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吉田俊道 NPO法人大地といのちの会理事長

前回までは、なぜ、保育園・幼稚園で元気野菜を育てるのかについて理解してもらい、そのために必要な畑づくりの段取りについて説明しました。いよいよ生ごみを使った土づくりに入りますが、その前に野菜の持っている不思議パワーに触れてみましょう。

皮こそ、いのちのバリア

保育園・幼稚園に園児たちが家庭から生ごみを持ってきたら、まずはブルーシートに広げて観察します。生ごみの大半は、野菜の皮です。子どもたちの中には、生ごみに対して「汚い」「臭い」と思う先入観があって、はじめは触れることに対してしり込みする姿も見受けられます。
そんな時にこそ話す、とっておきの話です。
「この皮には、すごいパワーがあるんだよ。お日様の光は強すぎるから、動物たちはそれから逃げるために日陰に入ったり、毛皮をはやして日が直接当たらないようにするでしょう。でも野菜さんたちは、そのお日様の強すぎる力を自分の力に変えることができるの。”ファイトケミカル”って言うんだけど、それを皮にたくさん溜め込んでいて、だからどんなに日が当たっても野菜は日焼けがしないの。つまり、皮は野菜さんの体を守るための大切なバリアーで、一番パワーのある部分なんだよ」

そして、生ごみを前にゲームが始まります。
「それでは、今から言う野菜のバリアを探してね!ハイ、タマネギのバリアー!」と「アッター!」と園児たちは勇んで生ごみを手でかき分け、競争して皮を探し出します。見つけると大喜びで、手で掲げて見せてくれます。
「次は、ニンジンのバリアー!」
「はーい!」
「これだー!」
「他にどんなバリアがあるか、探してみて?」
活き活きと生ごみをかき分ける子どもたちからは、「生ごみ(=価値のないもの)だ」「汚い」などという意識が一掃されていきます。

“生長点”―いのちが生まれる場所

生ごみは新鮮なもので、いろいろな種類があるといい

生ごみは新鮮なもので、いろいろな種類があるといい

さらに、野菜のいのちが生まれる”生長点”について、観察します。
「野菜さんにはね、バリアー以外にすごい力が隠れている場所があるんだよ。”せいちょうてん”って言うんだけど、今からドンドン大きくなる所、つまり赤ちゃんが隠れている所だよ」
そう言いながら、例えばキャベツの芯があったら、1枚1枚の葉の付け根に1個ずつある直径5ミリ程度の小さな尖った芽を見せたり、ホウレンソウやダイコンなどの葉の生え際の場所をめくっていって、小さな小さな赤ちゃん葉を見せます。すると大勢の子どもたちが寄ってきて、
ほんとだ!赤ちゃんがいる」「見せて見せて!」
見えない!どこ?」と大騒ぎです。
ここはね、野菜の中の一番元気なところで、ここだけはなかなか死なないんだよ。では、他に生長点を見つけてください」

タマネギのお尻、深ネギの根っこ、レタスの芯、ブロッコリの基部のわき芽、それにカボチャなどのタネだって生長点です。少し保管しておいて、数日後に芽が出てくる様子を観察すると感動的ですよ。終わる頃には、園児たちは生ごみとコミュニケーションができて、「仲良し」気分。
生長点を子どもに食べさせたい!調理ではこれだけしか捨てません

生長点を子どもに食べさせたい!調理ではこれだけしか捨てません

ここが生長点です

ここが生長点です

生ごみに多く含まれる皮や芯、付け根は、土の中でも最後まで分解しない最も生命力の強い部分です。人間の力では生み出せない、生理活性物資が豊富に含まれているから強いのです。私たちは、こうした「生命力」を食べることで、体内に必要な酵素を手に入れ、見えない多くの成分から生命の営みを支えてもらい、自らの「生命力」をつくり出すことができるのです。

すごいところがたくさんあったね。これどうする?捨てる?」
そうだよね。ごみに出すなんて嫌だよね。だったら食べる?」
実はね、土の中には菌ちゃんという小さな小さな生きものがいて、いつもおなかを空かせて待っているんだよ。今日は、君たちが持ってきたこの食べ物を菌ちゃんにあげよう!」

生ごみを分解する菌ちゃん

ところで、生ごみリサイクルでは、生ごみは小さくするほど分解がスムーズです。ミカンの皮やキャベツの外葉など特に大きなものを、みんなで指先を使ってちぎります。
指を使うことは、幼児にとって脳の発達に欠かせません。

