その農業人フェアで興味深い相談があった。 「慣行農業で就農したけれど食えないのです。有機農業はどうでしょうか?」と。
話しを聞いてみるとこの相談者の食えない理由は、手取り単価が低いことにあった。夏秋露地栽培のナスが10aでこれは農協出荷。それとは別に契約栽培の秋冬のキャベツが55a、業務需要の冬春ハウスレタスが10a。仲買業者の提案通りに取り組んでいるのだが、収益が低くてこのままでは経営が成り立たないと言う。そして、これを解消するにはさらなる規模拡大しか生き残る道は無いとも言う。
これは、新規就農者に限らず農業全体の問題でもある。既存の流通の場合、なぜ農家の手取りが少ないかというと、低い末端価格に加え、流通コスト(手数料)の占める割合が圧倒的に大きいからだ。
大方の慣行栽培は、薄利多売が前提条件となるから、収益を上げるためには、規模拡大か大型施設栽培に向かうしかない。しかし、個人農家や新規就農者にそれは難しい。個人農家を集約化したところで、「数億円の売り上げを達成」などと数字のマジックは働くけれど、実際には企業や農協の売り上げが伸びただけで、農家の個人所得には反映されない。
そしてそこには、高品質な農産物を求める巨大な市場が、そのニーズが満たされないまま、いつまでも空虚に横たわっている。
農業が企業の論理で大規模化すればするほど、この市場は放置されたままになる。そして企業家だけが儲かる仕組みでは、個人農家の経済性は成り立たない。実は、有機農業界も、集約化、大規模流通の流れに組み込まれ、「安全、安心だけでは売れない」と頭を抱えているし、個人販売の場合でも技術力不足で、低所得にあえいでいる有機農家も多い。
この状況を肉眼で直視すれば、自分で売ることができる小規模な有機農家、若しくは格別な技術を持った慣行農家には最大の利点となる。高品質の有機野菜や有機米、高糖度トマトやその他の果菜類、果物などはロッドが小さいこともあり、農協など既存の流通には乗りにくいため、運賃コストは高くつく。しかしこれらは売り手市場だから、販売価格が高いうえに、流通経費(手数料)が小さくて、実際の農家手取りは大きい。
その条件として、 高品質の農産物を安定生産する技術があること。 勤勉で質の高い労働が伴うこと、そして何より、このマーケットから人間性が評価されること。 それらを獲得するために常に積極的であること。 起こりうるすべての結果に対する自己責任と、社会を構成する一員としての自覚と責任と覚悟があること。なおかつ明るい笑顔がにじみ出ていること。
以上の話は、新農業人フェアで、就農希望者にいつも口を酸っぱくして言っている。
それに加えて「どんな職業にも、向き不向き、適不適がある、農業をなめんなよ」とも。
当然、受け入れる側にもそれなりの自覚と責任が問われるわけですね。 「技術情報が提供できるのか?」 「生産情報とマーケット情報をどうつなげるのか?」 「構造的な流通の問題をどうやって解決するのか?」と。
一事例を紹介しておこう。最近、高知県と日本野菜ソムリエ協会が「こだわり青果市」というマッチングフェアを東京や
では、なぜぼくが有機農業かというと、楽しいから。
こんな話に目を輝かせる就農希望者が、今どんどん増えている。
「いっちょう、やったろかい」と。
Copyright (C) Eco Pure All Rights Reserved.