EM普及協会だより

微生物の力で育む自然農法米
~南さんの化学肥料、農薬を使わないお米づくり<その2>EMでの除草対策を確立してきた多くの先達たち~竹中純夫さん

雑草抑制のカギは”自然の理に叶っていること”

自然農法に携わって以来今日まで、一軒一軒の農家さんの取り組みをEM活用技術の基礎となるよう積み上げ、広く提供できる普遍的な農業技術にすることが私たちの仕事、として事例を集めてきました。しかし、今悔やまれることは、今日までEMを活用して雑草抑制に成功された農家の取り組みを「あの方だから出来たことで私には出来ない」と思い込み、自身では実践してこなかったことです。少しずつ雑草に対する学びを重ねる中で、EMを活用して雑草抑制に成功された農家の取り組みには、必ず自然の理に叶った所があり、成果が出ていることが分かって来ました。

もっと早くこのことに気づけば、さらに多くの農家さんの除草時間の軽減にお役に立てたのではないか――
その反省を生かし、過去EMを除草に活用してきた先達の一人、竹中先生のことを当時の農業事情をまじえてつづります。昭和時代の農業の原風景にお付き合いください。

1952(昭和27)年 研修会にて

 

慣行農法から自然農法へ~竹中先生の転機

1952(昭和27)年 実りの光景

(財)自然農法国際研究開発センター時代、私が担当した北陸4県の中で最も早くEMを活用して除草時間の軽減に成果を出されたのは、福井県敦賀市で教員をされながら自然農法に取り組んでおられた竹中純夫先生でした。現在は(公財)自然農法国際研究開発センター

もともと慣行農法をされていた竹中先生が自然農法に舵を切る決心をされたのは、それまで田んぼを管理していたお父さんがなくなったことと、奥さんの病気がきっかけでした。奥さんに対する愛情の深さと、現職の校長先生が泥まみれになって自然農法に取り組んでいる姿に大変感動したことを良く覚えています。平日は教職、休みの日は農家という二束のわらじで自然農法に取り組みはじめた先生は、学校の落ち葉を集めて軽トラックで運んで堆肥にして活用し、早朝と夜に除草作業を行っていました。その頃、幸いなことに田んぼの近くに自動車教習所が開校したので、夜はその灯りをたよりに除草作業を行ない、大変苦労しながら自然農法に取り組んでおりました。

EMを活用した除草作業に年老いた母も納得

1986年11月に福井県福井市で開催された第4回「健康な食・農・土を考える」シンポジウム「稲作の雑草抑制・安定生産技術の事例報告」の中で草取り、堆肥づくりの作業について、次のようにお話されています。以下、引用です。

(前略)一番草、二番草の二回の草取りの作業でございますが、当時の勤務では日曜土曜日を勤める事が非常に多くて、平日の夕方しか草取りの時間がなかったのであります。夕方5時半から暗がりの7時半頃まで、又は8時まで、自動車学校のライトが明々と灯されるので、身体の調子の良い時には9時頃迄草取りを続けたのでございます。通行の人達はちょっと頭が狂ってきたんではないかと言われ、そういう言葉が飛んで来たわけでございます。それはその筈でございます。必死になって暗がりの縦100メートルの田圃(たんぼ)の中をゴソゴソ這い廻っているんですから無理からん事でございます。
草で一番悩まされた草は、マルスゲという草でございまして、これはリンパ状に繁殖致しますので、取ったマルスゲを土の中に埋める事が出来ないわけです。それでカナダライ(金たらい)の小さいのを用意致しまして、一杯になると畦道まで歩いて運び捨てなければならなかったので、草取りの手間は、倍以上かかったわけでございます。
見るに見兼ねた母が自主的に手伝いに来ます。あまりの草に独りでに出る言葉でしょうけれど、「この年になってまだこんな事せんならんなあー」と、プツプツこぼします。いやなら手伝って貰わなくてもいいわという強気の気持ちと、やっぱり一枚だけにしようかなあーという、そういう弱気の気持ちが交錯しておりました。
こうした矢先の時、自然農法での有効微生物利用、EM菌の勉強会にお誘いをいただきました。又加えてその後、比嘉教授直々の御講義を拝聴出来たばかりでなく、翌日は、比嘉教授が田圃にまでお出ましをいただき実地指導を受ける事が出来ました。
地獄の中で仏に出会ったとはこの事を言うのでしょうか。比嘉教授の御講演の中で従来の農業技術体系とは座標軸が根本的に異なっている。と言う事は、病気を起こすグループ、悪い菌を食べるグループ、両方の中間に、有害な物、乳酸菌の様なもの、有害な物を有効にする、アゾトバクターという言葉が印象に残りました。
そして、更にEM菌利用によるその経済性を説かれたのであります。私が今迄やって来ました、一週間に十日働かないととても作業が間に合わない、そんな自然農法は、理念は正しくても方法に間違いがあるのではないか。このお言葉に深く感動し、心に何時までも残る事となったのであります。 比嘉教授の出発点に大いに賛同すると共に、EM菌の実践には、より忠実にやらせていただこうという事を誓ったわけであります。
取り組んだEM菌の効果を申し上げますと、例によって母の言葉から紹介したいと思います。「田植えから大分たったがなあー、そろそろ草取り草取りいうんやがないかえー、二、三日手伝ってやろうか」「おう、ほんなら頼むわ」。こうして田圃に行って貰いました。夕方、早速報告がありました。「マルスゲもないなあー、もう生えておらなんだぞー、草取りせんとカラスのおどしをして来たわ」。わざと口で説明しないで母の目で確かめて見て貰おうと思ったので、この方法をとったわけであります。
(中略)やはり一番良かったのはマルスゲという草が一本も無くなったという事、そしてその草取りの日数というものが75%も減少した、堆肥作りの重労働もなくなったお蔭で、後継ぎも確保出来た。収穫高も今年は減少する農家が多かったわけですけれども、我家は昨年よりやや良という成績を得ました。(以下略)(原文ママ:「新しい農法の可能性を探る 自然農法普及双書」第7集より)


