ベストセラー『土の文明史』『土と内臓』に続くD・モンゴメリー博士の第3作目。
同じ土でも、地質を読み解くのか、土壌の生態を解明するのか、農地として扱うのか、視点によって答えは違う。地質学者の博士が農業分野に目を向けたのは、病を得た園芸家の妻が有機農業を始めたことに始まる。この経緯は『土と内臓』(築地書館)に詳しく書かれているが、目の前で展開する土壌の変化に眼を見開く様子は実に愉快だ。地質学者の博士が土壌の生物的性質に目を向けたのだから。
そして、博士は考える。化学肥料を使わない有機農法の収穫量が慣行農法に匹敵するのは、土壌にあるのではないかと。その実態を探るために世界各地の有機農家を訪ね歩く。
そのレポートは世界にはユニークな農家がたくさんいることを教えてくれる。行きついた結論は土を耕さない不耕起、農地を休ませない輪作、牛との畜農連携。日本を含むアジアやアフリカの伝統的農法だった。
ことに土壌微生物と根の相関関係に注目して微生物と根が土を耕すという結論は従来の農法のコペルニクス的転回で刺激的だ。つまり、土壌微生物を増やし、土と微生物の関係をよりよく保つような農業習慣に変えるだけで、世界に食糧を供給し地球温暖化も防げると結論づけている。
また、これまで農業が自然を克服するものとして近代化をすすめてきたが、これからは自然に沿った方法で土壌の生産力をあげることを提案している。第10章の中でエクアドル政府が取り組んでいるEM農法も取り上げられている。ボカシ肥料など日本発の有機農法や自然農法の技術や知恵が世界の農業に変革もたらすのではないか?そんな期待が持てる良書。
なお、この本をベースにしたドキュメンタリー映画『君の根は。大地再生にいどむ人びと https://www.yukkurido.com/towhichwebelong』が日本でも自主上映されている。本書とともに映像で見ることをおすすめしたい。
(文責:小野田)
土・牛・微生物-文明の衰退を食い止める土の話
デイビッド・モントゴメリー(著)/ 片岡 夏実(訳)
出版社 : 築地書館 (2018/8/31)
発売日 : 2018/8/31
言語 : 日本語
単行本 : 352ページ
ISBN-10 : 4806715670
ISBN-13 : 978-4806715672
【目次】
序章
第1章 肥沃な廃墟―人はいかにして土を失ったのか?
第2章 現代農業の神話―有機物と微生物から考える
第3章 地下経済の根っこー腐植と微生物が植物を育てる
第4章 最古の問題―土壌侵食との戦い
第5章 文明の象徴を手放すときー不耕起と有機の融合
第6章 緑の肥料被覆作物で土壌回復
第7章 解決策の構築—アフリカの不耕起伝道師
第8章 有機農業のジレンマー何が普及を阻むのか?
第9章 過放牧神話の真実―ウシと土壌の健康
第10章 見えない家畜の群れー土壌微生物を利用する
第11章 炭素を増やす農業―表土を作る
第12章 閉じられた円環―アジアの農業に学ぶ
第13章 第五の革命
謝辞/訳者あとがき/参考文献/索引