連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表
第19回 有機農業ってなに?



カテゴライズ主義。と言う言葉があるかどうかはしらないけれど、要は、なんでもカテゴリー(ジャンル)別に評価するタイプの人たちを、仮にそう呼んでみた。そして、そういう人たちに、問題はジャンルではなく、コンテンツ(中身)でしょうと言う話をしたい。それが今回の中身です。

有機農業か慣行農業か、小規模農業か大規模農業か。一次産業か六次化か、農業か工業か、はたまたサービス業か。田舎か都市か。

単純で二者択一的な話に置き換えて、どちらが良いと、不毛の議論を繰り返している場合ではない。技術もない形だけの有機農業は、味も見てくれも悪いけれど、土づくりに力を入れ、熟練の管理技術で、手を掛けた農産物は、慣行栽培でもクオリティは高い。面積の大きい北海道や東北なら大規模の方が効率的だろうし、単位面積の小さい中山間地なら、当然小規模農業だろう。そうであれば小規模であるがゆえの特徴を生かした、経済的にも可能性の高い、クオリティに特化した生産体制が求められる。

甘みを増したホウレンソウ
甘みを増したホウレンソウ

2月取りの大根が、何とか大きくなった
2月取りの大根が、何とか大きくなった

春が待ち遠しい、ソラマメ
春が待ち遠しい、ソラマメ

美しい自然に囲まれた田舎のたたずまいは、存在こそが人々の癒しの場でもあるし、都市部に必要な食料の生産、供給機能も果たしていれば、日本全体の環境保全機能や多面的機能も果たしている。都市部は、莫大な消費と、雇用を創出し、日本経済の機関車としての役割も果たしている。どちらが良いという話ではなく、どちらもそれぞれの役割を背負っていて、この相互に依存している体質を、きちんと自覚、評価したうえで、依存型から補完型、さらには創造的な役割分担型と、発展的な共存型に社会を改革する必要がある。その中身ときめの細かな組み合わせが問われているのだ。

「私は、絶対パンとバターやき」

「あほ、ご飯とみそ汁が美味いにきまっちゅう」

だから、そう言う話ではなく、パンであれ、バターであれ、ご飯であれ、みそ汁であれ、そのクオリティが問題なのだ。場合によっては、質より量、つまり安いもの、便利なもの、と言う選択肢も当然ある。単純な話に置き換えて、「どちらが良い」と、不毛の議論をしている場合ではないし、夫婦喧嘩は犬も食わない。自家用の明太子なら、傷物の格安品で十分でしょう、とか。えっ何?いえ、なんでもありません。

農業の話にもどります。地方の生産力、都市の消費力をきめ細かく結び付け、有機農業、慣行農業、小、中、大規模な農業。個人農家、法人農家、大規模企業型農業。が、それぞれの特徴に基づいた有機的な(血の通った温かみのある)ネットワークを、社会全体で横断的に確保し、様々な形態が相互補完的に機能していく状態をどう作るのか。ことは農業だけではなく、一次産業だけの問題でもなく、世界とも連動した日本社会の方向性を踏まえた上での話だから、とても難しい。とても難しい問題ではあるけれど、当然、やる必要がある。誰がやるのか?もちろん年寄りも頑張るけれど、これからその中心になるのは若い人たちだ。

と言うことは、人材育成、担い手確保、世代交代。が最大の課題となる。

これをどうするか。

再度農業の話。一次産業とは、文字通り太陽のエネルギーを一次的に製品化する産業。例えば、光のエネルギーが光合成を経て、ダイレクトに作物となる。人間が手を加えない食物連鎖の中では漁業資源も生まれる。二次、三次産業になるにつれて、そのエネルギーの流れは複雑になり、総量は大きくなり、ダイレクト感も薄れてくる。だから不要と言うのではなく、そのコンテンツ(中身)である、エネルギーの流れの効率と循環、そして再生。その豊かな形態がもたらす社会に対する貢献の、中身が問題になると言っている。もちろん生活者に対する最大のサービス業である政治も行政もしかりだ。これから出てくる若い力をいかに活かすか。それが医療や教育、福祉の充実と並んで、政治と行政と大人たちが担う、次世代への最大のサービスである。

「もうお腹がすいたき、早く、原稿仕上げや」「はいはい」
「もうお腹がすいたき、早く、原稿仕上げや」「はいはい」

「今夜は、何時から、ご飯にする?」

もちろん当事者である若い人たちも汗をかく。そのためには自分の経営の成功を目的にしてはいけない。それはあくまでも通り道なのだ。目的は社会貢献と自己実現。それを念頭に置かなければ、経営の成功はありえない。なぜなら、意識が内側に向いて、小さく固まってしまえば、学び、働くモチベーションが持続しないからだ。だから、これは、夢のような理想論ではなく、極めて現実的な経営論なのだ。

「ちょっと、もうそれはえいき、早くご飯食にしようや、お腹すいたちや」

原発?それはダメだ、議論の余地はない。そもそも、この太陽系の中では、太陽のエネルギー以外のものはー循環、再生しないものはー使ってはいけないことになっているのだ。

「だから、その話はもうえいき、お運びぐらいは手伝ってちや」

自分の経営をどうするか、ではなく、日本の農業をどうするか。この社会をどうするのか。
その客観的な思考が、自分の経営の成功につながるのだ。



★★★ ワンポイントアドバイス ★★★

真冬の葉物栽培、保温のためのビニールトンネル栽培の注意点。

「暖かい日の高温と、過湿対策」 寒い日でも晴れればトンネル内は30度、暖かい日は40度を超えることもあります。暖かい日が続くと、軟弱徒長し、高温で表皮や組織が障害を受けることもあれば、朝晩での低温、凍害で、さらにダメージを受けます。また、トンネルのかけっぱなしは、過湿でカビが発生し、それが原因で様々な生理障害を起こすこともあれば、病気に感染することもあります。これらの原因となる高温や過失を防ぐには、適度にトンネルの開閉を行いましょう。
目安は日中最高温度を30度ぐらいまでとし、トンネル内が結露して、曇っている場合は、湿気が抜けて、ビニールが透明になるように、換気します。



(2016年2月29日)

やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

トップページ | EMとは? | 特集・レポート | 連載 | 投稿ひろば | 用語集 | FAQ | バックナンバー | EM情報室 | リンク集 | サイトマップ

Copyright (C) Eco Pure All Rights Reserved.