この引用の中で書かれている除草時間が75%減ったことは、今思うと非常に理にかなったやり方を実践されて成果に結びついていることが分かります。そのポイントと思えるのは、収穫後の秋処理のやり方が微生物の働き方を中心として作業を行なっている点です。

  • 秋のEMの散布時期はコンバインでほ場に散布された稲わらが乾燥して水分が含みやすい状態まで待って夕方に散布し夜露と一緒に微生物を稲わらに浸透していくような作業を行なっている。
  • さらに、耕起後もほ場にEMを散布し微生物の密度を高め、稲わら等の有機物の分解に努めている。
  • 微生物の働きを優先して作業を進めている。(自分の都合を優先しない。)


また、EMを使うことで手間が抑えられるようになったのは、除草作業だけではありませんでした。

堆肥づくりの苦労もEMで軽減

専業農家が多かった昭和時代中頃まで、家の手伝いをするために春と秋の数日間学校が休みになる農繁(のうはん)休暇というものがありました。前回お話した通り、当時は家族総出で親戚や近所方の手も借りて農作業をしていたため、子どもと言えど手伝うのは当たりまえ。小さくても重要な労働力でした。しかし、時代が変わって昭和後期には農繁休暇を取りやめる学校が増え、子どもが農作業を手伝う機会も減りました。平日仕事をしているうえに土日に農作業をしなくてはならない兼業農家ともなると、身内だからこその遠慮のない言葉が飛び交い、果てには後継者問題に発展することもあります。

1989(昭和64、平成元)年の田植え

慣行農法でも自然農法でも農作業には時間と手間がかかり、堆肥づくり一つとってもいくつもの工程があります。農業を続けるためには、家族の協力と理解が必要なのです。以下にあるとおり、竹中先生も家族の理解を得るためにご苦労なさったようです。

(前略)先ず堆肥づくりの労働の苦しさを経験しました。コンバインで拡散された稲藁をフォークで掻き集める作業、夏に刈り取った萱、葦を押し切りで細かく切る作業、稲藁、萱、葦、米糠、籾殻、菜種かす、そして醗酵を促進する促進剤という事でコーラン※を混ぜまして、五メートルの円形に背の高さ迄積み上げる作業、こうした作業は一人では出来ませんので、長男の息子に八、九、十の三ケ月は日曜日には農作業に当てる事、こういう事で我家の非常事態を宣言致しました。息子の協力を得てどうにかこなせる事が出来たわけでございます。 春三月には、この積み上げた堆肥を又拡散しなければなりません。拡散作業の手間も又加わります。こうした事も大雑把ですから完熟堆肥とはいえません。いろいろわかっておるんですが、時間の都合上出来ません。そうしますと代掻きや田植えの時、又その後苗を補植する時に、株が固く残っておりましてゴム靴に引っ掛かったり、ゴムの手袋に穴があくという事で、母は田植えの補植を手伝ってくれますけれども、いつも苦情を言っておりました。  又、一方息子の方は堆肥づくりの手伝いについて、暑い時に葦や萱をからなきゃならん、押し切りで切る、この作業、円形に積み上げる作業、「よそで一遍もこんな事やっておらん、僕の代になったらこんな事辞めるぞ」という淋しい言葉も聞かされるようになりました。(以下略)※ 香蘭産業が製造販売する微生物醗酵腐熟促進剤。(原文ママ:「新しい農法の可能性を探る 自然農法普及双書」第7集より)


EMがなかった頃は、稲わらに草などを混合して発酵剤を入れて堆肥を作っていました。 EMのすごいところは、稲わらや落ち葉、草などを積み上げ、米ぬかなどの発酵促進剤を入れて水分を加えて熱が出てきたら切り返す、といった作業を行なわなくても、微生物の力で発酵分解が進むこと(第1回の稲わらの分解の写真参照)だと思っています。 竹中先生はEMを活用することで堆肥作りの重労働からも解放され、先にお話ししたとおり除草時間も大幅に軽減されました。 以下のグラフを見れば、除草にかかる時間が年を経るごとに減少し、米の収量は増えていることが良くわかります。
発酵が始まっている発酵途中の堆肥を積み替えること。水分の蒸散や好気性微生物へ酸素を供給し、分解の促進をはかることを目的に行われる。

