自然の仕組みを畑に再現することが、有機農業技術の基本、と言うことはこのコラムに再三書いてきた。では、具体的にはどうすれば良いのか。今回は家庭菜園愛好者や農業者に、分かりやすく説明してみよう。
まず、自然の仕組みとはどういうことか。光合成を起点に考えてみると分かりやすい。地球上のいたるところの、あらゆる植物の葉っぱの中の葉緑体という部分で、光のエネルギーが二酸化炭素と水を原料として、炭水化物に変化する。これを光合成と言う。その炭水化物に地中から吸収されたチッソが同化してタンパク質になる。これがあらゆる生命の元となる。つまり光のエネルギーが物質化(生命化)されたわけですね。
この生命がさらに多様な生命を生み出し、その多様な生命が、生産者(植物)、分解者(微生物)、そして消費者(動物、人間)、さらに消費者の廃棄物。これらが相互補完的に機能しながら食物連鎖と言う形を伴って循環している。その中の植物が再生産されるその仕組みを、ただ自然任せにするのではなく、人間が畑の中にコンパクトに再現し、農産物として収穫し、経済性も確保する。これが農業ですね。
その食物連鎖の底辺が豊かであればあるほど、その生命の循環も豊かになり、生産量も大きくなるし、持続性も得られる。そして、そんな農地が広がれば広がるほど、海山川をきれいにすればするほど、我々の生活グラウンドでもある、里海、里山、里川、すなわち人間の生活圏と自然界のバランスが取れ、生態系全体が豊かになる。
人間が手を出さなければ、自然界は常に豊かに循環しているのだけれど、急激な都市化や工業化、森林破壊、あるいは戦争などで、世界の自然は加速度的に破壊が進んでいる。だからこそ、いかに自然の生態系を保全し、人間社会とどうバランスを取るかが問われているのだが、これがなかなか難しい。
しかし、その姿を畑の中に再現することはできる。秋から冬に枯れ落ちた植物が、春から夏にかけて土に接した部分から微生物に分解され、ふかふかした土になり、あるいは養分として土に溶けだし、それが植物に吸収され、新たな命を生む、その繰り返しを短いスパンに再現する一つの方法が「畑丸ごと堆肥化」。材料は刈り草や落ち葉、緑肥など、分解しやすい有機物なら何でも良い。これを畑に投入し、分解再合成を促進するためにEM生ごみ堆肥や、EM活性液を散布し、生命力あふれる土壌を短期間で作る。
プロ農家はさらに収量を増やすため、その他の必要なミネラルなどの養分も投入する。当然作物に吸収された養分は減少するので、また有機物を投入し、土づくりと養分確保と作物栽培を交互に繰り返して栽培、収穫の連続性を確保する。作物として取り出した土の養分(エネルギー)は、当然減少するが、それを作物で土に還せば農業は成り立たない。だから、作物ではない雑草や、緑肥などのローコストなエネルギーを投入し、ハイコストな作物に変換していく。これが経済性と持続性のある農業の基本的な形。基本と言うからには、当然その先がある。それが、多種多様な肥培管理と、耕種的防除。
今回は今収穫中のナスやピーマンの肥培管理について要点を書いてみよう。当然、良い苗、良い土が前提の話。地温、気温の低い早い時期(4、5月植え)ならマルチ栽培だと初期生育が良い。果菜類は初期生育を旺盛に持っていくことが重要だ。これがだらだらしていると虫に食われやすい。株の小さいうちから実を成らせると生育が弱るので、適度に摘果もする。とにかく早いうちに根を元気に張らせ、株を大きくすること。
梅雨の大雨や、その後の干ばつ等の急激な地中の水分変化や温度変化でも根が弱る。根が弱ると病気も出やすくなる。梅雨明け前には刈り草などの有機物マルチに切り替えて、地温を下げる手立てもする。畑全体の排水性にも留意する。根っこは、水や温度など急激な変化が大嫌いなのだ。その有機物マルチは、次作の土づくりの元となる。
草が生えてきたら、作物が負けない程度に適度に刈る。決して土を裸にしない。そして、周りには緑肥や雑草があると天敵が増えて虫害が減る。さらに、剪定も重要だ。込み合ってきた枝葉を適度に切り落として、通風、採光をよくする。そして何より、剪定は発根を促し根の生育促進にもなる。だから、ナス科の放任栽培はダメ。プロの農家なら切り戻し剪定を必ずやる。地温が上がってからの6月植えなら、緑肥や草生栽培が良いだろう。
★★★ 畑丸ごと堆肥化のワンポイントアドバイス ★★★ どんな作物であれ、根っこは土の中の急激な物理的、化学的な変化を嫌うから、そこを何とかして根にやさしい環境を作ってやること。良い環境を作って、必要なことはきちんとやって、それ以外のことには手を出さない。つまり子育て、もしくは夫の操縦―あるいは妻のあしらい―と同じこと、つまり愛が必要なわけですね。
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