連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表
土と、お腹。

ナスは緑肥による草生栽培で
ナスは緑肥による草生栽培で

EM活性液散布でほとんど病害虫なしのトマト
EM活性液散布でほとんど病害虫なしのトマト

間もなく収穫開始のキュウリ
間もなく収穫開始のキュウリ

東京で有機農業参入促進協議会会議
東京で有機農業参入促進協議会会議

土と、お腹。
良い作物は、良い土からできる。
健康な体も元気なお腹からできる。

良い土とは、単なる鉱物資材としての土に、水、空気、有機物、微生物、原生動物、小動物が複合的に、あるいは相互補完的に機能し、分解、再合成、循環を繰り返し、地上部の様々な生き物とも絶妙に連動し、土そのものが一つの生命体として精密かつ高度な機能を果たし、多種多様な生命とそのエネルギーに満ち溢れた状態のことをさす。それを人間の生産活動(農業)と共存できるような状況を作り出すことを「土づくり」と言う。

それら一つひとつの素材で、人間が作り出すものは何もなく、人間は単なるコーディネーターに過ぎない。過ぎないと言えば、いかにも人間の存在を卑下したように聞こえるが、「自然の仕組みと人間の永遠なる共存」を作り上げていくわけだから、これほど大切で楽しい仕事は無い。

自然の仕組みを肌で感覚的に理解し、科学的にも検証し、その持続的な生産性を担保しながら、延々と次の世代に繋いでいくように管理、監督する。しかも、その状況と人間社会の共存、すなわち生産性、経済性との連動も必要なわけだから、難しい仕事でもある。その際、科学的根拠、再現性、などと素人が手におえない分野を意識し、専門家を奉り、自らの責任を放棄したような生き方をすれば、さらに事態は難しくなる。素人は素人なりに、直感を駆使すればよいのだ。専門家が必要ないと言っているのではない。直感が先行し、専門家の検証作業が後を追いかける姿が望ましいと言っている。農業で言えば、篤農家の経験と智慧を専門家が検証し、その情報を現場にフィードバックしていく、その繰り返しが技術力と生産力を高めていく。直感がすべて正しいとも限らない。

しかし、無欲な生き方から生まれた直感は、正しい!



別の言い方をすれば、自然の仕組みを優先し、経済性が後を追いかける。その方が経済性に持続性が出てくる。100年200年という長い目で見た場合、人間にとって、どちらが得か?と言う感覚ですね。次の世代に対する役割と言う意識も大切だ。「質量保存の法則」にある通り、般若心経にも「不増不減」とあるように、地球上で生まれて循環していくエネルギーの総量は常に一定なのに、100年分の生産量を一世代が使い切るヤラズブッタグリのような感覚では、経済性もへったくれもない。

他者の利益優先、自分の利益後追い。その方が、ツキに恵まれ、好循環が生まれ、結局儲かる。ぼくらのDNAに刻み込まれた伝統的な精神文化を見直そう。そして、お腹の中にも太陽のエネルギーを充満させよう。簡単に言えば有機物(繊維やタンパク質、良質の脂質など)と多様な微生物が共存するお腹。それから生まれた、元気な体と美しい心。

美味しさを分かち合う食文化。自然優先、文化優先、経済性後追いが、持続可能で健全な社会を作る。

「豊かな土づくりと健康なお腹、そして美味しい幸せが世界を救う」という優れた理論は、素人の無欲な直感から生まれる。

【土づくりのワンポイントアドバイス】
雑草や緑肥などをこれでもかと土に混ぜて、EMボカシを適度に入れ、EM活性液、米のとぎ汁発酵液などをじゃんじゃん使って、有用な微生物を増やす。自然界で何年もかけて堆積した落ち葉などが、微生物の力を借りて土になっていく過程を想像してみましょう。そしてその時間を短縮して、畑に再現しましょう。その場合、発酵、熟成がカギとなります。


(2015年7月3日)


やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

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