<図表1>竹中先生の除草時間 及び 収量の推移

EMで雑草対策をすると米の収量が増える

2019年にシンポジウムを開催するにあたり、私たちはEMを活用して自然農法に取り組んでいる農家の調査を行ないました。EMを活用して1~2年目の農家の報告の中で多かったのは、以前に比べれば除草時間が減少しているという結果でした。他にも、ほ場の土が軟らかくなった、草が取りやすくなった、雑草の繁茂している所と生えていない所が出てきた、など何らかの手応えを感じているようでした。

その当時報告されていた草の種類は、タカサブロウ、コナギ、タイヌビエ、ミズガヤツリ、ウリカワ、ホタルイ、ヒルムシロ、マツバイ、オモダカ等でした。

タカサブロウ

コナギ


EM活用以前は除草に10a当たり25時間前後かかっていた方が4~5時間で済むようになった話を聞いたときは明るい未来が開けたような気持ちになり、取り組む意欲もより湧いてきました。

収穫量もEM活用以前より10a当たり30kg以上増収している農家が多く、中には約600kg収穫した農家も現れました。私のほ場でもEM活用以前は10a当たり240kgだった収穫量が、10a当たり395kgまで上がりました。下の<表2>は、1990年(EM活用3年目)に竹中先生が作成したコシヒカリ生産資材費と収穫量を比較したものです。EMを使用した田んぼは、農協の資材を使用するよりも費用を抑えられた上、収量が増えたとのこと。

<表2>1990年 10a当たりの資材費と収穫量を比較
※資材の価格は当時のもの
  有機物肥料 EM資材 化成肥料 農薬関係 合計 収穫量
竹中実費 1,682円 18,778円 0円 0円 20,460円 460kg
農協参考 0円 0円 21,094円 13,671円 34,765円 448kg
農協比較 58.9% 103%

竹中純夫先生の耕種概要(1989年度)

1990年頃から使い始めた水口に備えたEM点滴装置。入水時にEMを点滴で落としほ場に入れるやり方

最後に竹中先生が行った作業の記録をご紹介します。作物を作るということは一年単位で行うもので、作業する地域や土壌、またはその年の気候によって結果が変わります。一人で検証しようとすると、10年で10回の検証しかできないのです。そのため、私たちは農家さんが残してくれた記録をとてもありがたいものと思います。

以下に示す<表3>は竹中先生の1989年度の作業記録です。
気温や降雨量など2024年の現代とは気象状況も異なりますが、何か一つでも自然農法で米を作る方の参考になれば幸いです。

<表3>竹中先生の作業記録(1989年度)
自然農法年数 11年 11年
EM実施年数 2年 2年
品種 フクヒカリ(15a) コシヒカリ(24a)
投入有機物 <前年度> <前年度>
9/24 稲藁全量 9/23 稲藁全量
10/2 モミガラ全量 モミガラ全量
米糠 80㎏/10a 米糠 50㎏/10a
油粕 33㎏/10a 油粕 33㎏/10a
葦 66㎏/10a 葦  63㎏/10a
耕起 秋のみ(9/24) 秋のみ(10/9)
代掻き 1回のみ(4/30) 1回のみ(5/4)
田植え 5月3日 5月9日
有効微生物群(EM)

水1000Lに
希釈して施用
施用日 EM・1 EM・2 EM・3 施用日 EM・1 EM・2 EM・3
4/19   2L 1L 4/25   2L 1L
        6/22   2L 1L
7/10   2L 1L 7/9   2L 0.5L
7/16   2L 0.5L 7/16   1L 0.5L
9/24 2L     9/24 2L    
10/2 1L     10/8 1L    
11/10 1L     11/10 1L    
施用量合計 4L 6L 2.5L 4L 7L 3L
刈り取り 9月9日 9月23日
<表4>竹中先生の除草時間 及び 収量の推移
品種 EM施用 除草時間合計
10aあたりの
除草時間
(H/10a) 
10aあたりの
収量
(㎏/10a) 
フクヒカリ(15a) 58H 38H 350㎏
1年目 30H 21H 420㎏
2年目 7.5H 5H 380㎏
コシヒカリ(24a) 133H 55H 350㎏
1年目 47H 19H 394㎏
2年目 44H 18H 412㎏

 


<PROFILE>
みなみ・としお / 南 都志男
自然農法指導員・有機JAS認証農家。1954年から自然農法を実施。自然農法水稲栽培実施面積126a(8筆)。EMを活用して秋処理、複数回代かき、田植え後田面施用により抑草。以前は揺動型歩行除草機を活用していたが、現在はほぼ無除草で栽培。
元 (公財)自然農法国際研究開発センター評議員。元(株)EM研究所役員。