連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表
第17回 農業はアートだ。

緑肥を粉砕後、すき込んで、畑まるごと堆肥化の準備
緑肥を粉砕後、すき込んで、畑まるごと堆肥化の準備

土づくりが終わった畑を本耕うん
土づくりが終わった畑を本耕うん

ウネ立て後、ダイコンやコマツナなどを播く
ウネ立て後、ダイコンやコマツナなどを播く

「自然をアートすると、農業になる」。
なんて、勇ましくぶち上げては見たものの後が続かない。
何も出てこないから気持ちが弱る。
気持ちが弱ると、負の連鎖でますます心が硬直する。
そうなると、よけい何も浮かばない。
そんなときは、いつだってそうだけど、考えることをやめて、とりあえず書いてみる。
書いていると、その文字と行間から、次の文字が浮かんできて、並べて、換えて、消して、また書いて、ああでもない、こうでもないと、流れに身を任せ、とにかく書いていていると、そのうち必ずチャンスは巡ってくる。
「よし、このイメージだ!」と閃く瞬間があるのだ。
そこをすかさずとらえて内なる宇宙に入っていくと、インスピレーションが次の文字を生み出し、それがさらに、拡大、縮小、膨張、収縮、緊張、弛緩の連続となり、その流れの中でイメージが文字化し、やがて文章となり、しまいには、何とかなるのだ。
立ち止まって頭で考えるのは、何もしないと同じこと。
とにかく書く。

農業におけるマネージメント(技術と実践)も同じこと。
作付け計画、施肥設計とそのやり方、各種肥培管理、耕種的防除、いずれも基本的な形はあるのだけれど、言葉に置き換えた情報を頭だけでいじくりまわしてみても、その程度の技術しか生まれてこない。
とにかく末梢神経をむき出しにして畑に出て、体を動かして中枢神経を刺激し続ける。
そこで、やっとマニュアル以上の、感性を活かした匠の技が生まれてくるのだ。

猫の目のように変わる天気や、それと共に変化する畑の状況。
土の硬さ、乾き具合、湿り具合やその程度、作物の生育状況、などなど、現場は常に微妙にかつ大胆に変化していて、似たような状況はあっても、決して同じ状態になることはない。
その違いに一々適切に対応するためには、机の上で文字情報をいじくり回しても良い知恵は浮かばないから、とにかく畑に出て、農作業に没頭する。
そして体を動かし、感性を研ぎ澄ませ、神出鬼没の「あっ、そうか!」という閃きを瞬間的に切り取り、その入り口からイメージを膨らませ、感覚的な情報と文字を組み合わせ、さらに体験値とすり合わせ、一定の結論を導き、意思決定をし、それらを連続的に実行する。
決して立ち止まらず、走りながら考える。

ほらね、調子が出てきましたよ。

繊細に、時には大胆に、緩急自在、縦横無尽にイメージを走らせ、膨らませ、また修正しながら、具体的な農作業として対応していく。
作付け計画から実際の農作業が始まったら、その過程の中で、何度も微調整を繰り返す。
場合によっては一からやり直すこともある。
土づくり、耕うんの仕方、畝の立て方、播種機の調整と操作、苗の植え方、秋冬野菜なら防虫ネットや保温ネットのかけ方、太陽熱消毒のやり方、その後の種の播き方、苗の植え方、間引きや除草の程度とそのやり方。
果菜類なら、整枝、剪定、誘引。
その上で、一年を通して畑全体をクリエイトし、土をクリエイトし、作物をクリエイトする。
それが年をまたいで、延々とつながっていく流れは、まさに命の循環であり、その畑からの創造の世界は、山の彼方の青い空や白い雲を飛び越えて、宇宙にもつながるようなイメージであり、リアリズムを併せ持った、理想主義の極致でもある。

美味しい幸せは入り口。豊かな自然とその循環が出口
美味しい幸せは入り口。豊かな自然とその循環が出口

畑を取り囲む環境全体の中で、季節ごとの色合いと光と影、そのグラデーションが、時にはモノクロになったり、また天然色に戻ったり、時には時間が止まったり、また動き始めたり、風の音、川の流れる音、鳥や虫の声などのサウンドトラックとも相まって、自然を舞台にした有機農業というエンターテイメントの中で、すべてがつながり、揺らぎ、共振する。
そのうねるようなイメージの中で、閉じた心が開き、解放され、共感すると、内なる宇宙と本物の宇宙が、まるで相似形になったような、高揚感、躍動感を覚える。

静穏、静謐から躍動、高揚、そのうねりとダイナミズム。

そんなステージで、閃きから閃きを紡いででき上がった農産物が、美味しいという快感の入り口で、消費者の心を捉え、想像力を掻き立て、膨らませ、豊かな自然と命のつながりという出口に向かって導いてくれる。
だから、農業はアートなのです。



★★★ 畑丸ごと堆肥化のワンポイントアドバイス ★★★

植えるまでが勝負の秋冬野菜にも、もう一勝負がある。
収穫適期に収穫してしまうことが大切なのだ。
例えば、彼岸まきの葉ものなら、収穫まで30日〜40日ぐらい。
収穫適期が1週間ぐらいしかない。
それを過ぎたら大きくなりすぎて、味も食感も大味になる。
10月以降に播く場合も、10日から2週間おきに播き時をずらして、冬の間、最も美味しい収穫時期が連続するような作り方をする。
プロ農家なら、葉物が老化して、商品価値が落ちるまでに出荷を済ませるし、需要に応じた作付けローテーションを組む。
葉物の出荷適期は生育が90%〜100%ぐらいのころ。
その頃ならきれいで柔らかく、味もよい。
取り遅れて、老化、劣化すると商品にならない。



(2015年10月13日)

やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

トップページ | EMとは? | 特集・レポート | 連載 | 投稿ひろば | 用語集 | FAQ | バックナンバー | EM情報室 | リンク集 | サイトマップ

Copyright (C) Eco Pure All Rights Reserved.