トップ > 有機農業特集 > インタビュー 涌井義郎氏 「循環」と「環境」がテーマ 有機農業を教え、学ぶ
今、日本の農業が大きく変わろうとしています。有機農業を推進する法律ができたことをきっかけに、各都道府県では、有機農業を普及している様々な民間団体や個人、行政が連帯し、有機農業を推進するための具体的な計画づくりを始めています。これは従来の農業政策から考えると180度とも言える転換です。
Webエコピュアでは、「有機農業推進法の画期的意義 日本の農が変わる」と題して、日本農業の進むべき方向や課題、具体的な取り組み、モデルケースなどについて、有機農業に関わる各分野の方に本音で語っていただきます。
涌井義郎氏 「循環」と「環境」がテーマ 有機農業を教え、学ぶ

有機農業が、国家レベルの課題として取り上げられたことで、様々な問題が浮かび上がってきました。その1つが、有機農業の技術研究を行い、指導する公的な機関がほとんどないという現実です。前身の高等農事講習所を含め64年の長い歴史を持つ鯉淵学園農業栄養専門学校が、今年から食農環境科に有機農業コースを設けました。専門学校としては、日本初の取り組みとして注目されています。今回は、同校の専任教授である涌井義郎氏にお話を伺いしました。

子どもたちに自然農法産野菜を
茨城県水戸市近郊のJR友部駅から車で10分、住宅街を抜けると広々としたキャンパスがこつ然と現れたので驚きました。敷地面積はどのくらいですか。

50haです。約半分が、作物栽培をする農場と家畜飼育する農場で、合わせて24haあります。そのうち、有機に転換中の畑と水田が各1ha、有機JAS認定農地は54aです。家畜飼育では乳牛と肉牛をあわせて約150頭飼っています。 残り半分に、教育棟や実験棟、学生寮や食堂、農産物直売所などが点在しています。

畦道には野の花が咲いて農村の道を歩いているような気分でした。水路には水戸市では珍しいメダカが泳いでいると聞きました。道を1本隔てた学生寮から、校舎や田畑へ向う自転車やバイクに乗った若者たちが行き交う姿や、玉ねぎを収穫する手を止めてさわやかな笑顔で挨拶してくれたのが、印象的でした。みんないきいきとしていますね。入学の動機は、どのようなことが多いのですか。

志願書には、実家が農家かどうか書かせないので分かりませんが、最近では、農業とは無縁だった都市部の若者たちが入学してきます。農業を志す学生の8割が男性、栄養士をめざす学生の8割が女性です。畜産農家の子どもたちは、技術は親が教えるので、大学では経営を学ぶケースが多いですが、この学校ではしっかりと実技を学ばせます。卒業後は、新規就農をはじめ、行政や企業、JAなど幅広い分野に進んでいます。

 学科構成と学生数を教えていただけますか。

2年制の専門課程の中に「食農環境科」と「食品栄養科」があり、「食農環境科」の中に「有機農業コース」と「アグリビジネスコース」があります。この他に、「実技研修コース」と「社会人研修コース」があり、現在は、専門課程が208名、研修コースが27名、社会人コースが15名おります。

 鯉淵学園は64年の歴史があるそうですが・・。

終戦の昭和20年に、全国農業会(JAの前身)が「高等農事講習所」を設立※して、食料増産を目的にする近代農業の普及と農村生活の改善教育を行いました。この課題は昭和45年をめどにほぼ終わりました。この頃に「農村生活科」は「生活栄養科」と改めて栄養士の養成を行うようになり、「食農一貫教育」を開始しました。この理念が今も引き継がれています。

