前回のレポートから1年半が経過してしまいました。その間に起きた新型コロナウイルスの世界的蔓延に戸惑い、ためらいながら、それでも何とか生産に取り組んでいましたが、コロナ禍での消費環境の激変の影響を受け、我が家も一気に深刻な経営難に。
第10回の末尾で「整流結界を設置して、その効果”ミラクルだ!”」と書いたところ、効果の続編を楽しみに待っていた読者の方がおられたと伝え聞き、申し訳なさでいっぱいです。”ミラクル”現象を目のあたりにした際の感動は今でも鮮明で、次回12回のレポートで詳細をお伝えする予定です。
コロナ禍で経営危機
まずは我が家の現状をお話しします。
現代の日本人にはあまり経験のなかったコロナウイルスのパンデミックから1年が経ちました。マスク、ソーシャルディスタンス、消毒、外出禁止etc。なによりも今回のウイルスの戦略には度肝を抜かれました。現代社会の核となるグローバル化が最も危険な環境を作る、という殺人ウイルス。すでに世界で約311万人(2021年4月27日現在)もの人々が亡くなっています。
世界中がコロナ禍で大混乱の中、今の私たちは、極力人と会わず、自分の生き方を変えなくても良い環境に暮らしていると感じていました。ところが、どこでどう暮らしていても社会と自分は繋がっているんですね。自分の暮らしは、「北海道」「日本」というくくりだけではなく、世界とも密接に繋がっている、という現実をあらためて思い知りました。
そう、以前の我が家には世界中からボランティアさんたちが助っ人に来てくれていました。でも、昨年以降、海外からの人の出入りは自由にできませんし、いつ以前のようになるのかもわかりません。我が家は即、深刻な人手不足に。そして昨年からの飲食業の時短要請、休業要請で都会のおそば屋さんがやって行けなくなったり休業したりで、日本一のそばの里幌加内のそば生産者の一人である我が家は、一気に深刻な経営難に見舞われてしまっています。
この危機を乗り越えるため、一人暮らしだった息子は我が家に同居することとなり、我が家の経営陣は役員報酬を大幅に削減。まるで新規就農時の極貧状態が戻ってきたかの状況です。
長年の夢、”有機そば”の販売
日本一のそばの町、幌加内。そば生産者の我が家の経営は、慣行栽培のそばと有機栽培のジャガイモ、カボチャ、トマト、その他の数十品種の野菜たちです。慣行栽培そばの栽培面積は約53ha。町内では中くらいの栽培面積です。
そばは、日本中どこでも栽培されている作物です。でも1反当たりの生産量は、米や麦などの穀物と違って単位面積での収穫量が少なく、とにかく面積が必要なのです。土地がたくさん必要だからこそ、実は贅沢な作物でもあります。 大面積にすると大型の機械が幾つも必要になります。本格的なそばの生産には、土地、機械と大きな投資が必要なのです。
輪作の関係で、昨年から有機そばを生産し始め、そば粉の製粉、むき実の販売を始めました。二本柱の一本である慣行栽培のそばで大赤字となって経営を圧迫しているのですが、有機栽培の方は比較的順調で、ここ数年有機栽培の面積を少しずつ増やしてきました。
新規就農当初から有機農業を始めて25年目になりましたが、有機そばの販売は私たちの長年の夢の1つでした。
収穫した後も、そば粉にするまでにいくつもの工程が在り、それぞれに機械が必要。やってみて本当に驚きの連続です。農協さんが朱鞠内の営業所を売却した際、自由に使っていいから屋根の雪下ろしをやって欲しい、と言われ、10年近く私たちが雪下ろしをしてきた倉庫がありましたが、2003年、2014年の水害で50㎝以上冠水し、旧農協のたくさんの書類などが泥にまみれてしまいました。この倉庫を昨年ようやく買い取り、中を全部出してごみを処分し、床は水を運んできてデッキブラシで洗い流し、すっきりキレイにしました。そこに離農した農家さんから安く分けていただいた乾燥機を自分たちの手で解体して運び、組み立て直して設置しました。大きな機械で、倉庫に入るかどうか、横幅も高さも10㎝も余裕がない本当にぎりぎりでしたが、何とか設置することが出来ました。
有機JAS圃場で栽培したそばなのに・・
収穫期を迎えた有機そばは、刈り取りをした後、通常は専用の粗選機にかけますが、それはまだ入手できていないので、ビーンストレッシャーでごみを飛ばします。それでもまだ茎や草のタネ、細かいごみがたくさん入っているので唐箕(とうみ)かけをし、ようやく乾燥機に投入します。
乾燥させた後の作業は農協さんに委託し、調整作業をお願いしました。調整作業とは、乾燥させた後、まだそばの実に混じっている茎やそばの花弁の乾燥したものや小石などを取り除き、磨きをかけてきれいにすることです。この工程で有機JASマークを付けられるようにするための自社調整工場を持つには、大型の機械が沢山必要で、数千万円の設備投資が必要なのです。それを回収するためには有機そばの生産量を何倍にもする必要があります。我が家がそこまでのことをするためには、他の作物の栽培を止めなければ難しい。それじゃあ、有機そば専門の農家になりたいか、というと、そうではありません。なので、当面は有機JAS圃場で生産したそばですが、農協さんの加工場で調整作業などをしてもらうという過程を経るので、有機JASマークを付けることはできないのです。
焦らず1歩1歩
粉にする過程も一つではなく、昨年入手した我が家の小さな製粉機で製粉したものも、農協さんのむき実工房でそば殻を外す作業をしてもらったものもあります。来年にはむき実にする機械を手に入れたいと思っていますが、その機械だけで安くても50万円以上。ため息が出ますね。
また、10割そばの乾麺の製造を専門業者に委託し、今ちょうど製造してもらっています。6月中旬以降からの販売を目指しています。そば茶も委託製造してもらって販売準備中で、5月中旬には販売を開始します。
本当は自分たちで加工もできるといいのですが、いかんせん経営危機なので、投資が思うようにできません。歯がゆい思いですが、焦らず一歩一歩。
この冬は大雪でした。最大積雪量は265㎝。とはいえ、朱鞠内の過去のデータをひも解くと。なんと平年並み。屋根の雪下ろしも除雪作業も大変だったなあと思うのですが、毎年やっているんですね。ようやく少しずつ雪が減ってきましたが、それでも土が出るのは5月10日頃になるでしょう。我が家の千鳥桜の開花は、5月20日以降。忙しすぎてなかなか花を見る暇もない、あわただしい春なのです。
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みやはら・みつえ/ 北海道川上郡標茶町出身。学生時代写真部に所属。写真スタジオのアシスタントを経てフリーランスに。日本人女性唯一の大型野生動物の写真家としてアラスカの自然と野生動物をライフワークに取材を続けていた際、現在の夫と出会い、結婚。冬季のアラスカネイティブ社会で生活した経験を持つ。 狩猟採集の生活をベースに自然と共に暮らす生き方の実践のため現在の朱鞠内に1997年新規就農。現在耕作面積約60ha、そのうち約3haでEMを使った無農薬無化学肥料栽培で数十種類の野菜の栽培も行っている。
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