液が600t以上、EM団子5万個以上が投入されました。
「よかことはよかバイ」EMが暮らしに浸透
この作戦は予想よりもはるかに早く効を奏し、その年には海苔の生産が回復し、以後、現在に至るまで大きな問題は発生していません。「甦る有明海ネットワーク」は目標を達成したことで平成19年に解散しましたが、現在でも各地でボランティアの協力と行政の支援が続けられています。
例えば、熊本県熊本市では各地域で市民中心の環境向上保全対策事業が行われ、EMが活用されています。その1つ、平成11年から漁協と町が一緒になって活動していた天明地域では、活性液タンクを2台据えつけ、住民に無料で配布されています。
長崎県諫早市では、諫早市連合婦人会が市内にある自動培養装置4台で年間98トンのEM活性液を製造。無料で市民に配布し、EM普及活動を行っています。同県対馬市では、磯やけ対策にEMを導入するなどこれまでの実績を生かす取り組みもスタートしています。
福岡県柳川市大和町では平成20年にはEM活性液133トン、EMボカシ1t、EM団子2万個が河川に投入され、今年も浜武漁協組合婦人部を中心にしたボランティアによる団子つくりが行われました。甦る有明海ネットワーク・ちくごの代表を務めた海苔養殖家・堤キミ子さんは、「年々海苔の質がよくなり、消費者のみなさんにおいしいと喜んでもらっている。今思えば、あの色落ち問題は、海を汚さないという地域の人たちの意識を変えた、意味ある経験だった」と語っています。
佐賀県でも、婦人会や漁業関係者を中心に有明海沿岸に暮らす人々の生活にしつかりと根づき始め、各市の公民館や直売所でだれでもEM活性液が手に入る仕組みが生まれています。
宝の海・有明海の浄化作戦の実績は、時間の経緯とともに再評価されるとともに「環境浄化は各家庭から」という当時の合言葉が今でも有明海沿岸の人たちに受け継がれています。