連載

第6回 食べることでつながる”いのち”

前回では、野菜の中で起こっている“ひたすら生きようとするいのち”のあり方を、ホウレンソウに例えて話しました。霜が降りる寒い時期のホウレンソウは甘みが増しています。これは、菌ちゃんとお日様の力からもらった大切な栄養を葉っぱの中に貯めて、寒さに負けない体をつくっているからです。「でも、どうせ人間に食べられるんだから、そんなに頑張らないで、寒かったら死ねばいいと思わない?」と、意地悪な質問をして今号に続いたのですが、ホウレンソウはどうしてそこまでして凍らない体になって、死にたくなかったのでしょうか?
そこで、ホウレンソウの様子を見てみることにします。ホウレンソウは、生きて何をしたかったのか?畑のホウレンソウをすべて穫らずに、いくつか残して置きます。
すると、長い長い、厳しい冬を、毎日毎日生きて少しずつ育ち、やがて春の訪れと共に茎がどんどん伸びて、花を咲かせるのです。「そうか、ホウレンソウさんは、花を咲かせて子どもをつくりたかったんだね。」目立たないけれど、とても可憐な花です。指で触ると白い粉が飛び出します。お父さんのタネです。
「みんな生まれたら死んでいく。そして、みんな死ぬ前に子どもをつくるんだね。子どもをつくる時は、1人でつくちゃうと、お母さんとまったく同じ子どもしかできないから、男と女に分かれて、お父さんとお母さんの体を混ぜて、いろんな違う子どもをつくるんだよ」

寒い冬を乗り切ってホウレンソウは可憐な花を咲かせます

「ニンジンさん、ごめんね、ありがとう!」

これは、ぜひニンジンでもやってみてください。12月までに、どんな土でも良いのでニンジンをもう一度土に埋めるのです。タネから生まれたニンジンさんは、冬の厳しい寒さに耐える準備をしながら毎日毎日、少しずつ大きくなります。 1月になると、大人になる準備を始めます。根の中の栄養を使って、たくさんの新しい根を伸ばすのです。ですから、1月を過ぎるとニンジンの味はやや薄くなっていきます。やがて春になると、ぐうっと1メートル位高くなって、とってもきれいな花を咲かせます。 そして、立派なタネが実る頃には、根はシワシワ、スカスカ。茎も葉も枯れ果てます。ニンジンさんの短いジン生でしたが、自分が生き続けて蓄えてきた、生きる力と情報のすべてを未来の希望であるタネに全部つぎ込んで、役割を終えて安心して土に帰るのでしょう。 普通に見かける大きなニンジンやダイコンさんは、どんなに大きくても人間で言うと10歳以下です。だって、春になってトウが立つまでは、まだ子どものできない体なのです。

「ニンジンさん、ごめんね、ありがとう!」
初めてのニンジン収穫の日、園児たちから自然に出た言葉です。幼児の感受性の高さには驚かされます。
食べるということは、生き物の命を殺して自分の生きる力につなぐ行為。鶏だって、ニンジンだって、明日も生きていたかった。必死に芽を出し、折られてもあきらめずにまた新芽を伸ばし、霜で凍らないように葉っぱを甘くする。
キュウリさんは、倒れないように必死にツルを伸ばし、枝にしがみついたら今度はそれが強風でも絶対に切れないように、ツルに弾力を持たせるためにコイル状になっていく。

「君は優しい子だね。今日ぼくたちが食べなかったら、この子は明日も一生懸命生きていたんだろうね」
これから大人になって花を咲かせたかったことは、育ててみた子にはよく分かります。しかし一方で、それを食べたい自分がいるのです。または、「かわいそう!食べたくない」と言う子もいます。
「大丈夫だよ!ニンジンさんはとってもやさしいんだよ。ウサギさんや人間に食べられることを分かっているから、その分いっぱい生まれてきてくれたんだよ。みんなが、もしこのニンジンを食べなくて、全部のニンジンさんが子どもを産んだら、来年になったら世の中、ニンジンだらけになってしまうよ。地球はいろんな生き物がつながって生きているから、ニンジンだけ増えたら、ニンジンさんも困るんだよ」

または、こう説明します。「君は優しいね。大丈夫だよ。ニンジンさんは喜んで君のような優しい子の中に入って、君の元気になってあげると思うよ。だって、たくさんのいのちが食べることでつながって、そして地球に住んでいる人も動物も野菜も、みんな元気になれることをニンジンさんは分かっているんだよ」

タネに次のいのちを託して茎も葉も枯れ果てたニンジンさん
タネに次のいのちを託して茎も葉も枯れ果てたニンジンさん

わたしは生かされている!

「ニンジンさん、ごめんね。君のその元気が欲しい!」心からそう思って食べる。すると、ニンジンの生きる力が、自分の中につながった気がします。その時ついに、「ありがとうニンジンさん。ありがとう菌ちゃん。わたしは生かされている!」という感覚が甦ってくるのだと思います。
だから日本人は、「いただきます」と言う言葉を大切にし、食べる前に必ず手を合わせてきたのでしょうね。
自分からお野菜さんに「ありがとう」と言ってくれた子どもたちを私は心から真剣にほめます。その時から、もうこの子どもたちにとって、食べる時間は地球のいのちとつながる時間になります。毎日3回の食事時間が、同時に心の底の方では、地球に生かされていることを確認している時間となった時、どんな心優しい子どもが育つのでしょう。

ニンジンをその場でガブリ!中には葉までむしゃむしゃ食べる子もいる中で、おもしろかったのは、ニンジンを口にくわえたままストップした子ども。その子は大の野菜嫌いで、食べなさいと言っただけで逃げ出していた子どもだったのです。「僕だって食べたい!」「でも、絶対食べたくない!」「でも、食べたい!」心の中でどんな葛藤が巡っていたのでしょう。
考えてみると、ブロッコリーさんもすごいです。今日まで、毎日青一色で必死に生きて育ってきました。そしてその人生の最後に、自分の体の中の持てる力全部を振り絞って、栄養とパワーをトウに凝縮させ、雄しべと雌しべ、そして黄色という色をつくり、いよいよパワーを満タンに充填させて、「よし!花開くぞ・・!という、その直前に切られて食べられるのです。人間で言うと、新婚初夜の直前に、怪獣さんに食べられるようなものでしょう。それでもブロッコリーさんは優しいから、こう言うような気がします。「そんなに食べたいのなら、食べていいよ。だって、僕の仲間がちゃんと子どもを残してくれるから。だから、僕は君の中に入って、君の体になり、心になって、君の人生の中でひと花でもふた花でも花を咲かせてあげるからね」

食べ物さんは、収穫され、調理され。その食べ物としてのいのちは死にます。でも、そのいのちを支えてきた根源の力、つまりビタミン、酵素、微量ミネラルバランス、ファイトケミカル、未知の栄養成分は、死なずに私たちにつながっていくのです。

ブロッコリーを調理する子どもたち。食べることでいのちをつなぐ
ブロッコリーを調理する子どもたち。食べることでいのちをつなぐ

 

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