連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表

みんなが幸せで、平和な国になればいいなと、いつも夢見ている。同時に、そのためには自分には何ができるかな?とも考えている。自分の仕事を通して、どう生きれば良いのか?実現までの道のりは?多くの人たちの共感を得るために、批判と排除の論理を無くして、それをどう表現すればよいのか。

星寛治さんにお会いして、「なるほど」と思った。

存在そのものが説得力なのだ。


改めて、すごい人。星寛治さん78歳
星さんの講演録を読んでつくづくそう思った。批判は無いけれど提案はある。排除の論理は無いけれど共生はある。多様な価値観を共有しようとする考え方、生き方、自然の仕組みと深く共感し、共生する感性そのものが説得力になっている。時には「脱原発」「脱成長」という言葉も使っているようだが、そこには悲しみはあっても怒りは無く、慈愛に満ちた優しい言葉に置き換えて、未来への希望を灯し続けている。

「農の営みは、心を深く耕してくれる」と。

では、かずほ流「なぜ有機農業なのか」を述べてみよう。

有機物が多様な生命と共に循環していく自然の仕組みを、凝縮、短縮し、その再生産力と経済性を両立させる技術が有機農業技術である。これは全ての農業の基本でもあるし、健全な地域社会の指標ともなる。

戦後、日本全国に急速に拡大した科学的近代農業は、戦後の食糧難を乗り越え、農家を重労働から解放し、食料の安定供給に寄与した。種苗メーカーや農機具メーカーの研究開発は、さらなる安定生産や、農作業の効率化をもたらした。だからどちらが良いと言う単純な話ではなく、双方の良いところを取り入れ、農家の経済性と消費者の嗜好性を満足させ、環境にも優しく、健康に良い、ハイクオリティと安定生産を両立させる、ハイレベルな次世代農業を作りましょう、と言っているのだ。

そして、今や恒常的に襲ってくる異常気象も忘れてならない。豪雨、水害、猛暑、干ばつなど、急激な環境変化に強い環境(山の保全)や田畑と栽培方法が求められている中、固定種の保存や、不耕起栽培など、その分野で研究がすすんでいる自然農法も忘れてはならない。有機農業における微生物の研究も取り入れ、それぞれの分野の成果を出し合って、力を合わせて新しい技術を作ろうではないか。自分たちだけが正しいと内部凝縮して、他を批判し、お互い体力を消耗し、農業の再生を遅らせている場合ではない。


植え付け作業は、女性が早い!

可愛い孫たちに美しい自然を残すぞ
マーケットの多様な意向にも素直に耳を傾けたい。「有機栽培だから売れる」と短絡的に考えて「しかし、売れない」と嘆く農家も多いけど、普通の消費者の多くは「有機栽培だから買う」とは言っていない。「綺麗で、美味しければ買う」と消費の動機は単純明快なのだ。「高いか、安いか」だけの、大規模流通業者(企業)の都合で出来上がったロジックと広告に、いつまでも振り回されていてはいけない。

星さんの言葉をもう一度お借りしよう。「(有機農業運動は)利益追求が目的化される企業経営とは異なり、儲からなくても人々の生命をしっかり支える環境と、景観を守り、そして子孫に豊穣の大地を残すことを本命としてきた」。

全くその通りだと思う、しかし儲からなくては(食えなくては)農家の存続はあり得ないし、農家無くして農業もあり得ない。小規模農業も地域社会も、その再生はいまだ遥か道遠しである。では、どうすればよいのか。

有機農業にこだわった消費者と農家だけの小さな関係ではなく、普通の消費者に受け入れられる、開かれた有機農業が多様な農業と共存し「企業は儲からないけれど、農家は儲かる」状況が生まれて、初めて農業と地域社会の再生は叶う。単純に「有機農業さえ広がれば」では、ダメなのだ。

夢を見るのも楽じゃあない。

(2014年9月18日)

※星寛治さんのプロフィール
1935年山形県高畠町生まれ。稲作、果樹農家。農民詩人。高畠町有機農業研究会を設立し、消費者と提携を進める。高畠町教育委員長、東京農業大学客員教授などを歴任。有機農業の草分け的存在として、「置賜自給圏構想を考える会」呼びかけ人、「有機農業の明日を語る会」の発起人などを務める。詩集やエッセイ・評論など多数の著書がある。近著は、農民作家・山下惣一氏との共著「農は輝ける」創森社 (2013)。
やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

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