連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表


太陽エネルギーを浴びる塾生



収穫を待つニンジン



調和している里山の風景
美しい秋野菜の収穫が始まり、冬野菜も順調に育っている。いつもと同じような美しい景色には違い無いけれど、毎年微妙に何かが違う。過去から未来へと連続している時間の中に、似たような景色はあっても、同じ瞬間は一度もない。背景にある山や川はもちろん、畑の中も、水と空気と光と影が、膨張、収縮、拡大、凝縮、凍結、融解、そして蒸散を繰り返しながら、緩急はあるけれど休みなく変化している。その大地というステージで、多種多様な生命が、相互に補い合い干渉しながら、それぞれに誕生、成長、老化、死、そしてまた再生と、複合的に循環しているのだから、同じ瞬間が無いというのは、当たり前と言えば当たり前の話。しかし、同じ瞬間が無くても、全体を見れば調和と秩序はあるはずだ。その調和に満ちた豊かな自然の仕組みと共感する喜びが、ぼくらが生きていくうえでの心のエネルギー源となっている。

太陽のエネルギーから生まれた多種多様な生命には、それぞれ固有の波動がある。そして、学術的なことは良く分からないけれど、例えば、同じ音域の音叉が共振するように、似たような周波数の振動波が共振しているというのは素人でも分かる。周波数が違ってもハーモニーという形で共鳴することもある。音だけではなく、光や匂い、香りもそうだ。この多様な生命が織りなすシンフォニーのような振動波とその流れは、時には立ち止まって見えたり、時には激しく、また緩やかに感じることもあるけれど、そのダイナミズムと共振、共鳴することで、僕らは太陽のエネルギーを間接的に受け取ることができる。そのためには、なんといっても受容体の感度が問われる。「オレがワタシが」と自我に凝り固まっていては、受容体が硬直して共振できない。だから小さなこだわりを捨てて、輝ける未来のために、軽やかに、爽やかに、且つ大らかに生きていきたい。

食べ物として取り入れる太陽のエネルギーももちろんある。そのエネルギーは光合成に始まり、食物連鎖の中で様々な動植物、野菜や穀物、魚や肉、はたまた発酵食品として、形態的な変化を遂げながら、ぼくらの命の源となっている。西洋医学的に言えば、糖やたんぱく質、脂質、ビタミンなど各種栄養素は消化器で吸収され、循環器で体内を巡り、神経系統のバランスを維持して、健康な心と体を作り上げている。一方で東洋医学的にいう気の世界というのもある。食べ物にも固有の波動があるのだ。食物連鎖、まさに鎖のようなつながりの中で、すべての生命にとって体に良いー高波動―食べ物は、健全で豊かな生態系があってこそ生まれてくる。生物的、化学的な栄養源と物理的な波動が、ハイブリットにコラボされて、初めて人間の心と体の健康と、食糧生産の持続性と安定性が担保される。

農林水産業のあり方を、単なる人間にとっての栄養源の獲得、食料の確保という狭小な視野ではなく、自然界全体の調和と秩序、という大きな視野を持って見直してみたい。その意識を畑に具現化したほんの小さな一例が、ぼくの有機農業。この思いをどうやって、消費者と共有しその意識を拡大するか。そのキーワードが「美味しさ」なのだ。本当に美味しい野菜には、見た目にも格別な質感がある。マーケティングといえば、消費者が真に求める商品やサービスを作りだすことにあるが、実際には売り手側の巧みな広告、宣伝によって、売りたいものを消費者に買いたい気持ちにさせる、作られたマーケットが圧倒的に多い。賢い消費行動と豊かな自然の秩序や調和をつなげるようなマーケティングが増えれば、世の中もっと楽しくなるはず

美味しい幸せと、自然界の調和と秩序の両立に向けて、ぼくらはこれまで通り、等身大でコツコツやっていきましょう。仲間は確実に増えているからね、それは間違いありません。

地球上の全ての生命の元は、太陽のエネルギーなんだぞ、と。

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(2014年11月30日)

やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

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