昭和50〜60年代は、公害、環境、食の安全の問題など、農と食をめぐっての問題が国民全体のテーマになり、本校も環境に配慮した農業へと進みました。そうした長年の実績を踏まえて、現在では『食農一貫・環境保全・循環型』の教育を行い、今年度から、自然界の多様な生物活動を活用して、化学合成物質に頼らない有機農産物の生産技術、流通、販売などの知識や技術を持つ人材の育成を目的に、「食農環境科」と「食品栄養科」を開設したのです。
※昭和23年全国農業会の解散により、「財団法人農民教育協会」が引き継ぐ

タネまきから食卓まで−食は生命の基本
 「食農一貫教育」と聞くと難しく考えますが、タネまきから食卓までとイメージすると分かりやすいですね。

長年、食べ物が私たちの生命を支えているという視点から考えていく農業者や栄養士の育成を行ってきました。農業科と栄養科は、互いに食と農の科目を取り入れて、両者の相互理解を重要なテーマにしてきました。例えば「食農環境科」では、農業関連の科目の他に、「食品材料」「食品衛生」「食品加工」なども学び、「食品栄養科」では、「食材生産」「環境保全型農業」「農場実習」なども行っています。これらを「食農一貫教育」と呼んでいます。

最近では、栄養大学と農家との交流などが活発に行われるようになりましたが、学内で学び合える学校は少ないと思います。「安全で安心できる食べ物を食べたい。エコロジカルな生活に触れたい」という国民の声が今ほど叫ばれることは、かつてありませんでした。食と農との関係を知り、即戦力になれる人材の育成が急務だと思っています。

学内で有機資源をまわす

学生寮から毎日出る生ごみは発酵肥料になる
循環型農業は、大切なテーマだと思いますが、学校ではどのような取り組みがされているのですか?

畜産現場から出る家畜糞、作物農場から出る野菜クズやモミガラ、食堂や約130人が暮らす学生寮から出る生ごみなど、学校内の有機資源を有効に活用しようということで、8年前から学校全体で循環させる研究を始め、堆肥をつくっています。その結果、外部からあまり肥料を買わなくても何とかできるということが分かってきました。農業に非常に役立つ資源が、身近にあったというわけですね。


植物残渣や生ごみをリキッド化して液体肥料に
最近では、生ごみをリキッド化して肥料に使う民間企業の実験にも関わっています。 生ごみは水分がやっかいですが、それを逆手にとって液体にして使うという発想です。これも、なかなかの肥料効果があるようです。また、学校や地域の家庭で出る廃食油を回収して、農地で使うトラクターなどの燃料として再利用しています。直売 所のストーブは、間伐材を利用したウッドチップを使っています。

学外へ汚染物質を出さない
「循環」と同時に今求められているのは、「環境」の保全です。この点に関してはいかがですか?


マコモを植えた人工湿地で生活排水の浄化を行う
物質循環の考え方からいくと、農産物や食品として学校から出て行く分にはいいことなのですが、それ以外に周りの環境を汚しているものがあるのではないかと考えて、敷地内で一番低いところの田んぼを改造して、ビオトープをつくりました。学生寮の生活雑排水や浄化槽から出る水とか、農場で使った肥料から出てくる水分などを浄化するシステムを、筑波にある農業環境技術研究所と連携して研究してきました。マコモなどを使ったビオトープは、結果的に非常に効果があるという結果を得ています。

環境に配慮したら有機に行き着いた
「循環」と「環境」に配慮した成果が、今年度からスタートした有機農業コース開設につながったということでしょうか。


54aの有機認定ほ場では年間を通して野菜が栽培されている


トマトなどの栽培試験を行うハウス

有機農業のめざすところの一番大事なことは、環境保全ということだと思います。安全・安心と言いますと、私たちが食べているものが安全ということに一番先に目が行ってしまうのですが、私たちの子どもや孫、ひ孫の代まで安全・安心でなければなりません。地域の環境を守ってこそ、将来も安全で安心できる農産物や食品が生産できるのではないかと思います。

そういう視点で取り組んでいくうちに、「どういう農業生産ならば、それが約束できるか」ということになります。できるだけ農薬や化学肥料を使わない、そういう農業に行き着いたわけです。

