「自然をアートすると、農業になる」。 なんて、勇ましくぶち上げては見たものの後が続かない。 何も出てこないから気持ちが弱る。 気持ちが弱ると、負の連鎖でますます心が硬直する。 そうなると、よけい何も浮かばない。 そんなときは、いつだってそうだけど、考えることをやめて、とりあえず書いてみる。 書いていると、その文字と行間から、次の文字が浮かんできて、並べて、換えて、消して、また書いて、ああでもない、こうでもないと、流れに身を任せ、とにかく書いていていると、そのうち必ずチャンスは巡ってくる。 「よし、このイメージだ!」と閃く瞬間があるのだ。 そこをすかさずとらえて内なる宇宙に入っていくと、インスピレーションが次の文字を生み出し、それがさらに、拡大、縮小、膨張、収縮、緊張、弛緩の連続となり、その流れの中でイメージが文字化し、やがて文章となり、しまいには、何とかなるのだ。 立ち止まって頭で考えるのは、何もしないと同じこと。 とにかく書く。
農業におけるマネージメント(技術と実践)も同じこと。 作付け計画、施肥設計とそのやり方、各種肥培管理、耕種的防除、いずれも基本的な形はあるのだけれど、言葉に置き換えた情報を頭だけでいじくりまわしてみても、その程度の技術しか生まれてこない。 とにかく末梢神経をむき出しにして畑に出て、体を動かして中枢神経を刺激し続ける。 そこで、やっとマニュアル以上の、感性を活かした匠の技が生まれてくるのだ。
猫の目のように変わる天気や、それと共に変化する畑の状況。 土の硬さ、乾き具合、湿り具合やその程度、作物の生育状況、などなど、現場は常に微妙にかつ大胆に変化していて、似たような状況はあっても、決して同じ状態になることはない。 その違いに一々適切に対応するためには、机の上で文字情報をいじくり回しても良い知恵は浮かばないから、とにかく畑に出て、農作業に没頭する。 そして体を動かし、感性を研ぎ澄ませ、神出鬼没の「あっ、そうか!」という閃きを瞬間的に切り取り、その入り口からイメージを膨らませ、感覚的な情報と文字を組み合わせ、さらに体験値とすり合わせ、一定の結論を導き、意思決定をし、それらを連続的に実行する。 決して立ち止まらず、走りながら考える。
ほらね、調子が出てきましたよ。
繊細に、時には大胆に、緩急自在、縦横無尽にイメージを走らせ、膨らませ、また修正しながら、具体的な農作業として対応していく。 作付け計画から実際の農作業が始まったら、その過程の中で、何度も微調整を繰り返す。場合によっては一からやり直すこともある。 土づくり、耕うんの仕方、畝の立て方、播種機の調整と操作、苗の植え方、秋冬野菜なら防虫ネットや保温ネットのかけ方、太陽熱消毒のやり方、その後の種の播き方、苗の植え方、間引きや除草の程度とそのやり方。 果菜類なら、整枝、剪定、誘引。 その上で、一年を通して畑全体をクリエイトし、土をクリエイトし、作物をクリエイトする。 それが年をまたいで、延々とつながっていく流れは、まさに命の循環であり、その畑からの創造の世界は、山の彼方の青い空や白い雲を飛び越えて、宇宙にもつながるようなイメージであり、リアリズムを併せ持った、理想主義の極致でもある。
畑を取り囲む環境全体の中で、季節ごとの色合いと光と影、そのグラデーションが、時にはモノクロになったり、また天然色に戻ったり、時には時間が止まったり、また動き始めたり、風の音、川の流れる音、鳥や虫の声などのサウンドトラックとも相まって、自然を舞台にした有機農業というエンターテイメントの中で、すべてがつながり、揺らぎ、共振する。 そのうねるようなイメージの中で、閉じた心が開き、解放され、共感すると、内なる宇宙と本物の宇宙が、まるで相似形になったような、高揚感、躍動感を覚える。
静穏、静謐から躍動、高揚、そのうねりとダイナミズム。
そんなステージで、閃きから閃きを紡いででき上がった農産物が、美味しいという快感の入り口で、消費者の心を捉え、想像力を掻き立て、膨らませ、豊かな自然と命のつながりという出口に向かって導いてくれる。だから、農業はアートなのです。
★★★ 畑丸ごと堆肥化のワンポイントアドバイス ★★★ 植えるまでが勝負の秋冬野菜にも、もう一勝負がある。収穫適期に収穫してしまうことが大切なのだ。例えば、彼岸まきの葉ものなら、収穫まで30日〜40日ぐらい。収穫適期が1週間ぐらいしかない。それを過ぎたら大きくなりすぎて、味も食感も大味になる。10月以降に播く場合も、10日から2週間おきに播き時をずらして、冬の間、最も美味しい収穫時期が連続するような作り方をする。プロ農家なら、葉物が老化して、商品価値が落ちるまでに出荷を済ませるし、需要に応じた作付けローテーションを組む。葉物の出荷適期は生育が90%〜100%ぐらいのころ。その頃ならきれいで柔らかく、味もよい。取り遅れて、老化、劣化すると商品にならない。
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