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農業が温暖化を解決する! 農業だからできること

日本の年平均気温は100年あたり1.31℃の割合で上がり、地球温暖化ではなく地球沸騰化と呼ぶ事態になったといいます。たった1℃と思われますが、この1℃の上昇が自然環境に与える影響は計り知れません。高温や渇水、あるいは洪水などの影響を直接受けているのが、いうまでもなく天候や気象条件に大きく依存する農業です。

国立環境研究所気候変動適応センターhttps://ccca.nies.go.jp/ja/index.html が運営している「気候変動適応情報プラットフォーム」https://adaptation-platform.nies.go.jp/ では農業への影響を以下のように分析しています。

  1. 各品目で生育障害や品質低下などが起こる
  2. 水稲の品質低下、収量の減少
  3. 果樹は気候への適応性が低いため、既存の果樹は気温上昇に適応できない
  4. 麦、大豆などは生育期間が短くなる
  5. 露地野菜では収穫期が早まる傾向にあり、生育障害の発生頻度が増加
  6. 畜産では牛や豚の生育や肉質の低下、鶏の産卵率の低下など。

 

今までの農業技術では、温暖化によって広範囲に広がる病害虫や、ゲリラ豪雨による農業生産地盤の崩壊は対処が難しいのは明白です。

この本では、温暖化の最大の被害者は農業だが、一方で、農業自体も温暖化の加害者である、ということを指摘しています。農業・林業・その他土地利用からの温室効果ガス排出は23%で、世界全体排出量の約4分の1を占めています。
その排出量の内訳は、CO2が約13%、メタンが約44%、一酸化二窒素が約82%。中でもメタンや一酸化二窒素はCO2より強力な温室効果ガスであり、家畜の飼育方法、たい肥製造の増加、窒素肥料の使用が原因です。特に注目すべきは一酸化二窒素の排出量で、このまま増えると世界の平均気温は今よりも3℃をはるかに超えて上昇することも予想されています。

そこでにわかに注目を浴びているのが、環境再生農業(リジェネラティブ農業)です。農業のやり方を変えて地球の温暖化を防ぐだけではなく、環境そのものを再生していく。
その方策として土を耕さない「不耕起栽培」、土壌を覆う「被覆作物の活用」、異なる作物を周期的に栽培する「輪作」などだ。また、合成窒素肥料を使わない「有機農業」、牧草地をローテーションしながら放牧する「ローテーション放牧」、木や多様な植物と家畜を組み合わせる「森林農法」などが提案されています。

筆者が特に注目しているのが、「バイオ炭」です。バイオ炭は、バイオマス(木や竹、穀物の茎、草から落花生の殻まで)を低炭素または無酸素状況で蒸し焼きしたもので、多孔質の微細構造を持つため、微生物やミネラル、水分子を保持し、土壌改良剤としての効果を発揮すると期待されています。日本政府も「たい肥や緑肥等の有機物やバイオ炭を施用して土づくりを行うことにより、農地、草地土壌の炭素貯蔵留亮が増加する」としてその効果を認識しています。

バイオ炭を作る際にEM活性液で消火してEMをしみこませて作った「EMバイオ炭」(連載「おしえていまむらさん!サツマイモ農家も実感!EMバイオ炭の効果」より

温暖化とは、主に化石燃料を掘り出して燃やすことでCO2が大気中に放出されることからおこる現象だ。であれば、その逆のことを行えばよいのではないでしょうか。
つまり、大気中のCO2を植物に吸収してもらい、それをどんどん炭化して土中に埋めるのです。実に単純なものですが、真理はしばしば単純であり、しかし単純ゆえに見逃されがちです。
これを農業で行うのです。

最後に筆者は、農業の異変で生命の危機にあるともいえる消費者に対して、有機農業や環境に配慮した農業生産や消費にかかわる現状を学ぶことと、有機農産物を買ったり育てたりすることを提案しています。
農業は温暖化の「原因」だが、私たちに「食べ物」を提供してくれる「救いの女神」となりうるもの。この女神が大いに活躍できるようにみんなでリジェネラティブ農業を支え、推進し、応援しようと呼びかけている。農と食の様々な可能性に希望を託します。


農業が温暖化を解決する!農業だからできること 
枝廣淳子著

出版社 : 岩波書店
発売日 : 2024年6月5日
言語 : 日本語
単行本 : 72ページ
価格:693円(税込み)


【目次】

序章
第1章 温暖化の「原因」としての農業
第2章 農業由来の「温暖化の原因」を最小化する 一 世界での取り組み
二 日本の取り組みの動向
第3章 温暖化の「解決策」としての農業
一 世界に広がるリジェネラティブ農業
二 団体、企業、政府の取り組み
三 バイオ炭の可能性
終章――消費者の役割

農業が温暖化を解決する! – 岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/book/b646706.html