学校全体で取り組んでいた「循環」や「環境」の成果を、最終的に「有機農業コース」という教育にしたいと考えました。環境やエコというテーマに関心のある若者にこの世界を知ってもらいたい、そういう思いで「有機農業コース」を開設しました。栽培技術だけではなく、環境を学ぶ時間を持って、広く地域の環境をとらえて有機農業を行えるようになる、これがこのコースの目標です。

 「有機農業の専門学校」をめざしているのですか。

そう呼ばれるようになりたいですが、まだ、そうはなっていませんし、現時点では、学校全体が有機農業になると比較対象がなくなり、説得力がなくなります。今はむしろ、学生たちと比較実験ができることを大切にしています。有機農業の価値を誰もが認めるような時代が来れば、比較対象はいらなくなると思いますけど・・・。

 有機農業コースを志望する学生の動機はなんですか。


同じ志の青年たちが友情を育む学び舎でもある
人それぞれですが、有機農業に興味を持ち、新規に就農したいという気持ちが強いようです。今年は、募集が遅れたこともあって、学生数は少ないですが、高校の進路指導の先生が、有機農業に関心を持っていただけたら、入学希望者も増えてくると期待しています。

有機農業を選択した20代のある卒業生は、1年間三重県の研修農場で学んで、1年後には独り立ちしています。地元の農家が家と農地を見つけて就農させてくれたそうです。自立資金が少なくても、有機農業では先輩農家の皆さんが応援してくれて、販路も仲間になることで確保できます。そうでなくても、有機野菜が欲しいという需要がずいぶんあちこちから出ていますから。

農業を学び合い、農業で育ち合う
  具体的な授業内容を教えてください。


ブドウ、ナシなどの果樹園、農畜産加工実習室も併設
情報処理、植物生理、生物などの基礎分野が、150時間6単位あります。1,700時間、60単位以上の専門分野では、土づくり、栽培技術、畜産との連携、作物保護などの農業の基礎技術を学びます。農地をめぐる物質循環の講義もあります。日本有機農業研究会の魚住道郎さんなど、有機農家の協力を得て、特別講義や派遣実習などを行います。

農家へ研修することも大変役立つと思いますが、学校で学ぶことは、農業の基礎、自然界の仕組みなど、科学的な見地から考える素地をつくることができます。これも、農業を専門にしたい若者の将来にとって大事なことですね。

多くの学生が寮生活をしています。志を同じくする18歳から20代の青年たちが、寝食を共にして友情を育てることの意義も大きいと思います。若者たちの長い人生を考えると、この友情こそ宝です。

化学的・機械依存の農業の見直しを
有機農業は日本の気候や風土に適していると考えますが、先生は具体的にどのような観点から有機農業の可能性を考えておられますか?

四季があり、適量の降水量があり、草木が豊かであり、河川や湖沼に恵まれ、多様な生物が生息する日本は、有機農業を支える条件がそろっていると思います。

その上で、1つは、お金のかからない農業。化学肥料、石油、大型機械など、農家に高コストを要求する農業に未来があるとはとうてい考えられません。だからこそ、自然を資源として見直すということです。もう1つは、手のかからない農業です。微生物を含めた自然の力に機械の代わりをしてもらうことです。お年寄りでも、鍬1本でできる農業。端的に言えば、低コスト低エネルギーの農業ですね。

つまり、農の基盤を「自然との共生」に切り替えて、単位面積当りの「多収」ではなく、国土総体の「生物生産力」を考えてみたらどうだろうかと思うわけです。

多品目栽培・小規模・家族経営への転換を
付け加えれば、有機農業は、単なる農法ではなく、暮らしの視点を大事にするトータルな農法なのだと思います。必要なものは自給する。堆肥もつくる。道具もつくる。作業小屋も構内の木を切って、学生と一緒につくります。こうしたことは、かつては日本のどこの農家でも行われていたことです。昔に後戻りするわけではありませんが、お年寄りたちに、もう1度昔の農業の知恵や技術を教えてもらうことも大事ですね。

