連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表

有機農業さえ広がれば良いのか。

否である。


辛口だけど明瞭!講演する山下さん
問題はこの低迷する農林水産業を、国民的資産ともいえる産業と文化を、さてどうするのか、農業全体をどうするのか、その問題を解くカギを農林水産省の資料から整理してみよう。

具体的な数字をあげれば、過去25年間で基幹的農業従事者は346万人(1985年)から205万人に減少(2010年)。65歳以上の高齢化率は19.5%からなんと61.1%に増加している。この高齢化率はさらに増え続けている。この先どうするの?世代交代は?後継者、担い手の育成は?という問題が立ちはだかっている。

それを無視して、国はグローバル経済の中、外国との競争力を高めるためという理由で、

協議会がまとめたガイドブック 
さらなる大規模化を進めようとしている。規模の経済という枠組みで考えれば、産業としての経済性、食料の安定供給、効率化、コスト削減から外貨獲得に至るまで、大規模化は一見当然のように見えるけれど、時間軸が抜けていることが大きな欠点。50年とか100年とかの長いスパンで見た時の経済性はこれでは担保できない。なぜなら、農林水産業の持続的再生産力は豊かな自然全体との共存と循環無くしてはあり得ない。すなわち最大のコスト削減は何か?という視点が欠けている。田畑は工場では無いのだ。

そして何より、食料の安定供給と言うなら、麦や大豆の自給が重要だし、マーケットの側から見れば、前回にも指摘したとおり、そのニーズは量より質、すなわち腹を満たすための食料だけではなく、嗜好品としての食材に時代は変わっているのに、そこにこそ国内需要と国外需要、そして経済性が見込めるのに、それに気が付かないのか無視しているのか、マーケティングが偏っている。

みんな美味い米を待っている。不味いからパンを食べるのだ。

では、有機農業を見てみよう。有機農産物は堅調な増加基調にあり、有機農産物の相対的な比率は拡大途上にある。有機農家数も増加している。しかし、現在の有機農家数は約1万2000戸、栽培面積は約1万6000ha。これがどんな数字かというと、それぞれ0.5%、0.4%。この数字だけを見れば極めて少ない。少ないけれど確実に増えているこの事実をどうとらえるか?一点の光明と取るか、取るに足らない小さな数字と取るか。まさにセンスが問われるところだ。

有機農業における新規参入者の動機は様々だけれど、行政的に言えば情緒論が圧倒的に多い。「子供たちに安全、安心な食べ物を届けたい」「豊かな自然と共存する生活をしたい」などなど。しかし、情緒論を無視してはいけない。なぜなら、農業の生産性とその品質を高めるために最も重要な要素は、農家の喜びを伴った勤勉さであるし、それにはその動機づけとなる情緒論がとても大切なのだ。

「何のために農業か?」と。

農家を単なる労働者と位置付けてはいけないのだよ、資本家諸君。


キュウリ畑、収穫開始

6月の食卓 ご飯も立派な酒の肴
国家予算96兆円のうち、農林水産省の予算が2兆3000億。国民の食と健康を守る、本来なら国家の安全保障の要である農林水産業に対する、国家的意識の低さがここに表れているのだが、有機農業の予算はそれどころではない。何と5千500万円なのだ。これだけを見ても、つくづく永田町にお住いの方々は、頭がお弱いか、センスが無いように見える。有機農業は生産性が低いという意見に至っては笑止千万。ならば技術力、生産性の向上と、その情報の共有、そして圧倒的多数である、小規模農家の経済性を高めるための、新たな流通の構築に予算を割けばよいではないか。

政治家も行政も、はたまた農協も当てにできないとしたら、この際そんなものはいったん脇に置いといて、評論家のような経済学者の論理にも惑わされず、はたまた批判もしないで、当事者である生産者が、自分の責任で想像力を高め、直感を駆使して、美味しい農産物の生産と、それを食べる美味しい幸せを消費者と共有しながら、その既成事実を積み重ねていくしかないようだ。

農林水産業という国民的資産は、直感とノリ一発で、自分たちが守ろうよ。

できるよね。

(2014年6月24日)

やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

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