連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表


土佐自然塾8期生卒業生記念写真!前列右から3番目が山下塾長
山下一穂土佐自然塾・塾長こと天才カズホ君。2011年4月に設立された有機農業参入促進協議会の会長として、民間の有機農業団体と協力して、人、もの、情報をつなぐ大仕事に着手。難しい政府交渉も、小難しい人間関係も、さらりとかわして、見てきたあれこれ晴れ掘れ日記・パートU、再開です。


第8期生卒塾式で「日本の農業を変えよう」と訓示!
「今日から皆さんとぼくたちは一つの家族です」と挨拶したのが、昨年4月、土佐自然塾での入学式。夜の懇親会では「もう家族なんだから、ぼくのことをかずほさんと呼びなさい。では練習。はい美帆」「はいかずほさん」「はい勇太・・・」としっかり練習して、翌日からぼくと塾生はファーストネームで呼び合う仲になった。ほどなく、高知県が最も力を入れている「産業振興計画」の旗印として「高知家」というキャッチコピーを使うようになり、高知県出身の広末涼子を娘役、尾崎知事が父親役のプロモーションフィルムまで登場した。

「高知県は一つの家族です!」と。

それを聞いて、ぼくは突然家出したくなった。しかし、自分の農園の経営もあるし、土佐自然塾の塾長も務めている。農水省から有機農業を普及するための事業を受託している団体の代表でもあるので、これらを放り出すわけにはいかない。どう転んでも、昔のように家出はできない。

しかし、天は我に味方したのである。

嫁からいつも「え、また出張?」と文句を言われているぐらい、出張が多いのだ。つまり、日常の中に非日常的「プチ家出」が時々はいるわけですね。その家出中に何をしているかと言うと、都会での会議や商談会、全国各地でのセミナーや現地見学会に参加して、とても楽しく、非日常的お勉強をしている。そこから、田舎の中だけでは見えてこない。別の大きな景色が見えてきた。

明るい未来が見えるのだ。


プチ家出? 新農業人フェアにて
日本の農業は、これまでもそうだったし、これからもさらに大規模化、産地化に進もうとしている。しかし、日本のほとんどの農地は中山間地や田舎に位置していて、そのうちのほとんどが小規模農家。そして、農業者の高齢化は進む一方、大変深刻な状況である。しかし、生産、流通の方からではなく、消費の側からこれを見てみると、このピンチは日本農業にとっては大いなるチャンスでもあるのだ。

大量生産された農産物は、コスト削減と安定供給、そして品質の均一化が求められるため、当然のごとく農薬と化学肥料と機械化がセットの、作業工程が規格化された栽培技術になる。農産物は工業製品ではないから、そのクオリティには当然限界が出てくる。簡単に言えば「押しなべて70点止まり」なのだ。確かにそれで大規模な需要や業務需要は満たされるけれど、「綺麗で美味しい、そして安全安心」。これらが3拍子揃った「100点満点」の農産物に対する個人的、家庭的、小規模業務的ニーズは満たされていない。ところが「技術を伴った有機農業」はそれに応えることができるし、それを実現できるのが、手間暇かけた小規模栽培なのだ。そして、担い手となる新規就農希望者も多いし、慣行栽培からの転換希望者も多いことから、そのための人材確保、世代交代も見込める。

小規模な生産と消費は、日本全体で見れば立派に大規模なのだ。

集約しにくい小規模農業は、大規模流通業界には向かないけれど、新たな流通の仕組みさえできれば、小規模農業そのものには高い可能性がある。とすれば、圧倒的多数を占める小規模家族経営農家の再生、すなわち日本の農業の再生と消費者の満足、つまり経済的持続性が見えてくるのだ。

「大規模栽培だけが、あるいは有機農業だけが、という極論ではなく、多様なマーケットには、多様な生産、流通体制を」と、内なる直感を信じて、腹を括って、胸を張り、健全な農業と社会のありようと、その再生に力を尽くしたい。

ということが、家出をするとよく分かるのだな。今年もまた4月から新入生が入って来るけれど、塾生は家出したらいかんよ。

これは、ぼくの既得権益なんだから。

(2014年4月23日)

やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

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