国のいう、大規模経営とは対照的でしょうが、さまざまな作物を栽培し家族でもできる有機農業が、日本の農業を、ひいては食を変えていくことにつながっていくと思います。

農地で出た有機資源を土に戻す
具体的な有機農法技術についてお伺いします。先生は、「すべての生物」の活動を視野にいれた農業の技を考えたいとおっしゃっていますね。

そもそも、世界的に見たら、輸入できる化学肥料の原料はすでに底が見え始めています。ですから、化学肥料による作物生産ではなく、土の生産力が作物を育てるという観点で土づくりを行うことが重要なのです。

では、土は何かというと、鉱物由来の砂や粘土に、植物や動物の遺体が混ざり合い、さらにミミズや微生物がすみ着いて暮らしている世界です。10aの土には、700kgの生き物がいて、軽トラック2〜3台分の量になります。地表わずか10〜15cmに生きる小動物や微生物が有機物を食べて、作物に必要な栄養をつくり出してくれます。ですから、この土の世界をどう扱うかが、有機農業を成功させるかどうかのポイントになります。

生ごみ堆肥化は有機農業に欠かせない
肥料がなくても植物が育つ森林の土を田畑に再現できないか、というのが先生のテーマなのですね。


落ち葉、剪定枝はすべて回収、育苗用土や堆肥に
何も肥料を入れていないのに落ち葉の下の土は、ほくほくとしているでしょ。枯葉や落ち葉や枝や、動物の死がいなどをミミズや微生物が分解して、木の根に栄養を与えているのですね。木に一番必要なものは、植物由来の炭素です。枯れた植物の繊維の中に炭素はたくさん含まれています。ただし、落ち葉は、固くて微生物は簡単に分解することができません。循環がゆっくりすすむ森林はそれでもいいとして、では田畑ではどうするか、ここが問題です。

そこで、雑木林の落ち葉などを、畑の残渣や田んぼの稲ワラ、野菜クズや米ヌカと一緒にして発酵させ、堆肥にします。稲ワラは使い道が多くて、堆肥にまではまわりませんので、草を食べている牛や鶏の糞を混ぜてもよいでしょう。しかし、動物由来の堆肥は、少ない方がよいようです。植物が必要とする全栄養を含んでいる完熟堆肥は、土に入れて分解がすすむと腐植になり、その中のミミズや微生物は、作物に効果的な栄養素を合成してくれます。また、堆肥を農地に入れた後にぐんと増える有用菌微生物群の働きは、作物の病原菌と戦ってくれる強い味方になるのです。自然農法をやっておられる人たちが、EM(有用微生物群)を活用していることと同じだと思います。

有機農業を体験するには、生ごみを堆肥化するのが一番の早道ではないでしょうか。学園でも学校食堂の食べ残しや生ごみは、生ごみ処理機で発酵乾燥させ、学内の落ち葉や畜産の糞などに混ぜて、堆肥化しすべて土に戻しています。

耕さない方がうまくゆく−不耕起栽培の実験
学園の不耕起栽培の実験と検証が、テレビにも登場して話題になりました。どのようなものですか。


収穫量も味も変わらない6年間不耕起のトマト畑
自然農法をやっておられる人たちも、「耕さない」ということをテーマにされていますが、私もそういう皆さんの畑を見せてもらって、私の子ども時代は確かに耕さなかったなと思ったのです。

6年間耕さなかった土で育てたトマトと耕した土で育てたトマトを比較してみると、耕した方は3年目くらいから連作障害のような症状が出ました。その後には、下葉から枯れていく葉枯病が発生しました。ところが、耕さない方は、連作障害が1本も出ませんし、病気も少なくよく育っています。同じボカシを使った有機栽培ですが、耕すか耕さないかで、結果が違います。不耕起の畑の収穫量は毎年大きな変化はありませんし、むしろ少し増えていきます。糖度は、0.2度耕さないトマトの方が高い。私も、ここまで期待はしていませんでした。