数分間やったあとは、「だいぶ小さくなったけど、もっと菌ちゃんが食べやいようにする方法があるんだよ。君たちもお腹の中にはすごくたくさんの菌ちゃんが住んでいて、君たちを守っているんだ。君たちが食べたものは、お腹の中の菌ちゃんも食べます。だから、食べ物をお口の中に入れて、お腹の中に入れる前にどうするかな?」
「そう、噛むよね。だったらこの生ごみも畑の菌ちゃんにあげる前に、よく噛んであげようよ。歯じゃなくて、足で噛み潰すんだよ」

ブルーシートを2つ折りにして、その間に生ごみを広げて入れます。その後、みんなで飛び跳ねたりしながら踏みつけます。みんな大騒ぎです。途中から体重に自信のある大人たちも手伝ってください。

「食べ物を足で踏むなんて、よくないかも知れないね。でもね、野菜も魚の骨も生きていた物はみんな最初は土から生まれたんだよね。ごみに出したら2度と土に戻れないんだよ。しっかり噛んで、菌ちゃんに食べてもらって、生まれた土に帰してあげようね」

シートの上に乗って、生ごみを踏みつぶす

シートの上に乗って、生ごみを踏みつぶす

菌ちゃんが食べやすいように生ごみを土によく混ぜる

菌ちゃんが食べやすいように生ごみを土によく混ぜる

シートをあけると、ぺちゃんこになった生ごみを見て、みんな歓声を上げます。
「これで菌ちゃんが食べやすくなりました。これを良い菌ちゃんがしっかり食べてくれるように、ここで良い菌ちゃん軍団を加えます。EMボカシと言います」

つぶれた生ごみにEMボカシを多目に振りかけて、軽く混ぜ合わせます。

「ではさっそく、畑の菌ちゃんにあげよう!!」
みんなで力を合わせて、ブルーシートを畑に運び、ひっくり返します。

小さめのスコップを使って、みんなでよ〜く混ぜます。混ぜる土と子どもが立つ通路は明確に分けないと、子どもの場合、混ぜるよりも踏み固めることになってしまいます。最後は、大人の人も手伝って、生ごみの固まりがないように丁寧に混ぜ合わせます。十分すぎるほど土と良く混ぜ合わせると、その後、生ごみは腐敗せずに急速に分解して消えてしまうので、みんなびっくりします。

最後に、ここがとても大切なコツなんですが、その土をできるだけ高くかまぼこ状に盛り上げて(大雨がきても濡れすぎない)、枯れた草をお布団のように上に掛けて(表面の通気を確保)、ブルーシートでしっかり覆って(水分安定と犬猫、カラス予防)、周りに重石を乗せたら終了です。

「みんなありがとう!これから生ごみを食べた菌ちゃんはどうなるんだろう?」この話の続きは次回に。

公教育の場ですから、絶対に腐敗させないように、十分すぎる対策を取ってください。万一、苦情が出たらその後の普及の妨げになりかねません。
生ごみは、小さいほど有用微生物が食べやすいので、腐敗しにくくなります。例えば、魚のはらわたをそのまま土に入れて数日経つと、鼻の曲がるような悪臭が出ます。ところが、同じはらわたをよくつぶしてEMボカシと土と十分混ぜると、数日後には消えてしまって悪臭は出ません。
土に深く埋め過ぎたり、土と生ごみが十分に混じり合っていない場合も腐敗発酵に転じやすいです。その場合、あとで野菜に病害虫がつきやすくなります。
生ごみを混ぜた土が適度に湿っていないと菌は動けません。乾燥している時は、汁物や水も混ぜます。逆にびしょびしょの土の場合は、EMボカシを入れても生ごみは腐敗してしまうので、その日の生ごみ投入は中止してください。

※編集部より
吉田さんの講演予定は下記ホームページ参照
http://www13.ocn.ne.jp/~k.nakao/

掲載日:2010年6月3日



よしだ・としみち
NPO法人大地といのちの会理事長。1959年、長崎市生まれ。九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県の農業改良普及員に。96年、県庁を辞め、有機農家として新規参入。99年、佐世保市を拠点に「大地といのちの会」を結成し、九州を拠点に生ごみリサイクル元気野菜作りと元気人間作りの旋風を巻き起こしている。2007年、同会が総務大臣表彰(地域振興部門)を受賞。2009年、食育推進ボランティア表彰(内閣府特命担当大臣表彰)。長崎県環境アドバイザー。主な著書は「いのち輝く元気野菜のひみつ」「生ごみ先生のおいしい食育」「まるごといただきます」など。


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