連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表


愛弟子の千葉さんと
有機農業でも、小面積ながらきちんと生計を立てている農家もあれば、(株)金沢大地のように、300haで米、麦、大豆を栽培し、その加工品でも海外輸出を拡大し、耕作放棄地解消や、6次産業化、雇用の創出など地域社会に大きく貢献している事例もある。米の価格はますます低下し、TPPが来ようが来るまいが、もはや日本の農業はその存続自体が極めて難しい状況にある。この際、有機農業か、慣行栽培か、大きい農業か小さい農業か、という大雑把な括りと、その議論では解決できないほど、農業は厳しい状況にあるのだ。

一度その枠を離れて、別の括りで農業の再生と、有機農業の存在価値を提案できるようなロジックを考えておくように、と以前、千葉康伸に話しておいたら、次のような知恵を絞ってきた。これは面白いと、師匠も一緒になってイメージをさらに膨らませてみた。





収晴れ掘れ隊の武器は美味しさ野菜!
2020オリンピックの選手村に、有機食材を提案してはどうかと言うのだ。もちろん、有機野菜だけではない。日本には世界に誇るハイクオリティな農産物は山ほどある。開催時期は夏だからモノに一定の限りは出てくるが、果物や果菜類、本当に美味しい米、農産物だけではなく、新鮮な魚介類もあれば、塩や醤油などの厳選調味料も盛りだくさん、酒もある。それらを素材とした日本料理だけではなく、フレンチでもイタリアンでも何でもよい、オリンピックなのだから、アジアもアフリカも、中国料理でも韓国料理でも、この際ファーストフード以外なら、もう何でも来い。素材が違えば、それを元にできあがった料理が、これほど味が違うのかと言うことを、思いっきり知らしめるのだ。選手村の選手だけではないよ。世界各国から訪れる観光客にも、そして、肝心要の日本人にも、本物の本当の美味しさを知ってもらう、その最大のチャンスにしたい。

「なぜ、日本の食材がこれほど美味しいのか?」となれば、次のステージはその背景に迫る。日本独特の四季に恵まれた、温暖な気候と風土と美しい自然に迫る、その背景から生まれた、伝統的な精神文化、食文化にも迫る。一気に迫りまくって、世界の人々の胃袋と中枢神経をわしづかみにするのだ。さらなる貿易の自由化が進む中、これは国外輸出に向けた日本食材のマッチングフェアにもなる、などと商社が考えるのも、それはそれで良いのだけれど、ぼくらはそんな小さな話をしているのではない。


美しい農村こそ日本の宝
「自然の豊かな、風光明媚な日本は、津々浦々までその全体が世界遺産なのだ」これを再生し、守り抜こうと言っている。それで美味しい幸せが得られるのならと、当然賛意に満ちた国際世論が巻き起こる。40数年前、日本を初めて訪れたC・Wニコルさんが「世界に、こんな美しい国が他にあるだろうか」と驚嘆したような国が、今では「あの美しかった日本は、いったいどこに行っちゃったんでしょう」嘆く国になってしまった。しかし、万国共通の美味しい幸せを、2020東京オリンピックを機に、再確認することができれば、これをみんなで取り戻そうという機運が高まり、それを手本に、世界の国々が、我も我もと自国の気候風土と心の豊かさを大切にした国づくりを目指そう、日本を見習おう、人生金じゃあない、戦争なんてほんとにアホらしい、原発なんかもってのほか、となれば、脱原発、核廃絶に道が開けるし、憲法も守られる。これは究極の平和運動ではないか。

まずは、山と川を再生し、海を守る。その自然力を背景に持続可能な、農林水産業を再生する。日本が世界にその手本を示す。その旗頭が、小さな有機農業なのだよ。

千葉康伸、君はこの発案者だからね、この平和運動からもう抜けられんよ。来年4月にはかねてより温めてきた「日本晴れ掘れ隊」を発足する。この場を借りて、その副隊長に君を任命します。覚悟はイイですね。

あ、そうそう、この「日本晴れ掘れ隊」と言うのは、自分の生活は自分で何とかする。それより、無私無欲で、次の世代の幸せと世界平和に向けて、自分の仕事を通してその任務を果たしたい人。バカみたいにお人好しで人から騙されそうな人。他を批判しない人。すべては自己責任と言う自覚と覚悟がある人。それでも、その任務が楽しくてしょうがない人。したがって、その任務に失敗しても当局は一切関知しない。それでも、なりたい人ならだれでもなれます。

そんな人、いるかな?


※ 千葉康伸
30才でサラリーマン辞めて、有機のがっこう 土佐自然塾へ。卒業後、山下農園で研修。32才で神奈川県愛川町の畑(約1.4ha)を借りて就農。現在2.1haの畑を耕作中。三人家族(本人37歳・妻37歳・息子4歳)と研修生1名で、毎日楽しく仕事をしている。
www.ecopure.info/special/yuuki/topics_a/topic_a19.html

(2015年1月8日)

やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

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