その後やっているのが、露地のナス。こちらは3年目になりますが、不耕起栽培のナスについても連作障害は出ていません。まだ、詳しいデータを集めていませんが、おもしろい結果が得られそうです。

耕さずに土の上に草とかワラとか落ち葉で蓋をしてやると、ミミズがとても多くなります。ミミズのたくさんいる畑には、病気や害虫をやっつけてくれる微生物もいっぱい集まってきます。そういう虫とか微生物が、おそらく連作障害を起こすような病原菌とケンカしてくれているのだと推測しています。いずれにしても、この耕さないことのメリットが、将来的には有機農業技術のひとつのキーポイントになるでしょうね。

土ができれば草は少ない
 不耕起栽培で野菜をつくる場合、やっかいな問題が草との戦いと聞いていますが。

私も草取りには泣かされた1人です。耕さないと確かに草が生えます。でも、ワラや落ち葉を敷いた有機物のある土には、あまり草が生えません。生えても、スルリと抜ける草になっています。これは、有機物のある下の土が、団粒構造のあるホクホクした柔らかい土になっているので、草がスルリと抜けるのです。

耕すと土が固くなって、そこに生える草は自分の身を守ろうとして地中深く根を張るのですね。彼らも生きたいわけですから。

生物多様性が有機農業を支える
有機農家の畑に行きますと、たくさんの生き物を見ることができます。生物多様性というのも、有機農業のキーワードでしょうか。


野菜の畝間にエン麦を育て天敵を集める
有機栽培の農家の育苗床に行きますと、草やシノダケが生えていたり、歩くとクモがちょろちょろいたり、トカゲがひょろひょろ出たり、カエルがいたりする。見た目には雑然としていますが、そういう環境が、実は、病原菌やアブラムシ、ウイルスなどの害を防いでくれるのです。天敵を上手に呼び込んで害虫を食べてもらう。食物連鎖をいかに畑につくるかも、有機農業の大事な技術でしょう。

私は、野菜の畝間に春から秋まで、「エンバク」という麦をまきます。こうしますと、麦につくアブラムシを食べにテントウムシがやってきます。食べ尽くすと、野菜の方のアブラムシも食べてくれます。穂が出る直前にエンバクを刈り取り、土の上に敷きます。敷きわらの代わりになります。まさに一石二鳥です。

もう1つは、長野県波田町(現・松本市)の(財)自然農法国際研究開発センターで学生と研修した時に学んで、実際にやっているのが、クローバーを混栽して植える方法です。豆科のクローバーには、根に根粒菌がついて、土の隙間にある空気の窒素ガスを取り込んで、アンモニアとアミノ酸をつくります。それがゆくゆくチッソ肥料になり、土がだんだん肥えていきます。それだけではなく、このクローバーは、天敵を集める役目をしてくれます。こちらも、一石二鳥です。

有機農業の農家の皆さんが、知らず知らずに行っていることが、実は、自然環境と共生する農の技で、前向きに考えれば、まだまだ新しい農業の展開の可能性がいっぱいあるのではないかと思います。

地産地消で、地域に学校をひらく

地域と学校を結ぶ農産物直販所「農の詩」
今日乗って来た地元のタクシーの運転手さんは、直売所の大ファンとかで、ことにキュウリはピカイチだと絶賛していました。運転手さんの実家は学校の近くの農家ですが、田んぼは耕すことができずに放置したままだそうです。この学校だけは頑張ってほしいと言っていました。

そういう目で見てくださっているのは、とてもうれしいですね。学校の直売所には、遠くからのお客様もたくさんに来ていただいています。特に夏場の野菜は、アッという間に売り切れてしまいます。地域の皆さんに支えていただいて、年商6,000万円までになりました。


