連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表
ワインとクサヤ

山下家のおいしい食卓
発酵の極み 白ワインとクサヤ

山下家のおいしい食卓
自家製ウナギのかば焼きと、カツオのカルパッチョ

日本が世界に誇る発酵食品と言えば、味噌、醤油などの調味料に始まって、酒、どぶろく、焼酎などの飲み物。ナスやキュウリの糠漬け、たくあん、奈良漬などの漬物。イカやカツオの腹ワタで作る各種塩辛。最近、活きたワタリガニを、濃い塩水につけて作る塩辛も食べたけど、これは唸(うな)るような美味さだった。

臭い美味さの極めつけは、鮒寿司、へしこ、クサヤ。 そう言えば香りが命の鰹節も発酵食品だった。今はやりの発酵黒ニンニクもあって、なんとまあバラエティの豊かなこと。これらに、日本の温暖な気候風土が生み出した、海山川の魚介類と畜産物や野生鳥獣。そして匠の技を持った農家がウデにヨリをかけて作る野菜とお米と果物。それらを素材とした素朴な家庭の味から、腕利きの職人やシェフが作ったグルメまでと、そのメニューとレシピはキリが無いぐらいある。

まずは家庭料理。

夏の朝飯なら、味噌汁とご飯、ナスとキュウリの糠漬けに、納豆と卵も添えてみましょう、ヒジキの煮物もいいな。
あ、海苔の佃煮もあったぞ。
これで爽快な朝を迎える。

昼飯なら焼酎漬けの梅、アユやアメゴなど川魚の焼き干し。
ナスとミョウガの煮物、若しくはカボチャと莢インゲンの煮物。
たまには鰹節でしっかり出汁を取った冷たい素麺もいいな。
これは暑さにバテた体に優しく気合を入れる。

晩飯なら、冷奴、冷たいトマトとタマネギのスライス、竹キュウ、刺身、焼き魚、天ぷら。
調味料には自然塩と味噌、醤油、お酢もお忘れなく。
酒好きなら、日本酒やワインに、クサヤか塩辛も合わせて、酔って候(そうろう)。


夏のサトイモ、グングン成長
夏のサトイモ、グングン成長

口中と鼻腔にある末梢神経が、この並べたてたらキリがないほどの美味しさに出遭えば、その刺激が電気信号となり、一瞬のうちに中枢神経に到達し、「美味しい」の最上級「オイチイね!」という、世に比類なき呪文が内側から湧き上がってくる。
さすれば日々の煩悩で閉じていた心の闇に光が差し、脳内モルヒネが分泌され、ストレスも忘れる。
心のコリがもみほぐされ「自由」な感覚が蘇り「解放感」が溢れだす。



さあ、そこからだ、そこから想像力を発揮するのだ。
鼻の奥が発光して、泣きたくなるほど美味しい食卓を起点に、そこから遡って、世の中を俯瞰(ふかん)してみましょう。
その美味しい幸せの背後には、今いったい何が起こっているのか、と。

夏の棚田に似合うゴーヤ
夏の棚田に似合うゴーヤ












土づくり用の緑肥
土づくり用の緑肥

川魚の背景には、美しい渓や川、その後ろに織りなす山々、青い空と入道雲。
降り注ぐ夏雨(なつさめ)を集めて流れる川を下れば、その流域には、棚田から下流部に向けて広がりゆく田園風景。
そこにはお米や夏野菜の数々、があるはずだった。
しかし、その豊かな恵みをもたらす自然の再生産力は年々弱くなっている。




自然の仕組みを畑に再現する有機農業が豊かな自然と共存し、一次産業の核として、多様な生命の維持、再生装置として機能したら、美味しい幸せの再生産力に持続性をもたらしたら、山と川の生命力が元気になったら、そのことに国民の大半が合意したら、その民意が政治と行政に反映されたら、いったいどんな素晴らしい社会が出現するのだろう。
そして今となっては瀕死の海を、豊穣の海に蘇らせよう。
すべては循環しているのだから。
大量生産、大規模流通では決してできない、小味の利いた美味しい幸せを守る、新しい仕組みを作りませんか。

鼻の奥が発光するほど美味しい幸せと、それを持続的に生み出す豊かな環境、そして多種多様な生命と人間が共存できる、偉大なる智慧に満ちた社会を子供たちに残したい。
豊かな日本の食文化、精神文化、それを担保する美しい自然を、健全な社会の基盤とし、さらには人類共通の偉大なる智慧とし、はたまた究極の平和運動として、世界に発信したい。

どうやらクサヤと白ワインで、頭の中が発酵したようだ。



★★★ 畑丸ごと堆肥化のワンポイントアドバイス ★★★

枯草や落ち葉とEMボカシを土に混ぜたら枯草が見え隠れするぐらい浅く耕す。
 ↓
微生物のエネルギー源はEMボカシの窒素分と酸素だから、常に空気が混ざるように、雨が降ったあと、適度に乾いたらすぐに浅く耕し、これを繰り返す。
 ↓
夏場なら、一月で団粒構造の発達したフカフカの土ができる。
 ↓
出来上がりの目安は、枯草や落ち葉が目視できない状態、つまり土になっていること。

団粒構造って何?
それは、次回のお楽しみ。




(2015年7月31日)


やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

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