学生たちと卒業生たちが栽培した農産物が並ぶ
この直売所では、有機JAS認定のダイコン、キャベツ、キュウリ、トマト、カボチャ、ハクサイ、葉采類や、慣行農法よりも農薬、化学肥料をそれぞれ半分以下にした特別栽培農産物、学校内にある加工工場で製造したハムやソーセージなどを販売しています。もちろん、すべて無添加です。ことに全国の卒業生から届く、丹精込めたリンゴや、ミカン、ラ・フランスなどは、この学校ならではの品揃えではないでしょうか。この直売所は、学生たちの実習を兼ねています。自分が農産物をつくるだけではなく、売る人にもなり、また、買う人にもなって、それぞれの立場から学ぶことができます。

たくさんの人が参加できる『農の世界』を
学生向けの有機農業コースだけではなく、社会人のための研修コースも人気が高いと伺っています。これからの展望と夢を教えてください。


東南アジアや南米から農業青年が研修に訪れている
私たちが日常食べている食料の4割しか国産のものはありません。その4割を維持するのも危ないのではないかと思います。昨年度の農林水産省の調べでは、すでに70歳以上の農業者が全体の46%になっています。平均年齢が65歳を超えているのです。あと5年もたてば、この方々が主導的な立場で働くのは辛いということになるでしょう。ましてや、農家を訪ねますと、米農家は米だけ、野菜農家は野菜だけをつくり、肉牛農家は牛だけを飼い、農家自身の自給率は決して高くはありません。

ですから、農業を生業とする人だけではなくて、東京のマンションのベランダでも、自分や家族で食べるもの、少なくとも1品や2品ぐらいは自分でつくってみよう。レタス1個でもいいと思います。これからの社会は、生産者、消費者と区分しないで「食料をつくって食べる」運動が大事かなと思っています。

そのために有機野菜栽培と田舎暮らしのいろいろな技術を伝授する社会人研修コースとして、週末1日コースと週末2日コースの2コースを用意しました。市民向けの有機野菜栽培講座は月2回土曜日に開講しています。こちらも定年退職をした市民や主婦に人気で、私もみなさんからいろいろなことを教わっています。

学生たちには、「環境保全型・循環型農業」「タネまきから食卓まで」の考え方と方法を学んで、将来は地域や国際協力の舞台で活躍できる人材に育ってもらいたいと思います。すでに約6,500人の卒業生たちが国内外で活躍しています。それに続いて欲しいですね。

─ 私も、「農の世界」に参加したくなりました。まずは、家庭菜園からですね。お忙しいところをありがとうございました。

[2009/7/23]



1954年新潟県津南町生まれ。鯉淵学園を卒業後、1978年に母校の教師として学園に戻り、主に野菜栽培技術の指導に従事。1995年ごろから、有機栽培技術の研究と指導に当たり、不耕起栽培による有機農業や生ごみを用いた循環型農業を研究している。現在、食環境科有機農業コース主任教授。NPO法人有機農業推進協会常任理事。NPO法人有機農産物普及・堆肥化推進協会顧問。著書に『日本の有機農法 土作りから病害虫回避、有畜複合農業まで』(筑波書房・館野廣幸共著)。


涌井義郎/舘野廣幸
筑波書房
2008/5/26 \3,150(税込)

 



財団法人農民教育協会が運営する農業と栄養学の専門学校。長年にわたり「食農一貫教育・環境保全・循環型」をテーマに農と食の人材育成を行う。2009年から実践力に重きをおくために4年制から2年制の専門学校に制度変更。食農環境科(有機農業コース・アグリビジネスコース)と食品栄養科を新設した。学生寮併設。茨城県水戸市(JR友部駅から車で10分)の郊外50haの敷地にあり、現在専門課程の学生208名、研修コース生が27名。社会人コースの15名が学んでいる。
http://www.koibuchi.ac.jp

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